「電力の転換なしに、安心な暮らしはない」日本の電源運用レベル向上を目指すオリックスの挑戦

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自然環境の危機から生物多様性の危機、食料の危機、安全保障の危機、人権の危機まで……さまざまな危機をもたらしている気候変動。この問題に立ち向かうためには、人々をワクワクさせる創造的なアイデアや、人々に新しい視点を提供する創造的な表現とコミュニケーション、デジタル技術を活用した創造的なビジネスモデルの創出といった一人ひとりのクリエイティビティ(創造性)が必要なのではないだろうか。

そうした想いから、IDEAS FOR GOODは株式会社メンバーズとのシリーズ「Climate Creative」をスタートした。今回は第2回目として、オリックス・リニューアブルエナジー・マネジメント株式会社(以下、OREM)の百合田氏への取材記事をお届けする。

話者プロフィール:百合田 和久(ゆりた・かずひさ)氏(オリックス・リニューアブルエナジー・マネジメント株式会社 副社長 兼 戦略責任者)

“百合田和久氏”2013年オリックス株式会社。入社後は、開発業務、発電所建設のVE(Value engineering)業務を担当、アセットマネジメント体制を構築。2018年、オリックスの保有するメガソーラーの運営責任者を務める傍ら、太陽光発電所のテクニカルアセットマネジメント業務および運営・維持管理業務を担うOREMの設立を戦略責任者として牽引。2021年 、OREMの執行役副社長に就任、現在は、太陽光電源の主力電源化に貢献するビジネスデザインに取り組んでいる。

以下は、株式会社メンバーズ萩谷氏による、百合田氏へのインタビュー。

太陽光発電などの再エネは、ビジネスとして有望

Q. まずは、オリックスが太陽光発電などの再エネに注力する理由を教えてください。

オリックスが国内で保有する太陽光電源容量は1GWp程度、国内全体の2%程度となります。オリックスはリース事業からスタートして隣接分野に進出し、現在では多角的な事業展開を行っています。

その中で、本領域への活動がある程度の規模に至ったきっかけは、固定価格買取制度により、20年間の売上がコミットされているという国策の発令に依拠してのことと考えます。土地を確保し設備を整え管理する、そのコストと、20年間の買取額(売上)から内部収益率が5%以上を見込めたことが、当社が一気呵成に経営資源を投入した理由だと思います。

これは、わが社だけではなく、2012~13年当時、「脱炭素」や「RE」といったキーワードはまだ誰も口にしていませんでした。しかし、世界の国々がカーボンニュートラルを宣言し、将来、日本も再エネが主力電源となることが不可逆的に決定されたことを受けて、アセットビジネスという要素に対して新たな意味づけが付加されていくことになります。

電気代は、国の国際競争力を決める重要なファクターのひとつであり、その電源が高コストな再エネに置き換わる事が決まったのです。つまり、今まではアセットビジネスとして期待収益に到達していれば良かった太陽光ビジネスは、無限のコストダウンにチャレンジし続けなければならないことが宿命づけられたのです。

みんなが使う電気を安く提供したいという綺麗ごとではなくて、安い電気料金を提供しなければ日本の国際競争力は失われることになります。私の業務に置き換えるならば、売上は固定価格で決まっているので、運用をブラッシュアップすることで利益を最大化すること、生産性の高い管理手法を構築することが、将来の電気代低減に資することだと解釈しました。

企業人ですので、個人の思いを述べるのは憚れますが、私は「次の世代にバトンを託す前に、今の低調な太陽光電源の運用レベルをどうにかしたい。」という使命感をもっています。

再エネが主力電源に転換することは、エネルギー調達のリスクに晒されず次世代が安心して暮らせる社会の実現につながります。しかし、現行の未成熟な電源運用レベルでは 電気代は高騰し、国家競争力は地に落ちてしまいます。次の世代の子どもたちが、自分の生まれた国で、私の世代が享受した安心と豊かさを同程度に享受できないリスクを負うことになります。

もっとも、リスクが顕在化していることは悪いことではなく、この問題点を機会ととらえ、新しい電力を安く自給することができれば、日本は再び蘇ることができると考えています。この点において強い使命感を持って臨んでいます。

