ポーランド・ワルシャワの街中に設置された、ガラス張りのような大きな壁。
一方に立ってみると、壁の反対側が透けて見える。しかしもう一方に立ってみるとガラス面は鏡になっており、反射した自分自身が見えるだけで、壁の反対側は見えない。
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これは、第2次世界大戦中の迫害に抵抗したユダヤ系住民による武装蜂起「Warsaw Ghetto Uprising(ワルシャワ・ゲットー蜂起)」から80年を迎えたことを覚えるために設置されたものだ。当時を生きたユダヤの人々のストーリーを知ってもらうため、Museum of the History of Polish Jews(ポーランド・ユダヤ人歴史博物館)が主体となって実施されたプロジェクトだ。
壁は、当時まさにユダヤ人強制居住区(ゲットー)を隔離するための壁が建てられていた場所に設置され、「社会が分断されたとき、人々にどのような世界が見えていたか」を表しているという。かつてゲットーの外だった側は半透明になっていて、壁の反対側を見ることができる。ゲットー内部だった側は鏡になっているため、反対側──つまり壁の外が見えない。隔離された空間での孤独や絶望、抑圧、無防備な人々に対する暴力を表現しているそうだ。
同じ場所では、ジャーナリストで作家のカタルジナ・コビラルチク氏による「As If the Earth Has Swallowed Us Up(まるで地球が私たちを呑み込んだかのよう)」というタイトルのポッドキャストを聴くこともできる。ゲットーでの状況が記された日記をもとにしており、6名のエピソードが収録されている。
そのひとり、ヘナ・クツァー氏のエピソードでは、家族と共に地下壕に隠れて暮らしていたことや、蜂起の発生時には40もの人が地下壕に避難していたこと、ゲットーの壁の外側へ逃げるために下水道を通って移動したことなど、穏やかな街の様子からは想像し難い当時の状況が語られている。自分が立っているまさにその場所で起きた出来事を聞くことで、より現実味をもって過去に思いを馳せることができるのではないだろうか。
終戦から長い年月を経た今、戦時下の状況を次の世代にどう伝えていくかという課題は、日本にも共通するだろう。壁の両側に立って何が見えるかを体験する、そしてその場でストーリーに耳を傾ける、という現地での具体的な経験は、書籍や映画とはまた異なるメッセージを伝えることができるかもしれない。
【関連記事】国境による分断をなくす。リアルタイムで都市と都市を結ぶ窓「Portal」
【参照サイト】Two sides of the wall – an installation in Warsaw | Museum of the History of Polish Jews
【参照サイト】Without a Shadow. Jewish hideouts in the Warsaw Ghetto: Hena Kuczer (Krystyna Budnicka)