「ステファンはうつ病を患っています」そんな文言が書かれた啓発ポスター。
まず目に入ってくるのは、リュックを抱え、物憂げに前を見つめている手前に写った男性だ。「きっと彼がうつ病を患っているのだろうな」多くの人がそう考えるだろう。しかし、キャプションで「この人がステファンです」と紹介されているのは、彼ではなくポスターの奥に写っている「笑顔の男性」である。
笑顔でいたり、リラックスしていたり、楽しそうに見えたりする人々でも、実はうつ病と闘っていることがある──そんな事実を伝えるこのポスターキャンペーンはドイツの有名な写真家フィリップ・ラスマー氏と同国の広告代理店・グラバーツ&パートナーが手を組み作成した「At Second Glance」というものだ。キャンペーンの主な目的は、うつ病の認知度を高め、うつ病についてのウェブサイトに訪問してもらうことである。
ポスターには下記のように他のバージョンもある。
ドイツにおいて、うつ病を患っている人の数は毎年推定500万人(※)。「うつだと思われたくない」という想いから、自身の状況を誰にも話せなかったり、笑顔でごまかしたりする人も少なくない。
このキャンペーンは、「痛みは隠すべきだ」という社会的なプレッシャーにより、うつ病で苦しんでいるにもかかわらずそれを隠している人がいること、それにより対処が進まないケースがあることについて警鐘を鳴らしている。
グラバーツ&パートナーの共同創業者であるRalf Heuel氏は自身のLinkedInにて、「気分はどう?」と聞かれたとき、人々が自動的に「元気だよ」と答えてしまうことに言及。「相手から元気だよ、という答えが返ってきたときに『本当に?』と応答することで、会話がスタートするのではないか」
と語っている。
「元気?」「大丈夫?」と聞かれたとき、反射的に口から「元気だよ」「大丈夫だよ」という言葉がこぼれ落ちていた──そんな経験がある人もいるのではないだろうか。微笑んでいるからといって、美味しそうにご飯を食べているからといって、楽しげに笑っているからといって、心が元気とは限らない。
つらくても元気なふりをしなければならない、苦しくても悟らせてはいけない……そんな“普通”は、存在しない。うつ病の人ならいつも暗い顔をしているはずだ、明るい顔の人はうつ病のわけがない……そんな“普通”も、存在しない。当たり前を見直し、「元気だよ」という一言の奥に隠された本当の気持ちに耳を傾けられるように努めていきたい。
※ Depression affects millions in Germany
【参照サイト】Ralf HeuelRalf Heuel(LinkedIn)
【参照サイト】Poignant Ad Campaign Captures The Hidden Faces Of Depression(DesignTAXI)