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自然の権利とは・意味

自然の権利とは?

自然の権利とは、人類中心主義の考え方を超え、人類と自然が共存する関係を認識し、その関係を尊重するための指針である。

この考え方は、人類だけでなく、木々や海、動物、山といった生態系全体にも権利があるという認識に基づいている。その認識は、人類にとって何が良いか、他の種にとって何が良いか、さらには地球全体にとって何が良いかを考え、持続可能なバランスを取るためのものである。

自然の権利の法的位置付け

生態系の頂点に人類が位置づくと考えれば、生態系を代表して、自然が権利を行使できるよう、ルールを作る責任を人類が有するといえるかもしれない。

例えばエクアドルでは、2008年に自然の権利という理念を明記した憲法案が国民投票で承認された。10条には「自然は、憲法が認めるそれらの諸権利の主体となる」と明記した。また、71条には「自然すなわちパチャママは、生命が再生され生み出される場であり、その生存、およびその生命サイクル、構造、機能と創成プロセスの維持と再生を統合的に尊重される権利を有する」ことがうたわれた。

ボリビアでは、2010年に「母なる大地の権利法」を公布。全10条からなる権利法の第7条では、母なる大地が7つの権利を有すると定められた。7つの権利とは、生命への権利、生命の多様性への権利、水への権利、清浄な大気への権利、均衡への権利、回復への権利、汚染から自由に生きる権利のことだ。

自然の権利に関する国際法廷

自然の権利を行使できるよう、整備を進めるのはエクアドルやボリビアだけではない。自然の権利を求めるグローバル連帯(Global Alliance for the Rights of Nature)という国際運動組織によって、2014年1月に国際自然権裁判所が設立された。

国際自然権裁判所の目的は、世界中の人々が地球の破壊に抗議する声を上げ、地球の保護と回復について勧告するためのフォーラムを開催することだ。また、先住民が土地や水、文化に関する独自の懸念と解決策を国際社会と共有できるようにすることにも、重点を置いている。

先住民の価値観に滲む自然の権利

国際自然権裁判所が先住民の懸念や解決策に注目するのは、そこに自然の権利を大切にする豊かな価値観を有しているからだ。エクアドルの憲法に明記されている「パチャママ」とは、先住民の言葉で自然を指す。エクアドルの憲法には、先住民の価値観が反映されているのだ。

また「シアトル主張のスピーチ」で知られるインディアンの思想にも、自然の権利が行使できるよう、わたしたちが生活することが表れている。

「大地がわたしたちに属しているのではなく、わたしたちが大地に属しているのだ」というフレーズからは、生命への権利や生命の多様性への権利を想像することができる。

国際社会の発展に伴い、様々なことができるようなったり、知れるようになったりした。しかし、忘れてしまった大事な価値観もあるだろう。持続可能な社会とは、自然の権利が行使できる社会とも言い換えられそうだ。そして、持続可能な社会構築のためのヒントが、先住民の人たちの価値観にあるのかもしれない。

自然の権利が取り入れられた事例

ニュージーランド・タラナキ山に法的人格を付与

ニュージーランド政府は、2025年1月30日にタラナキ山(Taranaki Maunga)に法的人格を付与する法案を可決した。この決定は、2017年にワンガヌイ川が法的主体として認められた事例に続くものであり、先住民マオリ族の世界観を反映した重要な法改正である。マオリ族にとって、山や川は単なる自然資源ではなく、祖先や神聖な存在と深く結びついた「生きた存在」である。

この法的地位の獲得により、タラナキ山は法的権利を有する存在として扱われ、人間と同様に代理人を通じて法的措置を講じることが可能となる。すなわち、開発や環境破壊が行われた際には、山の権利を守るために訴訟を起こすことができる。これは単なる自然保護の枠を超えた、自然そのものの主体性を認める取り組みであり、世界各国における「自然の権利」運動の先駆的事例といえる。

ニュージーランド議会、タラナキ山の“人格権”を可決。マオリへの補償と世界観の尊重へ

オランダにおける「自然の権利」運動の進展

オランダでは、自然の権利を法的に認める動きがここ数年で急速に進展している。2023年には「自然の権利財団(Rights of Nature Foundation)」が設立され、地方自治体や市民団体と連携しながら、自然を法的主体とする法案の制定を推進している。

この動きの一環として、オランダ国内の複数の自治体が「自然の権利宣言」を採択。特定の河川や森林に法的権利を与える試みを進めている。例えば、アムステルダムでは市議会が都市の緑地に「生きた権利」を認める方針を検討しており、開発計画の際には自然の利益が考慮される仕組みが導入されつつある。

世界で広がる「自然の権利」保障。自然の声に耳を傾ける、オランダの事例

プロジェクト「ドメル川の政治」が意思決定の主体を問う

オランダ南部を流れるドメル川(Dommel River)では、「ドメル川の政治(Politics of the Dommel River)」という革新的な取り組みが進められている。このプロジェクトは、川を単なる自然資源ではなく、政治的な意思決定に関与する主体として認識することを目的としている。

この取り組みでは、地域住民、環境団体、アーティスト、学者などが集まり、川の視点から政策を考えるワークショップや議論が行われている。例えば、川の生態系を守るためにどのような法律が必要か、川が「意見」を持つとしたらどのように表現されるべきか、といった問いが探求されている。これにより、従来の人間中心の政策決定から脱却し、自然を法的主体として扱う新たなモデルの確立を目指している。単なる環境保護運動にとどまらず、自然と政治の関係を根本から見直す実験的なプロジェクトだ。

House of Hackneyが「自然」と「未来の世代」を取締役に任命

英国のインテリアブランド「House of Hackney」は、2023年11月に「母なる自然(Mother Nature)」と「未来の世代(Future Generations)」を正式な取締役として任命するという画期的な決定を下した。この試みは、企業の経営方針に環境と持続可能性の観点を根本的に組み込むことを目的としている。

この制度の下では、取締役会において「母なる自然」と「未来の世代」を代表する役割を担う人物が選ばれ、企業の意思決定の際に環境や次世代の利益が考慮される仕組みとなっている。具体的には、新しい製品の開発や原材料の調達、サプライチェーンの見直しにおいて、環境負荷の低減を優先する決定が下されるようになった。

この事例は、従来の企業ガバナンスの枠を超えた新たなアプローチとして注目されており、今後、他の企業でも同様の取り組みが広がる可能性がある。企業の社会的責任(CSR)を超え、環境や未来世代を経営の中心に据えることで、持続可能なビジネスモデルの構築が進むことが期待されている。

「自然」と「未来の世代」を取締役に。声なき声に耳を傾ける、英国インテリアブランド

【参考サイト】Rights of Nature and extractivism in Latin America: the cases of Ecuador and Bolivia Hidekazu Araki
【参考サイト】What are the Rights of Nature? – Global Alliance for the Rights of Nature
【参考サイト】Rights of Nature – Australian Earth Laws Alliance
【参考文献】父は空 母は大地 インディアンからの伝言 ロクリン社




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