【タイ特集#3】世界最大の竹でできた学校。竹の可能性を現代デザインで開花させる、建築家の哲学とは?

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竹馬や竹とんぼなど、日本人は子供の頃から竹に親しんできた。しかし、都市に住んでいるとコンクリートの建物に囲まれ、そんな子供時代の感覚はすっかりと忘れてしまう。

一方、世界では竹の有能性が見直されている。IDEAS FOR GOODでも、竹を使ったソーシャルグッドなアイデアをいくつか紹介してきた。

今回、筆者はタイ北部にある古都チェンマイで、世界最大の竹でできた体育館をはじめ、竹を使った建築デザインをしているChiangmai Life Architects and Construction(CLA and CLC)を訪ねてきた。そこで創業者であるオーストリア出身のMarkusに、創業ストーリーから竹の機能性、建築デザインへの想いについて話を聞いた。

創業者のMarkus

竹に現代のデザインとテクノロジーを加えるクリエイション

CLA and CLCは、竹や木材、土壁、アドベ(砂、砂質粘土とわらまたは他の有機素材で構成された天然建材)など自然素材を使った建築デザインを専門としている。

竹でできたオフィス

竹と聞くと、長持ちしない壊れやすい性質で貧しい人が使う古臭い素材というイメージがあるかもしれない。しかし、それは竹という素材自体の問題ではないと、Markusは断言する。

「竹は軽量ですが、スチールより引張強度があり、風や地震にも持ちこたえます。さらに断熱性に優れているので、竹でできた屋根は建物内部を涼しく保ってくれます。

竹に対して悪いイメージがあるのは、建築の際に適切な竹が選択されていないからです。繊維がなく糖分でできている若い竹は、食べ物です。4年ほど経ってはじめて、糖分が少なくなり、強固な繊維のある建築素材となります。つまり、竹の悪い印象を作り出している主な理由は、こういった知識がないまま竹を選び取り扱っている、私たちの無知なのです。」

素材の問題ではなく、私たちの扱い方や手入れの問題。その言葉が示している通り、竹を建築素材として使うにはきちんとした手順を踏む必要がある。ホウ砂塩という塩水の中に、小さな穴を開けた竹を浸しておくと、水が黒くなる。

竹の糖分で水が黒くなる

竹を清掃中

これは竹の内部に自然に生成される砂糖が流れ出すからだ。その代わりに塩分が内部に入り込み、防水と防腐剤の役割を果たす。そのため、竹の建物は蜘蛛の巣や虫を巣や虫を寄せつけにくい。水から出した後は、完全に乾燥させる。このような手入れをすることで、50年ほどの耐久性のある建物を作ることができる。もちろんこの手入れのプロセスにも化学薬品は一切使用されていない。

竹を乾燥させる

建築工程でも、耐久性を高めるため、釘やスクリュードライバーを使わず、竹でそれぞれのパーツを繋げている。

釘の代わりに竹を使用

竹は建築素材として適切なだけではなく、環境にもやさしい。運送や建設によって発生する量より多くの二酸化炭素を吸収し内部にそのまま保持するため、カーボンフットプリントはゼロとなる。

このように竹は機能面でも環境面でも優れているが、CLA and CLCの創業当初は世の中では竹を建築に使う発想も知識もほぼないに等しかったという。それでも続けていくうちに、マーケットを自分たちで作り出し、現在では様々なデザイン大賞を受賞したり、国内外のメディアから取り上げられたりと、有名になっている。

Markusはこの広がりについて次のように説明した。「マーケットが限られているのではなく、自分たちのマインドセットがマーケットを制限しているだけ。竹の建築をヒッピーのためではなく、メインストリームにしたい。」

世界最大の竹の建築アート

タイのチェンマイにある「Panyaden International School」(パンヤーデンインターナショナルスクール)は、仏教の理念をベースとし、自然を愛する価値観を大切にしている英国系インターナショナルスクールだ。タイ国内だけではなく、南米や中国出身の子供たちも通っているほど、人気の学校だ。マインドフルネスを大切にした学校の価値観もそうだが、それを体現している学校のハードウェアに惹かれる人も多いだろう。

インターナショナルスクール

CLA and CLCによってデザインされた校舎は、竹や土など自然素材を使用して作られた。その中でもとくに、2017年に完成した体育館は、300人もの収容人数をもつ世界最大級の竹でできた建築物だ。

