歩きやすさが街の多様性を育む。バルセロナ・スーパーブロックの現在地

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「歩きやすくて、いいまち」

バルセロナにいる友人たちに、まちの魅力を聞くとこう答える人が多い。そんな答えを聞くたびに、やはりバルセロナは住みやすい都市なのだろうと思う。

そうした住みやすさを感じさせているのは、今では世界中から注目されている「スーパーブロック」計画をはじめとする都市計画の効果が大きいだろう。「スーパーブロック」とは一般の車両の通行が大幅に制限され、地元住民の自転車、歩行者のみが通行できる道路を備えた区画のこと。

歩行者にやさしい街の経済効果とは?「車のない街」バルセロナを歩く

バルセロナはEUで最も自動車密度が高い都市の一つとされ(※1)、環境汚染や騒音などが懸念されていることから、いわゆる“カーフリーシティ(Carfree city)”への転換を行っているのだ。

以前は交差点だったアイシャンプラ地区のスーパーブロック

以前は交差点だったアイシャンプラ地区のスーパーブロック 2024年7月撮影

スーパーブロックでまちの魅力アップ。大気汚染が大幅改善

歩行者優先のまちづくりとして打ち出された計画とあり、スーパーブロック内では自動車は一方通行で、時速10キロまでの速度制限が付いていたり、大きな遊具を置いて車が完全に通れないよう整備したりした場所もある。地区ごとによって特色があるが、狙い通り、どこのスーパーブロック内でも歩く人の姿が目立つ。

市内では自動車の交通量が減ったことで大気汚染が改善された。2024年8月上旬に地元メディアが報じたもので、バルセロナでは二酸化窒素のレベルが2023年に大幅に改善し、過去25年以内で最低を記録したという(※2)。この改善には2020年に導入された、特定の排出基準を満たさない古い車両の走行が制限される「低排出ゾーン(ZBE)」が大きく貢献しているが、スーパーブロックなどで歩行者優先、自転車利用が促進されたことや、公共交通機関の脱炭素化も大気汚染の改善を後押ししている。

ポブレノウ地区のスーパーブロック

ポブレノウ地区のスーパーブロック 2022年撮影

環境面だけでなく、スーパーブロックは地元住民と利用者の健康、そして幸福に良い影響を与えている。バルセロナ公衆衛生局(ASPB)がポブレノウ、サン・アントニー、オルタに導入されたスーパーブロックを調査し、まとめたレポートで報告されている(※3)。それによるとこの3つのエリアでも騒音低減や汚染が改善されたことや、スーパーブロックにより人々の幸福感が高まり、社会的交流などが増加したこと、さらに糖尿病、肥満、癌、うつ病などの予防にも役立つことが科学的に証明されたというのだ。

バルセロナ公衆衛生局は、スーパーブロックがより広く実施されることで、地域住民の幸福感だけでなく、健康にも良い影響を与える可能性があると結論付けた。

すべての子どもがのびのびと暮らせるように。バルセロナの都市計画

さらにレポートでは、地域住民が同じ場所に集うようになり、交流が促進され、人間関係や社会的なネットワークが構築されていることを強調している。ポブレノウのスーパーブロックには子ども連れの家族が多く訪れることも特徴で、就業前後などに付近の遊び場へ子どもと遊びに来るのだ。

遊び場については、バルセロナ市が都市計画の一環で、子どもたちが公共の場で遊ぶ権利を保障するため、公園、ビーチなど、まち全体を遊びやすい場所とする「Plan for Play in Public Spaces(まちの遊び場計画)」を推進していることも背景にある。市内にはすでに900ヶ所以上の遊び場が作られ、障害のある子どもを含む、すべての子どもが遊べるようにすることを目標に据えている。この計画とスーパーブロックがいい影響を与え合った結果といえるだろう。

ポブレノウ地区で路上に遊びが設置されている

ポブレノウ地区で路上に遊びが設置されている 2022年撮影

他の人と交差する感覚。多様な人々との交流の場に

筆者はサン・アントニー地区に足を運んだ。スーパーブロックの実施以来、大気汚染物質が25%減ったこの地区では調査に協力した住民全員から好意的な評価を受け、10点満点中8〜10点がつけられた。この地区でも安全性が高まったほか、交流が盛んになり、社会的なつながりが生まれている。

サン・アントニー地区

サン・アントニー地区 2024年6月撮影

取材中に出会った母ポリさんと娘のラケルさん親子にとってもお気に入りの場所だ。2人はしばしば買い物帰りに休憩しているそう。出会った日は散歩の途中で一休みをしていたところだった。ボリさんが魅力を教えてくれた。

「ここに来ると、他の人と交差する感覚があります。子どもだけ、高齢者のためだけ、といった場所じゃない。宗教の違う人だって来る。小さな子どもが音楽もなしに踊り出すのを見ると可愛くて仕方ないんです。彼らを見ているだけで楽しいし、居心地がいいですね」

母ポリさんと娘のラケルさん

サンアントニー地区で出会った親子、母ポリさんと娘のラケルさん 筆者撮影

筆者もスーパーブロック内を歩き、ベンチに座ってみて、その快適さを感じた。

一方で、乗り越えなければならない課題もある。ポブレノウの地域住民からはスーパーブロックを少し外れたエリアでは交通量が増え、環境汚染や事故の危険度が高まっていることを懸念しているという声もある。

また、スーパーブロックでは誰でもウェルカムなはずだが、遊び場付近には高齢者が行きづらいと感じる人や、その逆で高齢者ばかりが集まる場所を若い世代が避ける傾向がある。また、バルセロナでは近年、地価が高騰し、人々が家賃の手頃な郊外へ移る動きもある。地価が高騰した理由には、投機目的の住宅購入や観光客向け短期アパートが市内に増加した要因のほか、スーパーブロックで住みやすさが向上し住みたい人が増えたからだと指摘する人もいる。

バルセロナ市が今後これらの課題にどう向き合っていくのだろうか。これからも良いまちであり続けるように、その過程を見ていきたい。

※1 Dades bàsiques de mobilitat 2013
※2 Barcelona records lowest nitrogen dioxide levels in 25 years
※3 Salut als Carrers (Health in the streets)

【参照サイト】The Overview :Barcelona Superblock Project: Blueprint for the Green City of the Future?
【参照サイト】Catalan News:Barcelona records lowest nitrogen dioxide levels in 25 years
【参照サイト】Ajuntament de Barcelona:HOW ARE WE TRANSFORMING INTO A PLAYABLE CITY?
【参照サイト】Agència de Salut Pública de Barcelona:Salut als Carrers. Avaluació dels àmbits Superilles
【参照サイト】Agència de Salut Pública de Barcelona:RESULTS REPORT Salut als Carrers (Health in the streets)
【関連記事】歩行者にやさしい街の経済効果とは?「車のない街」バルセロナを歩く

Edited by Erika Tomiyama

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