デジタル・サステナビリティとは?
デジタル・サステナビリティとは、デジタル技術をサステナビリティの推進に用いること、または、デジタル技術そのものをサステナブルにしていくことを指す。後者は、大きく環境的側面と社会的側面に分けられる。
どちらも重要な議論だが、本記事では後者に焦点を当てて解説していく。
デジタルの拡大と環境負荷
ペーパーレス化やリモートワークの発達など、これまで資源の使用を必要としてきたものがデジタルに置き換わることで一見エコになっているようにも見える現代社会。しかし、PCやスマートフォンといったデジタルデバイスやインターネットの使用は、見えにくいだけで実は大きな環境負荷を伴っている。
Green PeaceのClicking Clean Reportによると、2016年の時点でIT業界はアメリカと中国に次いで3番目に多く電力を消費しているという(※1)。これには、コンピューターやスマートフォンといったデバイスの生産と輸送、またデータセンターの運営や、熱くなってしまうデータセンターの冷却に使われる電力などが含まれる。
さらに、Lean ICT Reportによれば、インターネットに関連するCO2排出量は世界で排出される全体の量のうち約3.7%を占めている(※2)。これは、航空業界の排出量に匹敵する量だ。さらにこの量は2025年には2倍になると予想されており、2025年にはインターネット関連のCO2排出量は世界のどの国のCO2排出量よりも多くなるという(※3)。
特にデータセンターは、2012年には世界中に50万ほどだったが、2019年には800万を超え、その分電力消費量も大きく増えている。これは、YouTubeやNetflixといったストリーミングビデオ、またストリーミングゲームなどの発達により、データセンターに保存されるデータが増えたことが一因だ(※4)。
また、デジタルのコンテンツを使用・閲覧する際に、手に取るスマートフォンやパソコンなどのデバイスにも注目する必要がある。世界では年間約5000万トンの電子廃棄物が生産されており、そのうちリサイクルされているのは20%程度だという(※5)。
このように、エネルギーの使用からデジタル機器生産のための資源の消費及び廃棄まで、デジタルに係る環境負荷はさまざまであり、それぞれへの対策が必要とされている。
※1 Clicking Clean Report
※2 Lean ICT Report
※3 Internet Health report
※4 The Carbon Footprint Of The Internet
※5 Statista
デジタル化が生み出す社会課題
一方で、デジタル化がもたらした社会へのネガティブな影響に目を向け、是正していこうというのが社会面でのデジタル・サステナビリティである。
例えば、現在のソーシャルメディアは、フェイクニュースや過激なコンテンツが拡散されやすい仕組みとなっており、若者をはじめ、人々のウェルビーイングにネガティブな影響を与えている側面がある。例えば、1日に3時間以上ソーシャルメディアを使用する12歳~15歳の青年は、うつや不安症状などを経験するリスクが2倍になることが米の調査で明らかになっている(※1)。
また、インターネット上には「アンコンシャスバイアス(無意識の差別)」が助長されるリスクも溢れている。例えば、画像素材サイトで「家事をする人物の画像」を検索すると女性の写真ばかりが出てきたり、検索エンジンで「Beautiful woman(きれいな女性)」と画像検索をすると白人女性ばかりが出てきたりすることがあるのだ。
さらに、現在のインターネットは過去のユーザー情報をもとに、各人に最適化されたコンテンツを表示する仕組みになっているため、気づかないうちに似た情報や視点に囲まれる状態(フィルターバブル)を作り出してしまう。これにより、自分と似たような意見ばかりに影響され、自分の信じたいストーリーだけを信じ込むようになるエコーチェンバー現象も、社会的分断を生むものとして近年問題視されている。
このほか、インターネットにおける個人情報の搾取や管理の問題、またデジタルへのアクセスに国や個人差があることで生まれるデジタルデバイド(情報格差)なども、持続可能なデジタル化社会を作っていくために考えていかなければいけない課題である。例えば、2023年現在でも世界人口の30%以上はインターネットにアクセスできないことや、英語話者の比率は世界で2割〜3割程度であるにもかかわらず、インターネットのコンテンツに使用される言語の60%近くは英語である、などの言語的不平等などもこれに当たる(※2)。
※1 Social Media and Youth Mental Health
※2 Statista
デジタル・サステナビリティに対する世界の動き
こういった現状に対し、世界の組織や企業が動き出している。
国連の組織であるCODESは2022年2月に「Action Plan for a Sustainable Planet in the Digital Age(デジタル時代の持続可能な地球のためのアクションプラン)」を発行した。その中ではデジタルを「私たちの社会に多くのポジティブな変化をもたらしたが、一方では地球を破壊し、社会の不平等を固定し、人間のウェルビーイングを阻害するものになっている」と評価し、現在必要な変化として、①デジタル時代のビジョン、価値観、目標を持続可能な開発と整合させるための条件調整②デジタル技術の環境及び社会へのネガティブな影響の緩和③持続可能性を重視したデジタルイノベーションの推進をあげている。
また、近年ではウェブサイトの作り方やデザインを工夫することで電力の消費とCO2の排出を抑える「サステナブル・ウェブデザイン」が広がってきている。
私たちが日々使用しているウェブサイトは、平均して1PV(ページビュー)につき0.8グラムのCO2を排出している。つまり、例えば月に1万PVを得ているウェブサイトは、それだけで1年間に102kgものCO2を排出していることになる。しかし、逆に言うと、SEOや画像、フォントの使い方といった、ウェブサイトの仕様を少し改善するだけで、長期的なCO2排出量を大きく減らすことができるのだ。このため、環境負荷の低いウェブサイトを制作する企業や情報を共有するプラットフォームなどが増えてきている。