管理発電所:新潟県四ツ郷屋発電所

管理発電所:新潟県四ツ郷屋発電所

受託者として運営・維持するだけでなく、発電事業主の高効率な運営実現を目指す

Q. そうした中で、なぜ太陽光発電所のオペレーション&メンテナンス(以下、O&M)に着目しましたか?

オリックスに入社した2013年当時、太陽光発電設備のクオリティを高めコストを下げることに取り組みました。次に着手したのが当時の弱みであった運営・維持管理業務の改革でした。7年前のことです。発電設備を作った後、発電所の長期安定稼働を実現するために必要なオペレーションやマネジメント体制が弱ければ、誰かがそれを強化する必要があると考えました。しかし、地味な仕事で誰もやりたがらない、では自分がやろう、と思いました。

Q. 太陽光発電のO&M会社は他にも存在しています。競争優位性はどこにあると考えていますか?

O&Mは、発電事業主さまからお金を頂いて発電所の運営・維持管理を行う業務です。現在、これは大きな市場として成立しており、かつ参入障壁が低いビジネスです。さらに、2010年代当時は、新しい産業で担い手が少なかったため、契約は安易に獲得でき、事業主側も運営管理の品質差異にまで考えが及んでいなかった時代でした。そのため、受託者としても定められた役務のみを遂行することで大きなマージンを期待できるビジネスでした。O&M各社は、契約獲得にリソースを傾注し、肝心の発電所に対するリソースを軽視する傾向にありました。残念ながら、今もなお、潮流は大きくは変化していない実感を持っています。

当社はこの点に課題意識を持ち、発電事業主自ら高効率な運営を行うためにオリックス・リニューアブルエナジー・マネジメント株式会社を設立しました。OREMは、発電量の最大化と運営・維持管理費の低減をコアバリューとして掲げています。発電量を経済合理性範囲で最大化できれば、自然と淘汰されないサービスを生み出すことができるという考え方で、O&M会社として事業開始しました。具体的には、予防保全型のメンテナンスやO&Mのデジタル化で、発電事業主さまの売電収益良化を実現しています。(全受託発電所の平均で、発電量向上比率は前任のO&M会社比較で4%UP)

こうした発想で会社が成り立っていますので、社員教育の内容も異なります。OREMでは、社員のアクションにどのくらいのコストが掛かっているのかを、社員全員が意識していますし、そのアクションをすべてデータで管理しています。そして、それらのアクションに掛かるコストは毎月見直し、是正措置に対するコストとその措置をしなかった場合の発電ロスをすべてAIで算出しています。つまり、そうした算出結果に基づいて意思決定をしているわけです。

通常、発電事業主さまは売電収益を良化させるために、できる限りの対応をして欲しいと考えます。一方で、O&M会社は、自社の利益をより多く確保するためにO&M契約に定められたサービス提供範囲で対応し、発電事業主さまの売電収益良化の提案までには至らないことが一般的です。しかし、私たちOREMは発電量を最大化する策を施すことができるので、発電事業主さまに「効果>コスト」を明確化した是正措置を提案し、追加対応を促すことができます。

そして、発電効率を上げることによって、発電事業主さまの手元に多くのお金が残ることを目指しています。それを私たちは生産性と呼んでいます。金銭を払う側は、できるだけ使役したい。金銭を受領する側はできるだけ費消を減らし利益を留保したい。お金を払う人と貰う人とでは、コンフリクトは宿命づけられています。

この原始的なコンフリクト構造を解消するには、簡単ですが 同じ方向を目指すマネジメントスキームを導入するしかありません。OREMの場合はLCOE(Levelized Cost Of Electricity:均等化発電原価)というメソッドを活用し、本質的な生産性向上を実現しました。

サービス提供プロセス

サービス提供プロセス

ゆえに私たちはO&Mの受託量で他社と競う考えはありません。受託している発電所の手残りCASHを過去1年よりも、今年の残高を増やすことを目指しており、競争相手は昨年の自分です。サービスは定量化できないという考えがあるかもしれませんが、サービスは定量化が可能であり、定量的な判断に基づき評価されるものだと考えています。

方法論はすべて開示、日本の電源運用レベル向上に貢献したい

Q. O&M費は、できる限り抑えたい経費としてコストと捉えられがちですが、発電効率を上げるための投資と捉えるということですね。

私自身は、O&Mを受託するOREMの収益責任と、発電事業主側としてのメガソーラーの運営責任者も務めていますので、両方のバランスで収益を上げています。まさに、投資のためのテクニカルアセットマネジメントとなります。今日時点の日本においては、我々の方法論が最も競争性と合理性を有しており、具体的な方法論は、書籍や講演、勉強会を通じてすべて公開しています。これは前述の通り、我が国の電源運用レベル向上に貢献したいという考えに基づくものであり、また、簡易に真似はされないであろうという自負によるものです。

