デジタルの環境負荷を減らす「ウェブ・サステナビリティ・ガイドライン」がいま必要な理由

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昨今、日本国内で進む働き方改革の下で、ペーパーレス化やリモートワークといった企業のDX化の取り組みが加速している。こういったデジタル化の取り組みは、しばしば脱炭素の文脈でも有効だと語られることもある。しかし、実はデジタル産業は世界の排出量の2〜5%を占めており(※1)、航空部門と同等だという(※2)。

2023年10月、このようなデジタル産業における環境負荷を押さえ、デジタル・サステナビリティを促進することを目的に、非営利団体であるWorld Wide Web Consortium(以下W3C)が、実用的な「ウェブ・サステナビリティ・ガイドライン(WSGs)」草案を公開した。W3Cは、World Wide Webで使用される各種技術の標準化を推進する団体だ。

Web Sustainability Guidelines(WSGs)スクリーンショット

Image via Web Sustainability Guidelines (WSG) 1.0

本ガイドラインは、ウェブサイトやデジタル製品の開発および維持において、ESG(環境、社会、ガバナンス)の原則を押さえた幅広いアドバイスを提供している。本ガイドラインに基づいてウェブサイトやデジタル製品を改変することで、環境への影響を最小限に抑えることができるというものだ。

例えば、企業の自社サイトを改善するときに、UX向上に繋がらない過剰な装飾や不要な要素を削る、画像の必要性を見直し、最適化するなどの取り組みがあげられる。これらにより、ウェブサイトにより簡単にアクセスでき、使いやすく、高効率になることが期待できる。

実は、世界的に見ると、デジタル産業そのものの環境負荷を可視化し解決しようというデジタル・サステナビリティの概念を取り入れた取り組みは既に行われてきている。例えば、イタリアのデザインスタジオ・Formafantasmaは、インターネットによるCO2排出量を問題視し、それら削減するために意図的に簡素化したWebサイトを公開している。また、イギリスのウェブサイト制作会社・Wholegrain Digitalは“Less is More”を原則に企業に向けたウェブサイトをつくっている。

本ガイドラインでは、「ユーザーエクスペリエンスデザイン」「ウェブ開発」「インフラストラクチャ」「製品およびビジネス」の4つのカテゴリに分類し、Web業界の専門分野を総合的に詳細にカバーしており、ウェブデザイナーや開発者だけでなく、政策立案者、購買担当者、教師、学生など幅広いユーザーが活用できるものになっている。また、各テーマの各ガイドラインでは、その影響度と労力を低・中・高の三段階で評価している。これにより、ユーザーにとって、短期的に成果を上げるものが何か、また、長期的利益の観点から実装のハードルが低いものは何かなどを特定する負担が軽減される。

実際に使用する際には、一括で全てのガイドラインを自社のプロジェクトやサービスに適用しようとするのではなく、方法論的なアプローチを取ることが強く推奨されている。つまり、目的に合ったガイドラインを見つけるために、まずは目次をスクロールし、スキルセットに合ったものや、影響度や労力の大きさの評価に基づいて、取り組みやすいと感じるものを選択することが重要なのだ。

デジタル・サステナビリティを進める上では、最初から全体の完璧さを求めるよりも、小さな改善を積み重ねていくことが肝心だ。ガイドラインや成功基準に基づいて、より詳細で実現可能な目標に分解することで、長期的な目標に向けてよりスムーズに前進することができるという。

誰もが実践できるガイドラインが草案としてまとめられたことは、デジタル・サステナビリティを業界のスタンダードにする動きにさらに拍車をかけるかもしれない。この草案が、デジタル・サステナビリティの実現に向けた新たな出発点となり、取り組みが加速していくことを期待したい。

※1 The real climate and transformative impact of ICT: A critique of estimates, trends, and regulations(Cell Press)
※2 Questions and Answers: EU action plan on digitalising the energy system(European Commission)

【参照サイト】Web Sustainability Guidelines (WSG) 1.0(World Wide Web Consortium)
【参照サイト】Web Sustainability Guidelines (WSG) 1.0 at a Glance(World Wide Web Consortium)
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