竹の体育館

ハスの花をイメージして作られた体育館は、100%自然素材からできている。脆弱になりやすい曲線部分は、何重ものバンドでしっかりと支えられ、エンジニアたちの知識によって、強風や地震にも耐えられる強度になっている。竹という伝統的な素材が現代デザインと最新のテクノロジーによって生まれ変わった事例だ。

竹でできた遊び場

竹は室内を涼しく保つという機能を持つだけではなく、見た目も美しく触り心地も気持ちが良い。そんな環境の中で学ぶ子供たちは、頭ではなく身体感覚として自然の力を感じることができるだろう。

教室の中。土壁にある隠れ場は子供たちの人気スポット

Markusのアーティストとしての哲学

現在、パンヤーデンインターナショナルスクールの拡張工事だけではなく、ミシュランガイドに掲載されているレストランやリゾート施設、メディテーションセンターまで大小様々なプロジェクトを67名ものスタッフとともに手がけているMarkus。

彼のインスピレーションはどこから生まれてくるのだろうか。それは紛れもなく「自然」だ。オーストリア出身の彼は、小さい頃から自然の中で育ってきた。家のメンテナンスも自分たちでおこなうなかで、建築に興味を持っていたという。今でいうDIY(Do It Yourself)だが、それを当たり前にやってきた彼にとって、ショッピングモールや自動車のなかで過ごす都会の生活は信じられないものだった。

Image via Shutterstock

オーストリアでは医者として働いていた。祖父が医者であった家庭で育ち、学校での成績も良かったため医者になったという。しかし、もともとアジアの哲学が好きだったため、ヨガを学びにインドへ渡り、その後政府のプログラムに参加するため、タイへとやって来た。

「仏教では諸行無常(すべてはうつり変わるもの )の価値観を大切にしています。たとえ壁にひびができたとしても、なかったこととして隠すのではなく、新しくなにかを加えたり工夫をすることでより美しくアップデートする。そして自分でやるからより愛着が沸く。変化を起こさせるのです」というMarkusの言葉にある通り、彼の建築は常に変化し、同じものはひとつとしてない。

創業者のMarkus

「一つの作品を作るたびに新しい知識と能力を身につけ、大きさや強度、デザイン、性能面などで次の作品に生かしています。そのためクライアントから『同じものを作って欲しい』と言われても、それはできない。機能、場所、それぞれのクライアントのニーズによってデザインが異なってくるからです。もちろんリサーチやデザインにお金はかかりますが、私たちにとってコストパフォーマンスは最優先事項ではありません。」

竹をうまく活用するためのリサーチをおこない、ユニークで質の高い作品をデザインし、建築もすべて手作業でおこなうため、時間とお金はかかる。クライアントのニーズによっては、竹で家具も作る。しかし、それが彼らの得意なことであり、ほかの企業がまねすることができない強みでもある。同じものを繰り返すのではなく、常に改善し、変化を拒まない。まさに、仏教の教えを体現したアート作品になっている。

すべての工程が、技術のあるスタッフによる手作業

また、スタッフの多くはミャンマーの山岳から逃れてきた難民である。国籍も持っていなかった彼らだが、小さい頃から自然に親しんでいたため竹の手入れの習得は早く、また仕事に対する能力やロイヤリティも高いという。Markusは会社の敷地内に彼らの家も建てた。それは「コミュニティのなかに一緒にいることで、ロイヤリティは高まるし、みんなでより良くなっていける」という考えからだ。これも仏教の「共生」の教えから来ているのだろう。

竹でできた家の内部

編集後記

竹でできた巨大な建築物を目の前にすると、感嘆の声が出るほどその美しさに圧倒される。これはもはや、アート作品だ。それも、Markusの話を聞いて納得した。彼は、自分の創り出すものに対してしっかりとした哲学を持っている。「自然の摂理に従い、変化を受け入れ、常に改善をする」。このアイデアを竹という自然素材、現代デザイン、そして最新のテクノロジーを組み合わせて形にしているのだ。

実際、竹の建物は本当に気持ちが良い。中はひんやり涼しく、裸足で歩いていると、幼少期に森の中を走り回ったことを思い出す。こうやって人間が自然に心地良いと感じるものは、地球にとってもやさしいものだったりする。

パンヤーデンインターナショナルスクールに通う子供たちは、いろんな世界を見た後にきっとこの環境のありがたみがわかるのだろう。

パンヤーデンインターナショナルスクール

【参照サイト】Chiangmai Life Architects and Construction
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