なぜならば、現場でネジを締め、補修をする最終行為~数億円の体制構築を計画する業務~数百億円の収益向上を企図計画する業務までの一連を想像する力を持っている組織はあまりないと思われるからです。

我々オリックスは、現場―中間―高度決定までの距離感が会社の規模からは想像できない程に短い、そういう企業風土があります。小手先の方法論は模倣可能であり、模倣いただくことも一定のメリットがあると思いますが、企業風土までは模倣ができないと考えております。

このビジネスは、人財・マネジメントデザイン・IT活用という3要素がいかにバランス良く多重層的に混合されているかで成否が決まるもので、そのビジネスモデルに応じた会社の仕組みが必要になります。OREMは、オリックスグループの既存規定に縛られず、ITガバナンスや人事報酬モデルなどをゼロから策定してします。

そういうことが許されるのも前述の風土が起因していると考えます。ガバナンスやルールがこの産業とビジネスに沿ったものを設計できないのであれば、ビジネスモデルを真似ても 同じような成果結実は簡単ではないと思います。

ITインフラの優位性も非常に高いと考えています。この会社を立ち上げた時にまず考えたことは、ルーティンワークと呼ばれる作業をなくしたい、社員には意味ある仕事をして欲しいということでした。発電所のデータ分析は、高度なシステムがなくても対応可能です。しかし、システムが整備されていなければ社員による膨大な手作業が必要になります。これまで3~4時間かかっていたアナログな対応も、システム整備によりワンクリックで必要なデータにアクセスすることが可能となりました。

つまり、ルーティンワークや判断材料を揃える作業をシステムに任せ、社員は意思決定など意味のある業務を担うべきと考えました。これまでは、『判断材料を揃え、対策を策定』するという業務について、手作業で行っていたので判断材料をそろえるまでに全体の90%の時間をかけていましたが、90%の時間をシステムにより消滅させたわけです。また、判断材料を揃えるプロセスに人が関わると、そこには主観的な判断が入ることもあります。また、個人に頼ることは、業務の属人化も引き起こしますので、積極的にDX化を進めました。現在、本社には6人のエンジニアが在籍し、データ分析担当は実質1名で、かつ輪番制で対応できています。インフラ整備前の体制と比較して、当該部分の工数は1/10となりました。こうした積み重ねが生産性を高め、収益を向上させるコツと言えます。

私たちOREMのビジネスは発電所の運営です。運営に費やす人の役割は非常に大きなものとなりますので、収益を上げるためには、優秀な社員を確保し、良いチームを作ることが必要です。優秀な社員を獲得し、維持するためには、職場環境や仕事の意味、やりがい、楽しさなど、さまざまな要素が求められます。

本ケースでは、膨大なデータを収集分析するのに所要した多くの手作業から、DXを進めることで社員を解放する。そして、発電効率を上げるための工夫に社員の情熱と意欲を傾注させられるようにすることで、良い人財に意味のある仕事を提供でき、結果として事業成果が上がっていったという事例になります。

OREMが独自開発した遠隔監視ソフトウエア:モニタリング・AIデータ解析ソフト

OREMが独自開発した遠隔監視ソフトウエア:モニタリング・AIデータ解析ソフト

DXの意思決定者が現場のオペレーションやワークフロー、データなど全体像を把握していることが重要

Q. DXのプロジェクトを進める上での課題はどのようなことですか?

DXは、すべての業務内容やデータを把握していなければ、何をDX化するのか判断できないため、DX化の難しさを実感しています。先ほどお伝えしたように、発電所1カ所のデータの分析に3~4時間の時間をかけていたからこそ、何をシステム化すれば良いのかをデザインできました。世の中のDXが失敗する大半の要因は、DX化の意思決定をする人間が現場のオペレーションやワークフロー、データの把握までできていないからかもしれません。

Q. 情報システム部門の管理者や経営がすべてを理解しているということですね。

私たちOREMにシステムやセキュリティを取り扱う部門はありません。DX化を進める上での前提条件は私がまとめていますが、どのようにDXを進めるか、先ほどの発電データの分析システムは、最終的なベンダー選定なども含めて、全て現場の担当者にプロジェクトマネジメントを任せました。社内のDX化が成功すれば、そのプロジェクトを担当した担当者自身の業務が楽になるため、当事者が使いやすいものを考えさせるという発想です。

