2月20日は、国連の定める「社会正義の日」だ。社会正義とは、すべての人々が経済的、政治的、社会的に公平な機会と権利を享受できる社会を目指す概念である。
社会正義の重要性は、新型コロナウイルスの蔓延によってよりいっそう強調されるようになった。パンデミックは、貧困層や非正規雇用者、特定の民族や社会的マイノリティに特に大きな影響を与え、教育や医療へのアクセスを阻害。これにより、すでに存在していた不平等がさらに拡大したのだ。
社会正義を実現するためには、人種、性別、宗教、障害、性的指向などに関係なく、教育や健康、雇用などへの平等なアクセスを確保することが必要になる。
今回の記事では、不平等を生んでいる状況にアプローチし、様々な人が自分らしく生きられる社会を目指す事例を紹介する。
社会正義を目指す世界の事例7選
01.ジェンダー格差の解消を目指す。インドで女性のバス乗車を無料化
インドでは女性の労働参加率が男性に比べて著しく低く、所得も男性より低額だ。このジェンダーギャップを縮小する一つの試みとして、女性客のバス料金無料化が注目されている。このプログラムは「Shakti」と名付けられ、2019年にデリーで導入された後、複数の州で実施されている。
2023年6月から、カルナータカ州でもこのプログラムが実施。これにより女性は通勤費用を削減でき、給与を他の生活費に充てることが可能になる。女性が経済活動に参加しやすいようにすることで、生活の質の向上や経済的自立を促進する取り組みだ。
02.ケアする人もされる人も包括する。南米・コロンビアの「ケアリング・シティ」
新型コロナウイルスの感染拡大により、医療や介護などの「ケア労働」の重要性が浮き彫りになった。これらの労働は私たちの生活を支えており、特に家庭内では女性がその大部分を無償で担っている。しかし、このケア労働は往々にして低く評価され、女性の搾取につながってきた。
そうした中、コロンビアのボゴタでは、女性市長クラウディア・ロペスがケアの価値を可視化し、支援する「ケア・システム」を導入。ボゴタを徒歩30分圏内で日常に必要なサービスを受けることができる「30分間都市」にするという計画のもと、ボゴタの貧困エリアに「ケア・ブロック」を設置した。2035年までに45のブロックを設置予定だ。
ケア・ブロックには、保育サービスや託児所、法律相談に心理相談、高校教育に職業訓練、健康・運動講座や起業家講座までさまざまな公的サービスが集約されている。
これにより、ケアする人もされる人も利便性を享受できるようになった。例えば、このシステムを使えば、子どもを預けている間に職業訓練を受けることも簡単だ。この取り組みは、ケアに従事する人々に対して13万件以上のサービスを提供し、ケアの価値を高め、個人が自己価値を再認識する効果をもたらしている。
03.貧困の連鎖を食い止める。シングルマザー向けの大学進学と住居支援
2021年の厚生労働省の調査によると、子どもの相対的貧困率は11.5%であり、ひとり親世帯では44.5%に上る。特に母子家庭では75.2%が「生活が苦しい」と回答しており、この貧困問題は深刻だ。住居の不安定さや低賃金など、シングルマザーをとりまく苦境は教育格差や体験格差を生み出し、貧困の連鎖を引き起こしている。
この問題に対処するため、米国インディアナ州では2023年から「アンダーソン・スカラー・ハウス」がシングルマザーに住居を提供し、大学の学位を取らせるプログラムを開始した。この取り組みの目的は、貧困の連鎖に終止符を打ち、シングルマザーとその家族を自立させることにある。
シングルマザーは「奨学生」と呼ばれ、彼女らとその子どもたちは多岐にわたる支援プログラムの恩恵を受ける。例えば、行政とのやり取りや書類作成の手伝い、生活支援、奨学生の悩み相談など。他の機関とも連携しているため、メンタル面や学習内容、学資助成金についても、幅広い相談ができる。さらに、納税方法や財務会計、栄養バランスのとれた食事プランに至るまで各種ワークショップに参加することも可能だ。
このプログラムは大学でのフルタイム在籍と75%以上の出席率を義務付け、学業成績の維持やワークショップへの参加を要求している。教育を通じてシングルマザーのリスキリングを促し、彼女らの可能性を開く事例だ。
04.教育格差にアプローチ。貧困層と富裕層の子どもが交わる「ソーシャル・ミックス」
