アメリカでは、「健康問題」が社会全体の課題となっている。特に肥満の問題は深刻で、大人の人口の約半分にあたる1億人が、糖尿病などの慢性疾患を抱えているという。そういった背景から、健康維持、病気治療を目的とした「食事」の重要性に注目が集まっている。
なかでも近年少しずつ広がりを見せているのが、栄養士が監修したオーダーメイド食、Medically Tailored Meals(以下MTM)だ。MTMは、糖尿病や心臓疾患をはじめとする慢性疾患を持つ人々の、それぞれの症状・疾患に合わせて作られ、患者宅に配達される健康食である。
MTMはもともと、1980年代に、エイズ患者のための食事として開発されたもので、その後、癌、心疾患、腎臓疾患などの慢性疾患者へと対象が広がった。そして現在このMTMを、慢性疾患者以外にも、低所得者、外出が難しい人、満足に食事ができない人にまで広げようとする動きが出てきているのだ。
栄養バランスの悪い食事は、不健康を招き、病気の原因になるが、貧困層にわたる食事は、インスタント食品のような、栄養価が不十分なものも少なくない。果物、野菜などを用いた栄養価の高いMTMの食事を届けることによって、薬を購入できない貧困層の人々がそもそも病院に行く事態に陥らないようにするねらいだ。
MTMの多くは、寄付や補助金をもとに、アメリカ各地の非営利組織(NPO)によって提供されている。しかし、その恩恵を受けられている人は、まだごく一部だという。というのも、MTMはアメリカの公的医療扶助制度であるメディケア(※1)やメディケイド(※2)の給付対象となっていないからだ。
※1 メディケア:65歳以上の高齢者、身体障害者、および透析や移植を必要とする重度の腎臓障害を持つ人を対象とした連邦政府が運営する制度
※2 メディケイド:低所得者を対象に、州政府と連邦政府によって運営される制度
MTMを普及させるため、現在、カリフォルニア州、ノースカロライナ州、オレゴン州、マサチューセッツ州など様々な州で導入試験が行われている。なかでも、マサチューセッツ州ウースターのジム・マクガヴァン下院議員は、メディケアのもとで史上最大のMTMプログラムを試験的に導入する法律を提出している。
タフツ大学の調査では、MTMの導入により医療に関する費用が年間136億ドル削減できるだけでなく、160万件の入院の予防、10年間で1851億ドルの医療費削減と1830万件の入院の回避ができる、などのことが明らかとなっている(※3)。別の調査では、MTMによって、救急車の出動頻度が58%、入院者数が49%、看護が必要な患者数が72%、それぞれ減少した、という結果も出ている(※4)。
このように、MTMは疾患を抱える人だけでなく、あらゆる人々の健康を促進する、有効な手段といえる。現在、アメリカでは、国民の健康問題解決に向けて、動きが加速している。今後、MTMはますます普及していくだろう。近い将来、日本でも、同様の食事プログラムが提供され、日本人の健康や飢餓問題を解決する一助となるかもしれない。
※3 Medically Tailored Meals Could Save U.S. Nearly $13.6 Billion Per Year(Tufts Now)
※4 MEDICALLY TAILORED MEALS(Meals on Wheels People)
【参照サイト】Medically Tailored Meals Could Save U.S. Nearly $13.6 Billion Per Year(Tufts Now)
【参照サイト】MEDICALLY TAILORED MEALS(Meals on Wheels People)
【参照サイト】The Medically Tailored Meal Intervention(FIMC)
【参照サイト】Doctors Prescribe Healthy Meals to Keep Patients Out of the Hospital(Pew)
Edited by Yuka Kihara