この夏は、とにかく暑かった。連日の異常なまでの酷暑に、気候変動がもう待ったなしの状況であることをヒシヒシと感じさせる夏だった。
このような状況の中、「地球の未来のために何かできないか」「子どもたちの学びとなる場はないか」などと機会をうかがっている方も多いだろう。しかしながら、環境活動のプロジェクトというと、どうしても堅苦しいイメージがあり、子どもたちが暇を持て余す可能性が高いとなると、なかなか参加しづらいというのが本音のところ。
そんな中、海で遊んで、おいしく食べて、親子で学んで、と最高に楽しい1日を送りながら、美しく豊かな日本の海を守るワークショップが2023年9月に開催された。「葉山サザエDAY〜食べて遊んで学ぶブルーカーボンと海の再生プロジェクト〜」だ。
このワークショップは神奈川県葉山町の「葉山アマモ協議会」が中心となり、地元の漁師、フリーダイビングインストラクター、三つ星レストランのシェフ、地域のボランティアらが協力し、気候変動の影響で失われてしまった藻場や海の生態系を再生し、豊かな日本の海の文化を未来へ繋いでいくことを目的としている。
2023年5月にひじきをテーマとした初回が催され、2回目となる今回はサザエに焦点を当てている。プログラム内容は、サザエの稚貝放流体験&サザエ漁観察、磯遊び、三つ星レストランシェフによるサザエランチ、サザエ&ウニの解体ショー、海藻研究者による海の再生講座など、盛りだくさんだった。晴天に秋風が心地よくそよぐ当日、100名の人たちが集まり、みんなでワイワイ楽しみながら、美しい未来の海へ思いを馳せた。当日の様子をレポートしていく。
子どもも大人も、初めて見るサザエの稚貝を観察
まずは葉山町の真名瀬漁港に集合し、開会式とオリエンテーションが行われた。
今回はサザエがテーマということで、3年ほど前から葉山アマモ協議会が再生してきた近海の藻場まで漁船で向かい、そこにサザエの稚貝をまき、一年かけて育てていくというのがミッション。ブルーカーボン・クレジットを利用して水産技術センターから仕入れたサザエの稚貝に子どもたちが群がり、サザエや藻場についての学びを深める。
サザエの稚貝は、子どもはもとより、大人も初めて見る人が多く、写真を撮りながら興味深く耳を傾けていた。
異体験とテクノロジーを駆使して学びを深める
通常なかなか乗ることのない漁船に乗り込み、藻場まで船を走らせる。藻場に到着すると、カメラが付いた水中ドローンを海に投げ込み、5〜10mほどの海中の藻場の様子を船の上のモニターで見学。初めて見る海底の様子に、子どもも大人も釘付けだった。
最新のテクノロジーを使って学びを提供するアプローチも新鮮だ。
観察後は、稚貝が子どもたち全員に手渡され、キャッキャと皆ではしゃぎながら、思い思いに海に投げ込んだ。地元の素潜りクラブの子どもたちは、直接海に潜って稚貝を放流。子どもたちからは「来年採りにきて食べたい!」などという声も聞かれた。さらに地元の漁師さんたちが素潜りでサザエ漁を行う様子も見学し、海のお仕事についての理解を深めた。
三つ星レストランの絶品料理に舌鼓
下船後は近くのビーチで磯遊びを堪能した後、公民館に集まりランチタイム。ランチのメニューは、サザエの壷焼き・海藻入りエスカルゴバターと、伊勢海老アメリケーヌ入りバターカレーというフレンチだ。料理を担当するのは、東京にある三つ星レストラン「レフェルヴェソンス」の生江史伸シェフと、スタッフたち。
生江氏は葉山でフリーダイビングに取り組んでおり、地元のコミュニティとの繋がりの中で、このプロジェクトに携わっている。また環境活動に精通しており、2022年の6月にはニューヨークの国連本部で行われた世界海洋デーのイベントで、海の健康を再生する海藻の重要性についてスピーチするほどだ。
普段はなかなか食べることができない高級フレンチの味を気軽に楽しめるとあって、子どもはもちろん大人が前のめりでおかわりする様子が多く見受けられた。もともとサザエが苦手だった子どもが何人かいたが、その多くが「これはおいしいね、サザエが好きになった!」と話していたのも印象的。会場にはごみ箱は設置されず、食器などはすべて持ち込み。ゼロ・ウェイストへの意識を高める工夫がなされている。
