どんな状態でも、自分の肌と生きる。スキンポジティブ・ニュートラルの考え方で「美」を捉え直す

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完璧な肌と聞いて、どんな肌を想像するだろう。白く透き通っていて、キメが整っていて、潤いがあって、テカリもニキビもシミもシワもない──そんな「まっさらな」肌を思い浮かべた人も多いのではないかと思う。

広告などを作る際、モデルの写真に加工を施すことは良く知られているが、現代では、専門知識を持たずとも、誰もが写真を加工して理想の肌を作り上げられる。様々なアプリで写真を簡単にフィルター加工したり、リタッチしたり……今や、ニキビを消し、肌のトーンを上げ、「完璧な肌」を作り上げるのは造作もないことである。

また、世界のビューティー&パーソナルケア市場の規模は日に日に拡大。2024年の世界の市場売り上げは、6,462億米ドルに上る見込みで、同市場は年率3.33%で成長すると予想されている(※)

こうした化粧品業界の拡大により、最新の美容トレンドや製品が次々と市場に登場することとなる。つまり、スキンケア製品の選択肢が増えることにより、あらゆる方法で「美しい肌」を追求することができるようになったのだ。その結果、誰もが「美しい肌」を管理すべきだ、することができるはずだ、というプレッシャーがより一層強まっている。

ありのままの肌を愛する「スキンポジティブ」の誕生

完璧な肌へのプレッシャーが高まるなかで誕生したのが「スキンポジティブ」の概念である。これは、どんな状態でも自分の肌を受け入れ、そのまま肯定していく、そして自分のありのままの肌を愛そうとする考え方のことだ。

インスタグラムにおける「#SkinPositivity」のハッシュタグがつけられた投稿の数は、28.4万件(2024年6月現在)。それぞれが、ニキビや湿疹、酒さ、白斑、シミ、シワなど、自分の肌の状態をありのまま写した写真をアップしている。

おしゃれなデザインのニキビパッチが多く登場しているのも、肌の状態をポジティブに受け入れる動きの一つと言えるだろう。ニキビパッチとは、ニキビができた部分に貼ることで、炎症部分を保護するアイテム。これまでは肌色などの目立たないものが多く見られたが、近年はファッションの一部として楽しめるようなデザインのものが登場している。

例えば、STARFACEのHydro-Starsは、星形のニキビパッチだ。世界の著名人が使用していることで知られており、人気アイテムの一つである。

 

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また、モデルであり、ボディポティジブ活動家のチャーリー・ハワード氏が立ち上げたスキンケアブランド「Squish Beauty」では、花の形をしたニキビパッチを扱っている。

 

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スキンポジティブの話をする際によく挙げられるのが「#FreeThePimple」というハッシュタグを使ったSNS投稿のムーブメントだ。これを考案したのはインフルエンサーのルー・ノースコート氏である。

Women’s Healthによると、もともとモデルをしていたルーは、16歳の頃、ニキビができ始めたことがきっかけでエージェンシーから解雇されてしまったという。その後、彼女は重度のニキビに悩まされ、それらを隠すために四六時中化粧をするように。肌のせいで不安にさいなまれたり、自己肯定感が低下したりするようになった彼女は、「自分と同じような人がいるかもしれない」と勇気を出し、「#FreeThePimple(ニキビを解放しよう)」のハッシュタグとともに自分のニキビの写真を投稿。その後、同じようにニキビに悩んでいる人たちがSNSに自身の肌の状態をアップする動きが起きた。

ルーは、このハッシュタグを通じて、自分の肌をそのまま愛することの大切さを訴え、ポジティブなメッセージを伝えたのだ。

 

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肌を愛せなくても良い「スキンニュートラル」の考え方も

スキンポジティブと似たような考え方に、「スキンニュートラル」がある。これは、自分の肌を意識して「愛そう」とするのではなく、肌の状態を肯定も否定もしない考え方のことだ。

スキンニュートラルでは、自分の肌にネガティブな感情を持つことも許す。ポジティブなこともネガティブなことも含めて、自分の肌に対する自身の感情を認識するのだ。そして自分の肌に対する感情を、偽りのポジティブさで覆い隠そうとせず、受け入れることを奨励している。

また、肌の状態から自分の価値やアイデンティティを切り離し、肌によってその人の価値や価値が決まるわけではないと認識することを重要視している。

スキンポジティブ・スキンニュートラルの考え方があれば万事OK?

