山の日、海の日、こどもの日。天皇誕生日や建国記念日。日本には、年間16日の「国民の祝日」が設けられている。祝日が設けられる理由はさまざまだが、これらは全て何らかの意味があって設けられている。諸外国を見てみると、宗教に関するものや独立記念日のようにその国の歴史に関するものなど、それぞれの国が文化やあり方を反映した祝日を設けている。
そんななか、2023年11月、東アフリカの国・ケニアが、11月13日を国民に「木を植えること」を推奨する新たな国民の祝日にすると発表した。その名も、「植樹の日(National Tree Planting Day)」だ。
これは、同国の気候変動対策の一環として導入されたもので、国民はこの日仕事をしなくても良い代わりに、植樹活動に参加することを勧められる。制定後初の祝日となった2023年の11月13日には、政府が市民に対し約1億5,000万本の苗木を無料で提供。市民の手によって、首都ナイロビの国立公園に植えられた。
同国政府はさらに、国内の植樹活動をリアルタイムで見られるアプリ「JazaMiti(スワヒリ語で「木でいっぱいに」)」も祝日に先駆けて発表。アプリは誰でも使うことができ、植林活動を行った日付と実施地域、植えた木の種類や数、個人や組織名などを登録できる。
また、アプリでは自分が植樹したい地域に適する木の種類やその近隣で苗木を手に入れられる場所を検索することもできる。筆者が試しにケニアの首都ナイロビで検索してみると、20種類以上の木が「土地に適する木」としてヒットした。祝日の発表が該当日の直前だったにもかかわらず、アプリは祝日の前夜までに200万ものダウンロード数を記録。ケニア政府はこれを用いて、今後国内の植樹活動をモニタリングしていく予定だという。
この祝日策定の背景にあるのが、現在ケニアとその近隣の国々が直面している、深刻な干ばつをはじめとした環境問題だ。例えば、この深刻な干ばつは地理的な条件に加え、農地開拓、都市化などによる森林伐採や気候変動の影響などによって引き起こされているとされており、森林が減少することでさらに加速している。
一方で、雨季の洪水も気候変動によって激化。雨水を留める役割を果たしていた森林が減少したことにより、その被害が深刻化している。特に北部の地域ではこれらの問題が深刻化しており、食料や水などを求めて南部に移動する国内避難民が発生しているのだ。
これに対しケニアがとっている対策のひとつが、まさに植樹である。同国は、今後10年間で150億本の木を植え、2032年までに国土の30%を森林で覆うという目標を掲げ、現在進行形で取り組みを行っている。
National Forest Resources Assessmentの2021年のレポートによると、同国が独立した1963年に国土の10%程度を占めていた森林は、2018年には国土の6%以下にまで減少。しかしその後、国家や環境団体が主導する植樹活動により、2022年にはその年の目標であった10%を超える12%程度にまで回復したという。この動きは、今回の祝日策定でより多くの人が環境活動に参加することにより、加速していくことが期待できる。
そうした植林の実質的な数字はもちろんのこと、この祝日が国民の意識に与える影響は大きなものになるだろう。「植樹の日」があることで、少なくとも一年に一回は自国の環境や気候変動について考えたり、具体的な行動を起こしたりする機会になる。親や教師が子どもたちにこの祝日について話すとき、家族やコミュニティの中に必然的に環境問題に関する会話が生まれる。そんなことを通して、環境を大切にすることが自然と国の文化になっていくのではないだろうか。
【参照サイト】‘It was incredible to see’: Kenyans dig deep on first national tree planting day
【参照サイト】Kenyans given public holiday to plant trees
【参照サイト】Kenya Surpasses 10% Tree Cover, Assessment Report 2021 Says
【参照サイト】NATIONAL FOREST RESOURCES ASSESSMENT REPORT 2021 KENYA