社会をもっとよくする世界のアイデアマガジン、IDEAS FOR GOODの編集部が選ぶ、今月の「ちょっと心が明るくなる世界のグッドニュース」。前回の記事では、水不足が続くインドでエンジニアが空気から水を生み出した事例や、自然の中では時間の感覚がゆっくりになるという研究結果などを紹介した。
日々飛び交う悲しいニュースや、不安になる情報、ネガティブな感情ばかりを生む議論に疲れたあなたに。世界では同じくらい良いこともたくさん起こっているという事実に少しのあいだ心を癒し、また明日から動き出そうと思える活力になれば幸いだ。
愛に溢れた世界のグッドニュース5選
01.イギリス下院がこれまでで最も多様性ある議会に
14年ぶりの政権交代が確実となったイギリス。野党である労働党が、同議会下院において650議席中411議席を獲得するなど、大きな転換点を迎えた。だが、注目すべきなのはこれだけではない。議会内において「過去最高」のある大きな変化が起きていた。
同下院が、史上最も多様性の高い議会となったのだ。黒人系、アジア系、少数民族のバックグラウンドを持つ議員が全体の13.8%にのぼった。人口全体における黒人系、アジア系、少数民族の比率は18%であり、同じ割合になることも夢ではなさそうだ。さらに、なんとジェンダーバランスも過去最高を記録した。全体の40.5%にあたる263名が女性議員だ。
この「多様性のある」議会は、労働党が新たに政権を握る中、どのような国づくりを進めていくだろうか。今後の動きにもぜひ注目したい。
【参照サイト】Landmark for representation as diversity of parliament nears that of electorate
【参照サイト】The United Kingdom just elected its most diverse Parliament ever
【参照サイト】General election 2024 results
02.イルカの皮膚から発想を得たコーティング材が船のCO2排出量を年間900トン削減へ
水を切って優雅に、けれども驚くようなスピードで泳いでゆくイルカたち。なぜ、彼らはそこまで速く泳ぐことができるのか。決して軽くはない身体でも水の抵抗を受けずに進めるのは、ある秘密が隠されているからだ。
実は、イルカの皮膚は柔軟な微細構造を持っており、粘液と合わさることによって、多様なスピードで泳ぐ際に変形しているという。これにより、高速で移動する際には皮膚が薄い乱流層を生み出し、摩擦を大幅に抑えているそうだ。中国・寧波の研究所がこの特性を活用したコーティング塗料を開発し、現在は貨物船への活用を推進している。
実際に、中国と中東を行き来する大型タンカーのプロペラに塗布したテストでは、200日にわたる航海において燃料消費の2%削減に貢献したという。数字だけを見るとインパクトが小さいように見えるが、同研究所によると、塗料により年間900トン以上の二酸化炭素排出量の削減が見込まれている。他の生き物が秘める力は計り知れない。自然に優しい社会を作るには、自然からたくさんのことを学ぶ必要がある。
【参照サイト】Across China: Bionic Dolphin Skin Saves Fuel for Large Crude Carrier
【参照サイト】Bionic dolphin skin propeller slashes hundreds of tonnes of emissions
【関連記事】バイオミミクリーとは・意味
03.エクアドルの裁判所、マチャンガラ川での汚染を「川の権利侵害」と認める
自然物にも権利があるとの考え方を示す自然の権利は、エクアドルで初めて認められ、アジアや欧州にも広がってきた。この権利に基づき、同国で新たな一歩が踏み出されたようだ。
2024年7月7日、エクアドルの裁判所は、マチャンガラ川が汚染されている現状は川の権利を侵害しているとの判決を下したのだ。地元政府はこれに対し控訴しているものの、裁判所は「控訴する間であっても川の浄化計画を立案すべき」との判決までも出しているという。
裁判に携わった活動家も「歴史的だ」と賞賛した今回の判決。自然の権利が認められるだけでなく、それが行使され自然が守られる事例がこれに続くことを願いたい。
【参照サイト】Ecuador court rules pollution violates rights of a river running through capital
【参照サイト】‘Great news’: Ecuador river is granted the right to not be polluted in historic court case
04.遅延のストレスを緩和する、ボストンの電車に描かれた「目」
米国マサチューセッツ州・ボストンの電車に突如「目」が描かれた。ぬいぐるみの目のようにまん丸で、黒目部分は車両によって異なり、あちらこちらを向いている“ギョロ目”だ。マサチューセッツ湾交通局が導入したこのデザインには、一体どのような目的があるのだろうか。
そのきっかけは、市民グループによる「電車に目をつけてほしい」というリクエストであったという。その提案の背景には、「電車にパーソナリティを与えることで、電車が遅延したとしても人々がイライラすることなく愛と理解を感じられるように」という想いが込められていた。これを面白いと感じた同局は、早速このアイデアを実践したのだ。
日本では公共交通の遅延が少ないと言われているが、海外では何分も遅れることが日常茶飯事の地域も多い。大事な時に限って遅延する電車やバスに苛立つこともあるが、こうしてデザイン一つで市民の心を少し和らげることができるかもしれない。
【参照サイト】A Boston transit rider was frustrated by a late train. She asked the city to give them googly eyes
【参照サイト】March for Googly Eyes on the T
05.コペンハーゲンの飲食店で迷惑客へのイエローカードを導入
日本でも話題になっているカスタマーハラスメント、通称“カスハラ”の問題。レストランで理不尽な理由で店員を怒鳴りつけたり、カスタマーセンターの電話に対して不適切な態度で長々と電話をしたり……こうした行為が働き手の負荷になっているとして、対策が進められている。
この課題に対しコペンハーゲンのダイニングチェーン・Madklubbenは、客からの暴言や無礼な行為、セクハラなどを受けた場合に、従業員が上司と相談したうえでテーブルにイエローカードを置くことができる制度を導入した。もし、それでも改善が見られない場合には店から出るよう求めることができるという。
「お客さまは神様」という考えは根強いかもしれない。だがそれ以前に、従業員も一人の人間として尊重されるべきだ。このイエローカードは、現在の社会通念やシステムに対する警告とも言えるだろう。
【参照サイト】Copenhagen restaurants introduce yellow cards for misbehaving diners