そうはいっても、スキン「ポジティブ」・スキン「ニュートラル」という言葉が使われるのは、結局のところ「ある一定の基準」が確かに存在しているからこそなのではないだろうか。

例えば、「プラスサイズモデル」という言葉がある。これは、いわゆるすらりとした「モデル体型」ではなく、ふくよかでグラマラスな体つきのモデルを指す言葉だ。プラスサイズモデルの起用は、身体の多様性を体現し、美の価値観をとらえ直すものとして紹介されることがある。

だが、「プラスサイズ」という言葉は、一定の基準があって、それよりも「プラス」されたサイズであるという意味を持つ。暗に「普通」ではない、ということを示してもいると言えよう。本当にすべての体型を包括するのであれば、どんな体つきのモデルも単に「モデル」と呼ぶはずだ。

同じようなことが、スキンポジティブ・ニュートラルにも言えるのではないかと思う。「完璧な肌であることが一番良いことだ」という「普通」が存在しているからこそ、スキン「ポジティブ」・スキン「ニュートラル」という言葉で「普通でない状態を認めよう」としなければならない現状が生まれているのではないだろうか。本当にありのままの状態が自然に認められているのであれば、肌は単に「スキン」なのだから。

「完璧な肌であれ」という呪いにかけられた私たち。スキンポジティブ・スキンニュートラルという言葉を使わなければ自分を認めることができない状態も、この呪いの結果なのかもしれない。

大切なのは、選択肢を知ること

ネット上では、スキンポジティブ・スキンニュートラルの考え方に救われたという声も多い。だが、この考え方を万人が取り入れなければならないかと言われるとそうではないだろう。

他人からの圧力ではなく、自分の意思で、いわゆる「美の基準」を本当に美しいと思う人も多くいるはずだ。だがもし、その美が自分の意志ではなく他人の意志で導かれるものにすり替えられてしまったと感じたとき、美の基準が自分を苦しめるようになってしまったとき。そんなときの選択肢として、スキンポジティブ・スキンニュートラルの概念があれば良いのだと思う。

一つの美の基準しか選べないのと、いろいろな美の基準や考え方を知った上で自分の思う美の基準を選ぶのとでは、大きく意味合いが異なってくる。「そうしなくても良い」可能性を知った上で、「やっぱり私はこうする」と決められたらそれはとても幸せなことだろう。一人一人の美の基準が、それぞれを苦しめる呪いではなく、自分らしさを解き放つための指針になることを願う。

Beauty & Personal Care – Worldwide(Statista)

【参照サイト】STARFACE
【参照サイト】Squish
【参照サイト】What is Skin Neutrality(Medium)
【参照サイト】WHY SKIN NEUTRALITY IS THE WAY FORWARD(Upcircle Beauty)
【参照サイト】Wait, Where Did All The Skin Positivity Go?(Refinery29)
【参照サイト】#Freethepimple Is The Acne-Bearing Instagram Movement Defying Beauty Standards(ELLE)
【参照サイト】‘I Showed My Acne While Competing On “Top Model”—Then Started A Movement To #FreethePimple’(Women’s Health)
【参照サイト】“Skin is not good or bad; it’s not a point of conversation”: Decoding the skin neutrality movement(VOGUE WORLD PARIS)
【参照サイト】Is Acne the Final Frontier of Body Positivity? | i-D(YouTube)
【参照サイト】Embrace your skin 2020 – Official video(YouTube)
【関連記事】ボディポジティブとは・意味

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