COP28に向け、IEAが新たな脱炭素ロードマップ発表。今回のポイントは?

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2023年11月30日~2月12日、アラブ首長国連邦(UAE)・ドバイで、国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)が開催される。それに先立ち、閣僚級の準備会合や、交渉のインプットとなる報告書の発表が相次いでいる。

国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)が9月26日に発表した、新しい脱炭素ロードマップもその一つだ。「Net Zero Roadmap: A Global Pathway to Keep the 1.5 °C Goal in Reach」と題されたこの報告書では、2021年に発表した初版以降のエネルギー情勢を盛り込み、2050年の脱炭素目標達成の可能性と、そのために必要な投資についてレポートしている。

本記事では、政策立案者や、産業界などが基準とし、COP28の交渉の行方に大きな影響を与える最新版のIEAの脱炭素ロードマップについて、そのポイントを見ていく。

なぜIEAの脱炭素ロードマップが重要なのか

まず、IEAとはどのような機関なのか、簡単に説明する。IEAは、第一次石油危機後の1974年に、石油の安定供給を図るためOECD(経済協力開発機構)によって設立された国際組織だ。現在では、石油に限らず、液化天然ガス(LNG)や、再生可能エネルギーを含むさまざまなエネルギーに関する国際的な協力を推進している。

IEAの取り組みの一つに、国際エネルギー情勢に関する分析と政策提言がある。IEAが毎年発行する「World Energy Outlook」は、エネルギーの需給や技術開発に関する見通しを示したレポートであり、世界的に大きな影響力を持っている。これまでIEAは、このレポートにおいて、将来も化石燃料が一定の割合を占めるという見通しを示してきた。

しかし、2021年に発表した初版の脱炭素ロードマップでは、新規の化石燃料供給プロジェクトへの投資を即時取りやめることや、二酸化炭素排出削減対策を行わない石炭関連工場への投資決定をしないことなど、大胆な提言と数値を示し、2050年までのエネルギー移行の包括的なレポートとして世界に大きなインパクトを与えた。

これにより国際交渉にはずみがつき、2021年11月に開催されたCOP26において、産業革命前からの気温上昇を1.5度に抑える努力を追求するグラスゴー気候合意の採択につながったともいえる。

2023年版IEA脱炭素ロードマップのポイント

今回の報告書では、主要なクリーンエネルギー技術の驚異的な成長によって「1.5度目標は達成可能」との認識を示しているが、そのためには各分野の更なる成長と投資が必要としている。その概要を見ていこう。

クリーンエネルギー技術の進展を評価

クリーンエネルギー技術については、太陽光発電の導入容量および電気自動車の販売台数がロードマップに沿って増加していることを評価している。この2つの技術だけで現在から2030年までの排出削減量の3分の1を達成できる見通しだ。

クリーンエネルギー関連技術の生産能力は急速に高まっており、2022年は蓄電池が前年比72%増、太陽光パネルは39%増、電解槽は26%増となった。太陽光発電と蓄電池について、現時点で予定しているすべてのプロジェクトが実行された場合、2030年の中間目標をほぼ達成する見込みである。

2023年のクリーンエネルギー技術に対する投資は1兆8,000億ドルだったが、2030年までにはその約2.6倍の年間4兆5,000億ドルの増加が必要と試算する。

目標達成のカギとなるのは再生可能エネルギー設備容量の増加

2022年の世界の二酸化炭素排出量は369億トンと過去最高を記録した。2050年のネット・ゼロ達成のためには、2030年時点で二酸化炭素排出量を240億トンまで削減する必要があり、再生可能エネルギー設備容量の増加がカギとなる。

2022年時点での世界の再生可能エネルギー設備容量は3,629ギガワットだった。IEAは、その容量を2030年には約3倍の1万1,000ギガワットまで拡大するとしている。

再生可能な電力源、特に太陽光発電と風力発電技術の発展は目覚ましく、迅速に導入可能で、費用対効果も高い。現段階では、先進国と中国は目標値を順調に達成しているが、新興国や途上国では、より強力な政策と国際的支援が必要となる。