例えば、非営利団体のWorld Wide Web Consortiumは、2023年10月に「ウェブ・サステナビリティ・ガイドライン(WSGs)」草案を公開した。これは、ウェブサイトやデジタル製品の開発と維持において、ESG(環境、社会、ガバナンス)の原則を押さえた実用的で幅広いアドバイスを提供するもので、ガイドラインに基づいてウェブサイトやデジタル製品を改変することで、環境への影響を低減できる。
また、環境負荷の低いウェブサイトを制作するイギリスの企業Wholegrain Digitalは、ウェブの専門家たちと共にウェブサービスの提供者に向けた「サステナブル・ウェブ・マニフェスト」を制作。以下の6つがマニフェストとして提示されており、これらを実行することを約束する個人や事業者は、サイト上からマニフェストにサインできるようになっている。
- Clean(再生可能エネルギーを使う)
- Efficient(最小限のエネルギーと資源を使う)
- Open(アクセスしやすく、開かれた情報交換ができ、使用者が自分の情報を管理できる)
- Honest(デザインや内容において、使用者を誤解させたり搾取したりしない)
- Regenerative(地球と人々のためになる経済をサポートする)
- Resilient(人々が最も必要とする時と場所で機能する)
私たちができること
このように、徐々に認識が高まってきているデジタル・サステナビリティ。上記の通りウェブサイトの作り方やデザインを改善したり、個人がデバイスの使い方を工夫することで、持続可能なデジタルを作っていける。以下は、一企業や個人ができることの一例だ。
企業ができること
多くの企業が今すぐにできることとして、自社のウェブサイトやウェブサービスの構造やデザインを改善したり、コンテンツの内容を見直したりすることがある。
環境面では、まず対象となるウェブサイトがどのくらい環境に負荷をかけているのか知る必要がある。以下は、ウェブサイトのURLを入れるだけでサイトの環境負荷を計測してくれる無料のツールだ。
- Website Carbon calculator
具体的なページビューあたりのCO2排出量に加え、A+からFまでのランクをつけて評価してくれるので、自分のウェブサイトが世界平均と比べてどの程度サステナブルなのかも知ることができる。 - Ecograder
CO2排出量のほかページの重さやUXデザインについてなど、詳細なデータが得られる。また、具体的なアクションプランも複数の項目に分けて提示してくれるので、改善につなげやすい。
また、Wholegrain Digitalが出している記事では、ウェブサイトの電力消費量を下げ、UX(ユーザーエクスペリエンス)も改善する20の具体的な方法を知ることができる。
より包括的に、本格的に改善に取り組みたい場合は前述の「ウェブ・サステナビリティ・ガイドライン(WSGs)」を用いてみると良いだろう。Web業界の専門分野を総合的かつ詳細にカバーしており、ウェブデザイナーや開発者だけでなく、政策立案者、購買担当者、教師、学生など幅広いユーザーが活用できるものになっている。
ウェブサイトの環境負荷を下げるには、運営のために使用する再生可能エネルギーを使用する「グリーンホスト」を選んでいくことも重要だ。「The Green Web Directory」は、再生可能エネルギーを使用するサービスプロバイダーを500社近く掲載しているウェブサイトだ。ここから、条件に合うプロバイダーを探してみると良いかもしれない。
社会面の解決策としては、コンテンツがステレオタイプやバイアスの助長に加担していないか、ウェブサイトが誰にとっても使いやすいインクルーシブなものになっているかなどを見直してみることが必要だ。
例えば、自社の発信するコンテンツにおいて、記事のアイキャッチ画像に同じ人種や属性などを使用しないか、性別を特定する必要がない文脈では性別を強調するような表現を用いていないかなど、社会面でのデジタル・サステナビリティを向上させるための議論も重要だ。
個人ができること
一方、個人でできることもたくさんある。
環境面では、ラップトップやスマートフォンの使い方を少し工夫するだけで、エネルギーの無駄な消費を抑えることができる。以下はその例だ。
- 画面の明るさをなるべく暗くする
- 簡単な調べ物はPCではなくスマートフォンかタブレットで行う
- ラップトップを使っていない時はスリープモードにする
- 読んでいないニュースレターを解約する
- 不要なメールやデータを削除する
- よく使うウェブサイトは登録してサーチエンジンの使用を避ける
- YouTubeなどのビデオをみるときには自動再生をオフにする
- Wi-Fiを使える時は積極的に使用する
また、近年では毎年次々とデバイスの新しいモデルが発表されるが、買い替えは本当に必要な場合のみとし、今持っているデバイスを修理してなるべく長く使うことが電子廃棄物を減らすために必要だ。使えなくなってしまった電子機器はメーカーの指示に従って適切にリサイクルすることも心がけたい。
社会面では、例えばソーシャルメディアで自身のコンテンツが誰かを傷つけるものでないか、特定の人を排除するものでないかなど、社会に与える影響を考えてから発信することが必要だ。また、フェイクニュースへのリテラシーを高めることも、自身が騙されてしまうことを避けるだけではなく、フェイクニュースの拡散に加担してしまわないためにも必要だ。
まとめ
今後もデジタルの拡大は止まることはないだろう。だからこそ、環境負荷を抑えたウェブサイト設計や意識的なデバイスの使用、社会的側面を考慮した発信など、できるところから少しづつデジタル・サステナビリティを実現していきたい。
【参照サイト】Action Plan for a Sustainable Planet in the Digital Age
【参照サイト】Wholegrain Digital
【参照サイト】Ecograder
【参照サイト】Website Carbon calculator
【参照サイト】Digital Sustainability: How to Get Started Today
【参照サイト】What is digital sustainability, and what are its challenges?
【参照サイト】Lean ICT Report
【参照サイト】20 ways to make your website more energy efficient
【参照サイト】Clicking Clean Report