このワークショップは、環境活動にとりわけ力を入れているパタゴニアが協力しており、当日はパタゴニア プロビジョンズのクラフトビールが販売された。販売代金はすべて葉山アマモ協議会に寄付され、葉山の海の再生に使用される仕組み。
つまり飲めば飲むほど、楽しめば楽しむほど海の再生に繋がるという、なんとも理想的な循環がデザインされているのだ。
自分で捌いて食べる体験を通して、命のありがたみを知る
食事の後は、地元の女性漁師 長久保晶氏のレクチャーにより、サザエとウニの解体ショーが行われた。
レクチャー後は、子どもたちを中心に、実際にサザエとウニを捌いて食べるという体験。最初はおそるおそる包丁を手にする子どもたちだったが、すぐに慣れてどんどん捌いて食べる様子が伺え、楽しさとともに未来への希望を感じさせる時間となった。また、サザエやウニはまだ動いている状態なので、命をいただくありがたみなども感じたことであろう。
子どもは生物学、大人は環境活動の仕組みを学びアクションへ繋げる
ワークショップの最後を締めくくるのは、海藻研究者の山木克則氏による勉強会だ。スライドを使いながら、子どもたちが飽きないように楽しいクイズを挟みつつ、サザエや藻場の状況について学ぶ。生物学的なものから、ブルーカーボン・クレジットなどのビジネススキームまで、大人も思わずメモしたくなる濃密な時間。さらに、ただ大人が講義を行うという一方的なものではなく、子どもたちの発表の時間なども設けられるという、インタラクティブな学びの環境作りにも配慮している。
葉山アマモ協議会は、この学びを未来のアクションへ繋げたいという思いがあり、子どもたちへの継続したサポートも行っている。
以前イベントに参加した小学生たちは、海藻から作る「海藻おかずカップ」を開発し、「FRaU SDGs edu こどもプレゼン・コンテスト」で大賞を受賞するという快挙を成し遂げた。ただ楽しかったで終わらせるのではなく、実際に豊かな海の未来へ繋げようという積極的な姿勢も見える。
楽しく学び、体験できるワークショップ設計とは
このような盛りだくさんの内容の「葉山サザエDAY ブルーカーボンと海の再生プロジェクト」は、楽しく、おいしく、学び多く、子どもも大人も満足度が高いので、もちろんそれを皆さんにお伝えしたいという思いも強い。ただそれだけではなく、このワークショップの体験設計が非常に秀逸なので、オープンソース的に皆さんも活用し、新たな機会創造をできるのではないかという期待がある。
以下は、筆者が特に他のワークショップにも取り入れたら良さそうだと考えた設計だ。
- ローカルコミュニティや町との連携
- 大人も子どもも楽しめる特別なプログラム
- クリエイティブな食体験や食育
- テクノロジーの活用
- ゼロ・ウェイスト
- 地域ならではの職業体験
- 楽しい座学
遊んで、おいしく食べて、親子で学ぶ、その楽しさの延長線上に環境活動がある。このような取り組みが増えれば、それこそ優しい社会革命が自然発生的に立ち上がり、地球にポジティブなインパクトを与えられるのではないかと期待に胸が膨らむ。
「美しく豊かな海を守りたい!というみんなの共通意思と、遊ぶ楽しみ・学ぶよろこび・おいしい、気持ちいいを大切に、今後も積極に活動していきたい」と主宰の武藤由紀氏。次回のテーマはしらすか、ひじきか?!今後の展開や広がりに注目していきたい。
寄稿者プロフィール:國府田淳(こうだ・あつし)
京都府出身。RIDE-biotope creative studio- ファウンダー&CEO、4P’s JAPAN CEO、四角大輔エグゼクティブマネージャー、ビジネスインキュベーションなど、クリエイティブ・ウェルネス・サステナビリティの領域で活動している。同志社大学 経済学部卒、スタンフォード大学 栄養科学課程修了。健康管理士一般指導員。著書に「食事法の最適解」(講談社)