教育格差は、家庭や地域の背景によって生じる学力や学歴の差を指し、世界中で学業不振や退学の増加、さらには人種差別や社会的分断をもたらしている。特に、マイノリティが学ぶ環境は劣悪であることが多く、教育の機会が平等に与えられていないため、社会全体の損失となっている。
フランスのトゥールーズ市では、この問題に対処するため、貧困地域の子どもたちを富裕層の子どもたちが通う公立学校へバス通学させるプロジェクトを実施。この取り組みにより、貧困地区の子どもたちの中退率は大幅に減少し、成績も向上するなど顕著な成果を上げた。フランスではこの方法を「ソーシャル・ミックス」と呼んでおり、他の自治体でも同様の取り組みが検討されている。
05.学費の代わりに「社会奉仕」すべての人に開かれたタイの学校
現代において、社会人の学び直しや生涯学習が重視される中、タイ・ブリーラム県にある「Mechai Bamboo School」は、独自の教育モデルを提案している。この全寮制の学校では、学費が無料で、代わりに生徒と保護者は年間800時間の社会活動と800本の木の植樹を行う。学校では、伝統的な教科の学習に加え、社会活動を通じた実践的な学びを推進している。
さらに、Mechai Bamboo Schoolは年齢を問わず地元の人々にも開かれており、料理や執筆、法律など様々な分野を学ぶことができる。この学校の目標は、誠実さや分かち合い、男女平等を実践する良き市民の育成などで、生徒がコミュニティのリーダーや社会起業家として成長することを期待している。Mechai Bamboo Schoolの取り組みは、教育と働くこと、学生と社会人の境界を曖昧にし、教育の新たな可能性を提示している。
06.障害を障壁にしない。耳が聞こえても聞こえなくても一緒に学べるルワンダの学校
アフリカの多くの国々では、障害を持つ人々が適切な医療や教育を受けられず、人によっては初等教育さえ諦めざるを得ないことがある。
そんななか、ルワンダの首都キガリにあるGS INSTITUT FILIPPO SMALDONE(GS IFS)学校では、聴覚障害を持つ子どもたちと持たない子どもたちが共に学んでいる。この学校は聴覚障害者とそうでない生徒が半数ずつおり、手話を交えた授業を実施。この取り組みにより、互いの世界を理解し合う機会を提供しており、障害のある生徒が孤独を感じないようにすることを目的としている。また、家族への講義を通じて、家庭内でのコミュニケーションもサポートするのも特徴だ。
ルワンダでは、ジェノサイドの歴史を背景に共生を目指しており、GS IFSはその一環として、特別なニーズを持つ人々とそうでない人々が共に学び、成長する環境を提供している。この学校の存在は、インクルーシブな社会を目指す上で重要な役割を果たしていると言えるだろう。
07.ダウン症の人が自分らしく働けるオランダのカフェ
オランダには、ダウン症のスタッフ(ダウニー)が活躍するカフェチェーン「Brownies&Downies」があり、2010年の開始以来、国内に56店舗を展開している。このビジネスは、カフェだけでなく、ダウン症の人々に対するデイケアサービスの受け入れ先としての役割を担う。
店舗では、ダウン症のスタッフがカフェ業務に加え、様々な仕事を通じて社会的スキルを学ぶ。仕事内容は、ダウニーズの能力に応じて調整されており、テーブルセッティング、オーダー、配膳などのサービス業務、レジ作業、キッチン作業など個々人に合った業務を担当している。
タブレット端末のメニュー表示をカテゴリごとに色分けし、わかりやすいようにする、業務の流れを記したボードを設置するなど、ダウニーの特性に合わせて働きやすくなるような工夫も行う。個々の能力を発揮して働きやすい環境を提供し、ダウニー自身を育むこと、社会の一員として認められてる実感を持ってもらうことを目指した事例だ。
まとめ
今回は、教育の機会均等やジェンダー格差の解消、経済的自立支援などを通して社会正義を目指す事例を見てきた。
社会正義を推進し、すべての人々が公平な機会と権利を享受できる社会をつくること。それは、誰もが安心して暮らすことができ、自身の能力を最大限に引き出しながら自分らしく生きられる場をつくることである。
あなたとあなたの大切な人が生きやすい世の中はどのようなものだろう。2月20日、社会正義の日にゆっくり考えてみたい。
【参照サイト】World Day of Social Justice 20 February
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