歩行者にやさしい街の経済効果とは?「車のない街」バルセロナを歩く

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パリやヘルシンキなど、世界中の都市の中心部では、歩行者や自転車などを中心にした“カーフリーシティ(Carfree city)”に転換する動きが広まっている。今まで自動車中心だった道路を「歩行者視点」から再設計することによって、より安全な場所に変えると同時に、大気汚染や騒音公害を大幅に削減できることも示されている。

自動車利用を制限することは多くのメリットがあるが、ビジネス関係者からは、物品の搬送をするドライバーが不便になり、売上や収益への悪影響を恐れてカーフリーシティの導入に反対する意見も根強い。

また、駐車場がないことで、来店客が減り、売上も減少するのではないかと懸念する声もある。今回は、筆者が暮らすスペイン・バルセロナを例に、「カーフリーシティの経済的効果」に焦点を当ててみていきたい。

バルセロナの「市民」を街の主人公にする「スーパーブロック・プロジェクト」

スペイン・バルセロナは、カーフリーシティ構想を掲げている都市の一つである。2030年までに9つのブロックからなる居住区を作る「Superblock Project(スーパーブロック・プロジェクト)」を進めており、区間の一部を歩行者と自転車専用のスーパーブロック(特別区間)にすることで、地域経済を活性化させながら、より緑豊かで、公平で、安全な公共空間を創造することを目指している。

歩行者優先道路になったConsell de Cent通りは広々としており、植物も植えられている

現在、バルセロナでは街のあちこちで工事が進められている。また、すでに工事が完了している通りはいつも人でにぎわっていて、とても明るい雰囲気だ。市のホームページを見てみると、それらの通りはこの場所で生活する人を中心にデザインされていて、歩行者が優先されると明記されている。自転車は特に制限なく道を通ることができ、この道にあるガレージや駐車場へはいつでもアクセス可能だ。

広々とした道には、人々が交流したり、休憩したりするためのベンチや、テーブルが多く並べられている。また、子どもたちが遊べる広場には、植物が植えられていて、都市の中心にいながらも自然を感じることができる。

自動車の「便利さ」とのバランスをどのようにとる?

冒頭で述べた、「物品の搬送をするドライバーが不便になる」などの点ではどうだろうか。

カーフリーシティは一般的に、自動車をゼロにするのではなく、自動車を減らすことを意味する。特定の地域や指定された道路での自動車の使用を制限したり、駐車スペースを撤去したりと、各都市によって取り組みはさまざまである。

バルセロナのスーパーブロックの場合、一般車両は、時速10キロで走行し、歩行者優先を尊重するという条件で、歩行者優先のグリーンハブ内を通行できる。しかし救急車や消防車、運搬業者を除いた一般車両は、複数の通りを連続して通ることはできず、各ブロックで曲がらなければならないため、少し不便になっている。

物品搬送を担当する配送業者の車は、平日の午前9時30分から午後4時まで、停車できるのは最大30分間、さらに公式アプリでの登録・認証が必要となるなど、条件付きでアクセス可能だ。

こうした機能を使いながら、市民の快適さと、自動車の「便利さ」のバランスをとっていく必要があるだろう。

カーフリーシティの経済効果は?

一方で、カーフリーシティでは、自動車で来店する買い物客の数が減っても、徒歩や自転車、公共交通機関で来店する人の数が大幅に増えることで、道に面する店舗の売上には影響がないという調査結果がでている。2016年に100以上の都市を対象に行われた調査によると、歩行者専用道路では人通りが増え、その結果、小売店の売上も約49%増加したという(※1)

また、コペンハーゲンで行われた調査によると、自転車利用者は自動車利用者よりも買い物の頻度が高く、消費額も多いことがわかっている。歩行者が増加した場合、来店者数は20~35%増加すると、リビング・ストリーツ・スコットランドによる2018年の調査でも結論づけられている(※2)

さらに他の都市の例でも、自転車利用者は自動車の運転者と同じくらい、あるいはそれ以上にお金を費やしており、商業用通路に自転車レーンを設置すると、その通路に沿った小売売上高の増加を伴う傾向があることがわかっている。

実際に、カーフリーになっている通りにいくと、いつもよりゆっくりお店を見て買い物をしたり、自動車だと通り過ぎてしまうようなお店にも立ち寄ってみたりすることが増える。さらに、車がないことで穏やかな気分で食事をして満足度があがり、自然とその地区の滞在時間が長くなると、筆者自身も感じる。

「また行きたい」と思うような場所になっているカーフリーシティが、より住みやすい空間を作り出し、経済的な利益をもたらす可能性は高い。「より良い社会を」と考えたときに、経済面を考慮することで、より実現的になるのではないだろうか。

※1 Benefits of pedestrianization and warrants to pedestrianize an area
※2 LIVING STREETS
【関連記事】再び「市民」を街の主人公に。バルセロナの新しい街づくり「Superblock Project」
【参照サイト】What are the economic benefits of car-free cities?
【参照サイト】GREEN HUBS AND SQUARES IN THE EIXAMPLE DISTRICT

Photo by Risa Wakana
Edited by Erika Tomiyama

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