RPGやアバター、「バーチャル世界」の歴史を辿る展示が問いかけること

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小さい頃、家に帰って遊んでいたオンラインゲーム。ネットサーフィンでよく訪れていたウェブサイト、学生時代によく使っていた懐かしいSNS。あなたは覚えているだろうか?今回はそんなバーチャル世界に焦点を当て、その歴史に注目した展示「Between Worlds」を紹介する。普段の生活の中でバーチャル世界が“非日常“だった時代から、それがより実生活に近くなった現代までを辿っていくものだ。

The Photographers’ Galleryの外観|筆者撮影

展示が行われたのは、ロンドンのThe Photographers’ Gallery(ザ・フォトグラファーズ・ギャラリー)だ。Between Worldsは、ロンドンサウスバンク大学のネットワーク画像研究センターの3年間の研究プロジェクトに基づいた展示である。1980年代からインターネット上に現れ、いまやすっかり私たちの生活の一部となった、バーチャル世界の変遷を追っている。本記事ではその展示内容の一部を紹介していきたい。

私たちはどのようにバーチャル世界と付き合ってきた?

1986年8月:最初のマルチプレイヤーRPGが誕生

いまや多くの人がプレイするようになったロールプレイングゲーム(RPG)。Habitat(ハビタット)は、1985年にルーカスフィルムゲームズによって開発された、世界初の複数プレイヤーで遊ぶRPGだ。当時Habitatを紹介した記事では「小さくてカラフルな生きものたちが住む架空の世界」と説明されていた。

Habitatは多くのユーザーに没入型体験を提供し、その後の仮想世界に大きな影響を与えてきた象徴的なゲームだと言われている。

2002年:自分以外の誰かになろう。初の「アバター」登場

2000年代に入ると、「アバター」という単語が一般的に使われるようになる。アバターとはプレイヤー自身が作成できる「デジタル・アイデンティティ」であり、アバターとしてゲームをプレイすることで日常生活から一時的に離れることができるものだ。

一方、アバターを作成するプロセスに組み込まれた人種やジェンダーのバイアスなどには、疑問の声が上がることも増えてきた。

2018-2021年:バーチャルの友達と対面で出会う!YouTubeとTikTokの台頭

Image via Shutterstock

バーチャルコミュニティで形成された関係は、デジタル空間を超えて広がることもある。2010年代後半からは、オンラインで関係性を育んだ人々が、オフラインで「会う」ことがトレンドとなった。YouTubeとTikTokなどのSNSは、実生活での人間関係を前提にコンテンツが作られることも多く、バーチャルと現実世界の関係性の境界を緩やかにしたと言われている。

2022年:政府が市民の声を吸い上げるのに、メタバースを使う時代に

Image via Shutterstock

気候、人間関係、健康、教育などのトピックに若者を巻き込むため、EUによって資金提供されたバーチャル世界がある。それが「Global Gateway(グローバルゲートウェイ)」だ。プロジェクトには膨大なコストがかかり、それに対してユーザーは思ったように増えなかったようだが、政府から仮想世界への関心が高まっていることを示す事例だ。

2023年、EUは新たに「デジタル権利とEUの法律と価値観の尊重に基づいて、さらに新しいバーチャル世界(メタバースなど)のビジョンを開発する」ことを発表。一般市民や企業が安全に使える仮想世界をつくることで、社会的課題に対処する議論を生み出す狙いがあるという。

2023年:あなたならどう世界を創造する?バーチャル世界で考えよう

Between Worldsの展示の最後に紹介されていたのは、バーチャル世界を発明するゲーム「World Imagining Game(ワールド・イマジニング・ゲーム)」だ。このゲームではプレイヤーが建築家として、「世界が誰のためにあるのか」「世界がどのように機能するのか」「どのような資金提供を受け、どのように自分自身を維持するか」を決めることになっている。どんな世界を築くかは、プレイヤー次第だ。

会場では、この「World Imagining Game(ワールド・イマジニング・ゲーム)」を体験できるコーナーもあった。質問に答えると、プレイヤーの世界の視覚的なレンダリング(※あるデータを処理または演算することで画像や映像を表示させること)が自動的に生成される。プレイヤーは、自分の都合だけでなく、その世界の建設に埋め込まれたルールも考慮しなければならないため、ゲーム上の「世界」を構築するのはなかなか難しい。

展示会場には、訪れた人々がWorld Imagining Gameで構築した「世界」が印刷され、最後のコーナーで貼り出されていた。人々の「世界」のアイデアは、高層ビルを乱立させたものから、広々とした緑地を整備したものまで様々だった。

ギャラリー内部の様子。右側の壁に訪問者のつくった「世界」が張り出されている。|筆者撮影

このWorld Imagining Gameは、イギリス・グラスゴーを拠点とするクリエイティブデベロッパーによって開発されたものだ。世界が誰のためにあり、どのように最適化され、経済的にどのように運営されているかを考える体験をすることができる。

編集後記

Between Worldsの展示を訪れると、私たちがこれまでどのようにバーチャル世界を構築し、活用してきたかの変遷を視覚的に捉えることができた。バーチャルの世界は日々進化を続けており、その未来を考える際には、私たちが過去にどのような関係を築いてきたのかを振り返ることが不可欠だ。

今回の展示は、その歴史と関係性を小さなギャラリーの空間に凝縮して、端的に伝えてくれた。展示の最後に登場したWorld Imagining Gameが問いかけるように、「誰のために」「何を信じて」世界をつくるのかは、私たちが今後バーチャル世界を構築し、ツールを使うときに、熟考しなければいけないことだろう。

【参照サイト】Between Worlds
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