同様にOREMの採用面接も着任する部署の直属の上司が行います。採用後、スムーズに仕事が進められるかどうか、意思決定は現場に委ねています。採用を誤れば、当事者を含めた部内のメンバーが苦労する、つまり、権限移譲とともにビジネスの結果責任も移譲してしまうというマネジメントルールがポイントとなります。

Q. 日本国内では、環境保全や災害対策の観点から、メガソーラーに対する風当たりが強くなっていますが、そこについてはどうお考えですか?

メガソーラーの開発が自然環境に与える影響は少なくありません。太陽光パネルの生産時には、多くの温室効果ガスを排出していますが、発電所の建設後は、温室効果ガス排出削減の面からは地球環境に貢献できると考えています。経済合理性や温室効果ガスをオフセットするという側面からも、できる限り長期間、発電設備を運用することが重要です。だからこそ、太陽光発電事業においては適切な運営・維持管理が必要なのです。

現在、私たちOREMでは約430MWの太陽光発電所のO&M業務を受託していますが、管理発電所の発電効率を4%向上させています。この発電効率の向上は、18MWの発電所、土地面積にして、約24万平米に相当します。つまり、その広さの自然環境に全くダメージを与えずに既設発電所の効率を高めるOREMの取り組みは、再生可能エネルギーの電源比率向上を実現する上で、新しい発電所をつくることと同等の価値があると私たちは考えています。それは、経済と環境の両面から実現する、私たちの社会貢献の一つと言えます。

百合田 和久 氏

百合田 和久 氏

Q. 再エネには追加性の考え方が重要となりますが、保守管理業務の高度化は追加性以上に注目されるべきですね。

まさにその通りです。追加性の観点から、20年と言われる太陽光発電所の寿命を35年まで伸ばすことができれば、発電量は2倍近くまで増やすことになります。私たちの推奨するO&M契約であれば、発電設備の稼働期間を35年まで伸ばすことが可能となります。稼働期間が倍近くになれば、発電量も倍近くまで増やせるということ、つまり、生産性が倍になるということです。

35年間のメンテナンスを日本のロールモデルにすることによって、日本の太陽光発電事業に対するナレッジも上がることになります。それを社会に提供していきたいと考えています。

Q. 最後に、脱炭素社会の実現に向けて、社会へのメッセージをお願いします。

このようなトピックになると一般的に話されがちなのが、規制や法律というものへの変化要請コメントになると思いますが、私自身は、大企業の経営者や政治家、官僚など、社会のルールを作る人たちに不満を持ったことはありませんし、批判もありません。ただ、大小のレベルは違えど、現行のシステムでは良い変化を起こしにくい、変化を起こすべきだと考えています。そして、それを成し遂げるのは、若者の力しかないと考えています。なぜなら、ルールで恩恵を受ける人たちに、今のルールを変えるインセンティブが働かないからです。

では、いかにして進化という変化を成し遂げていくかということになるのですが、私のやり方は簡単です。現行の発想や体制に固執することが快適な人にとっても、良化するプランを提示することで邪魔をさせない。邪魔をされないのであれば、残りは自分の覚悟で結果は決まるのですから、やりきるだけです。不満や不平、批判は何も生み出しませんし、構造としてのパワーバランスにより定まっている「正しさ」に変化をもたらしません。抵抗勢力になりうるものをも満足させる形で変化を遂げさせるという2倍の努力により変化は成し遂げられると思います。

私の個人的な狙いは、低位推移する日本の再エネ電源の運用体制に一石を投じ、我が国の国際競争力を高めることにあります。この野心を結実させるために、ビジネスとして成果を上げ、株主を満足させ続ける必要があると考えています。

企業のブランドは、社歴や営業利益、時価総額が問われる時代は終わり、価値観も多様化しています。そうした中で、分断や解列するグループが形成され、さまざまなクラスターが形成されていきますが、結局、国や地球という単位からは逃れようがない事実があります。そうであるならば、自分の地球、国、会社を住みやすくするために、これからの時代を生きる若者には、そのパワーを、前向きに使っていく逞しさと賢さを身に着けてほしいなと思います。

【参照サイト】オリックス・リニューアブルエナジー・マネジメント株式会社

Edited by Erika Tomiyama
※取材内容および所属・肩書等は2022年6月取材当時のものです

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