気候変動により、地球の温度はますます上昇しています。国連によると、1800年代に比べて地球の気温は1.1度上昇しているといいます(※1)。このまま気温上昇が続けば、人類は自然災害や紛争、食料不足などさらなるリスクにさらされるでしょう。
気候危機は環境だけでなく、社会や政治、世界システムなど複雑に絡み合って私たちの前に立ち塞がっています。
私たちは、複雑な問題が組み合わさっているこの気候危機に対して、どう向き合っていけばいいのでしょうか。ますます進行の一途をたどっている気候変動を抑えていくためには、これまで以上の大胆な改革が必要だ──そんな想いから、IDEAS FOR GOODと株式会社メンバーズが始めた共創プロジェクトが「Climate Creative(クライメイト・クリエイティブ)」です。
Climate Creative企画ではこれまで、数々のイベントを開催してきました。
第2回「CO2排出量表示は消費行動をどう変える? ーデータを活用したナッジとコミュニケーションデザインー」
第3回「クリエイティビティを民主化しよう。気候危機に立ち向かう『企画』のつくりかた」
第4回「気候危機に、ガラスができることはある?『クリエイティブ・サーキュラリティ』を考える」
第5回「再エネシフトを後押しする『動機づくり』とは? UXを高める行動変容のデザイン」
6回目となる今回は、「気候危機時代に愛されるブランドを作るには?Z世代とのクリエイティブな共創のヒント」と題し、アートやエンタメの力で社会課題の解決を目指している「SEAMES」の代表を務めるコミンズ・リオさんを招いて、「Z世代」と呼ばれる若者との共創ノウハウを探っていくことにしました。この記事では、そのイベントの第一部の様子をレポートします。
話者プロフィール:コミンズ・リオ
株式会社SEAMES・代表。米国オレゴン州生まれ。大学在学中に大学生専門の音楽レコーディングスタジオ「ERL Studio」を立ち上げ運営。テレビ局勤務を経て、世界の12の都市に1ヶ月ずつ滞在し、出会った人に同じ12の質問をインタビューする企画「World in Twelve」実行。その後、制作会社を立ち上げ、様々な映像・音楽・イベント企画を実行のち現職。ツイッター・インスタ・TikTokフォロワー数累計0人。日々の原動力は好奇心、多種多様な分野における自他共に認める重度なオタク性質。
アートやエンタメで社会課題を解決する
リオさんが代表を務めるSEAMESは、SDGsに取り組みたい企業や著名人、現場で活動しているNPO、「Z世代」と呼ばれる高校生・大学生・社会人3年目くらいまでの若者らをマッチングし、アートやエンタメによる社会課題の解決を目指している企業です。
SEAMESが手がけたプロジェクトの中には、Z世代の提案からプロジェクト化に至ったものもあるといいます。
その例として取り上げられたのが、「SPINZ」と呼ばれるプロジェクト。ことの発端は、とある男子高校生からの「自分の通っている高校で7割の人に話されるような、社会課題に関する話題をつくりたい」という言葉からでした。
リオさんとその高校生は、ティーンエイジャーでも親しみやすいように、恋愛バラエティのようなテイストでソーシャルグッドなリアリティ番組をつくることに。その番組こそが「SPINZ」です。
「SPINZ」には、計140人のZ世代の人々が応募。社会課題解決に取り組んでいる中高大生1人と、Z世代の芸能人3人が一つのグループをつくり、「食と健康」「LGBTQとジェンダー」「教育と格差」「気候変動と環境問題」のいずれかのテーマを選んでプロジェクトに取り組みました。
「SPINZ」で優勝した「食と健康」チームは、東京23区内で初となる全校ヴィーガン給食を足立区にある小学校で実施。給食課の人も巻き込んで、試行錯誤しながら給食のメニューを考えていったそうです。
また、「気候変動とプラスチック問題」チームは、脱臭性に優れたメリノウールでできた衣服を、100日間着用し続けるというプロジェクトの準備を開始。今冬から実施予定だといいます。
それから、SEAMESは「CLIMATE CLOCK」というプロジェクトもこれまでに実施。渋谷の若者が集まる場所数十箇所に、地球の気温が産業革命前の水準より1.5℃上昇する可能性が高いとされている2027年までのカウントダウンを示した「CLIMATE CLOCK」を設置しました(※2)。