電化の加速とメタン削減も不可欠

電気自動車やヒートポンプなどの急成長している技術は、エネルギーシステム全体の電化を推進し、2030年までの排出量削減目標の約5分の1を占める。2030年の世界の新車販売台数の3分の2は電気自動車が占める見込みであり、ヒートポンプにおいてはEU圏と中国が世界最大のマーケットになることを示している。

また、最もコストのかからない方法のひとつとして、2030年までにエネルギー産業が排出するメタンを75%削減することをあげている。石油・天然ガス事業からのメタン排出を75%削減するには、2030年までの累積支出で約750億米ドルが必要と試算されるが、これは2022年に石油・ガス業界が受け取った純利益のわずか2%だ。この費用の大部分は、回収したメタンを売却することにより相殺できる。

目標達成のために必要なインフラの増強

1.5度目標達成のためには、よりスマートな新インフラ・ネットワークや、低排出燃料、大気などから二酸化炭素を回収する技術、原子力発電の増強が必要としている。エネルギー・インフラの増設プロセスには時間がかかるため、意思決定と許認可の迅速化を呼び掛けている。また、二酸化炭素回収・利用・貯蔵(CCUS)や、水素、持続可能なバイオエネルギーも、2030年までに急速な進展が求めている。

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公平な移行の重要性

IEAは、前回の報告書に引き続き今回も、二酸化炭素削減対策を行わない石炭発電所の新規承認の即時停止と、油田やガス田の新規開発の不要を強調しているが、各国の状況を考慮した公平なエネルギー移行を促進することの重要性についても指摘している。

資金や技術を持つ先進国はより早く脱炭素目標を達成するが、新興国や途上国には時間の猶予を与える必要がある。ただし、ロードマップの軌道に乗るには、ほぼすべての国の脱炭素目標を前倒しする必要があるとし、新興国や途上国への大幅な投資増を求めている。

まとめ

2023年夏の気温は過去最高を記録し、その影響による山火事や豪雨などが世界各地で報告された。IPCCの第6次報告書では、地球の温度はすでに1.1度上昇しており、現状のペースだと20年後には1.5度を越え、2100年には3.2度上昇すると予測している。

IEAの報告書も、2030年までに各国の脱炭素政策を加速しクリーンエネルギーを拡大できなかった場合、今世紀後半に毎年50億トン近くの二酸化炭素を大気から除去しなければならないと試算。もし、炭素除去技術の開発が間に合わなければ、気温を1.5度に戻すことは不可能となり、世界で年間1.3兆ドルの追加コストがかかると警告している。

しかし、IEA事務局長であり、世界で最も影響力のあるエネルギーエコノミストのフェイス・ビロル氏は、報告書の発表で以下のように希望を示している。

「1.5度の道筋は2021年以降厳しくなっているが、太陽光発電や電気自動車などクリーンエネルギー技術の驚異的な成長により、達成は可能である」


今年のCOP28では、パリ協定の進捗状況を5年毎に確認するグローバル・ストックテイクの第1回目が終了する。各国政府はこれまでの成果をふまえ、2025年末までに2035年の炭素削減目標(NDC)を提出することが求められる。世界的な気候変動対策の進捗や、様々な報告書の結果からも、1.5度目標達成のためのNDC引き上げは必須だ。

IEAが新しい脱炭素ロードマップで示した、2030年までに再生可能エネルギー3倍、エネルギー効率2倍、75%のメタン削減、そして、化石燃料の削減という軌道に乗ることができるよう、COP28での国際交渉に期待が高まっている

【参照サイト】Net Zero Roadmap: A Global Pathway to Keep the 1.5 °C Goal in Reach(IEA)
【参照サイト】Global Energy Transitions Stocktake(IEA)
【参照サイト】COP28 UAE
【参照サイト】IPCC Sixth Assessment Report, Working Group III: Mitigation of Climate Change

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