「最近、運動不足だ。駅前のスポーツジムに通ってみよう」
こんなふうにジム通いを始める人は少なくないだろう。今、日本では400万人以上、世界では何千万人もの人々がランニングマシンの上で汗を流している。
スポーツは健康によい。ジムに通うのはよいことじゃないか。たしかに、そうかもしれない。けれど、なんだかモヤモヤするのは筆者だけだろうか。ファーストフードでカロリーオーバー。自動車でジムに行き、空調の効いた部屋のなかで電動マシンをこぐなんて、なんだか環境に悪いし、虚しい気分になる──そんなふうに感じたことがある人はいないだろうか。
「これまでのジムは膨大なエネルギーの無駄使いだ」そんな疑問を呈したのが、英国の非営利団体・GoodGym(グッドジム)の創業者、Ivo Gormley氏だ。彼は、地域活動や高齢者支援という「ボランティア」と人々の「エクササイズ」を結びつけた、新たなタイプのジムを作りあげた。人々がジムで消費するエネルギーを、コミュニティのために使おうというのである。
グッドジムは、実際にどんなジムなのだろうか。グッドジムの会員は、地域の公園に木を植えたり、公民館の清掃をしたり、ガーデニングをしたり、高齢者宅の家のメンテナンスや家具移動など、さまざまなエクササイズで汗を流すことができる。だれでも会員になれるうえに、駅前のジムとは違って参加が無料だ。
グッドジムには、4種類のセッション「グループラン」「コミュニティ・ミッション」「コーチ訪問」「ミッション」が用意されている。特徴的なのは、グループで地域活動をする「コミュニティ・ミッション」である。コミュニティグループまたは慈善団体をサポートするセッションであり、ごみ拾いや近所の植木への水やりなどを行う。仲間がいればエクササイズを続けやすいかもしれない。
「コーチ訪問」というセッションでは、孤立した高齢者をメンバーが定期的に訪問する。実施期間は最低6か月で、メンバーはランニング、ウォーキング、またはサイクリングで運動をしながら、高齢者のもとを週に一度訪れるのだ。訪問する高齢者のことを「コーチ」と呼ぶのは、彼らはメンバーが毎週エクササイズするためのきっかけをくれる存在であるからだ。
このようにグッドジムでは、多様な地域プロジェクトと結びつけながら、グループでエクササイズすることでモチベーションをアップさせ、継続しやすくしている。それらは住みやすい地域をつくることにつながると同時に、誰かの人生に変化をもたらしていく。運動する会員、支援を受ける人、地域全体と、多くの人々に対してメリットがあるのだ。
「世界で最も革新的な高齢化プロジェクト」
。英国メディアのthe Financial Timesは、グッドジムをそう評していると公式ページで紹介されている。
「ジム」というけれど、要するに、ボランティア活動じゃないか。そんな声もきこえてきそうだ。しかし、そうしたボランティア活動を「運動」と位置づけたのが、グッドジムの革新的な部分なのだ。
グッドジムは現在、英国全土の62の地域に2万2,980人の会員を擁する。London School of Economics and Political Science(LSE)の研究によれば、グッドジム会員は生活満足度が21%向上し、精神的苦痛は21%低下したという。また、地域への帰属意識は27%高まり、孤独感は12%減少。グッドジムの精神的ウェルビーイングに対する高い効果に対し、研究者は「驚異的」と評している(※)。
誰かと一緒によいことをすることが運動になる。そしてそれが純粋に楽しい。人間本来のあり方は、社会のなかでつながりをつくりながら、いきいきと活動し、喜ばれること。そんなことに気づかせてくれるグッドジムのアイデアを、孤独の蔓延する大量消費社会を変えるアイデアとして、ぜひ広めていきたいものだ。
※ GoodGym Ecorysレポート 2021
【参照サイト】グッドジム公式ホームページ
【参照サイト】What went right this week: how to boost life satisfaction, plus more
【参照サイト】Fitness Business 日・米・英の民間フィットネスクラブ市場規模データ(2016年〜2021年)
【参考文献】LSE x GoodGym May 2024 event booklet
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Edited by Erika Tomiyama