「CLIMATE CLOCK」についているQRコードをスマートフォンで読み込み、ワンクリックするだけで、「日本政府にもっと気候変動対策をしてほしい」という意見が反映される設計に。環境問題へのアクションを求める運動に、誰もが参加できるのです。さらに、サステナブル企業の広告を視聴可能にし、そこから得た利益は、ソーラーパネルの設置や屋上の緑化など、渋谷をより環境フレンドリーにする取り組みに使っているそうです。
自分がプロジェクトに参加することで世の中が変わる体験を
イベントの中で、日本財団がベトナム、インド、イギリスなど世界各国の17~19歳の若者に対して行った、国や社会に対する意識調査の結果が示されました。それによると、日本の若者のうち46.4%の人が「自分の国に解決したい社会課題がある」と考えている一方で、「自分で国や社会を変えられる」と思っている人は18.3%でした(※3)。このように、「社会課題を解決したい気持ち」と「自分で社会を変えられるという確信」の間にギャップが生じているとリオさんはいいます。
さらに、そのギャップは多くの国でも同様にみられる現象であることが判明。そこでSEAMESでは、「自分がこのプロジェクトに参加することで世の中が変わる」という体験ができるプロジェクトを発足。それが「RE:ACTION」です。
「RE:ACTION」では、社会課題支援に関心のある企業と現地で活動するNPOと協同してコンソーシアムを形成。さまざまなバックグラウンドを持った組織や人が連携しながら、社会課題の解決を目指したプロジェクトを行っていくといいます。そのプロジェクトから生まれた成果物は企業の実績となり、CSR活動として企業が自社をPRするのに使われたりもするそうです。
難民支援をかけ合わせたプロジェクト「RE:VISION」
国連の難民部門であるUNHCRから、「気候変動によって発生している難民問題について若い人に知ってもらって、できれば寄付までつなげてほしい」というオファーがあったといいます。
そこでSEAMESは、「RE:VISION」というアートと難民支援をかけ合わせたプロジェクトを開始。気象予報士である太田絢子さんの監修のもと、「東京幻想」というアーティストとともに、「気候変動対策をしない場合に起こるであろう未来」の絵を渋谷駅の地下に描きました。
実際にUNHCRに支援が入れば、今度は「気候変動に立ち向かうことで実現できる未来」の絵をその右側に描いて、思わず行動を起こしたくなるような仕掛けをつくっていくといいます。
さらに寄付の証明として、「RE:VISION」を通じて支援した人には制作したアート作品のNFTを配布。配られたNFTは売買できませんが、これを持っていることで特別コンテンツの閲覧やイベント参加が可能となるコミュニティに参画できるそうです。リオさんは、このコミュニティを通じてソーシャルアクションを継続的なものにしていくといいます。
継続的なアクションが世界を変える
イベントの中で、リオさんは「継続的に支援することの重要性」を繰り返し訴えました。
寄付決済サービス「Network for Good」の統計データによると、月額で寄付する人は単発で寄付する人に比べて42%多く寄付しているのだそう。また、寄付の定着率も単発で寄付する人が20%程度なのに対して、一年以上月額で寄付している人は80%と、大幅に高いことも明らかになりました(※4)。
リオさんは「ソーシャルアクションというのは、それが寄付であれボランティアであれ、やり続けることがとても重要です。たとえ少額の寄付であっても、何十年もやり続ければ大きなインパクトになります」と話しました。
今後もClimate Creativeでは、継続的にイベントを開いて変化を起こしていきます!
次回のイベントにも、ぜひご期待ください!
第2部では、共感を生むようなエンタメ性のあるプロジェクトの企画術についてClimate Creative事務局とディスカッションし、第3部ではZ世代の大学生を含め幅広い世代のイベント参加者を交えたダイアログをしました。
第2部のクロストークのアーカイブ動画はClimate Creativeコミュニティ参加者のみのご覧いただけます。(コミュニティには主にイベントご参加の皆様をご招待しております。参加者募集中・過去のイベントはこちらから。)
※1 What Is Climate Change?-United Nation
※2 Global temperatures set to reach new records in next five years-WMO
※3 「18歳意識調査」第20回 テーマ:「国や社会に対する意識」日本財団
※4 What Is Recurring Giving? A Guide to Recurring Donations-Network for Good