9月21日は国際平和デー。編集部が選ぶ、戦争と平和を考える映画と本まとめ

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毎年9月21日は「国際平和デー」だ。1981年にコスタリカが発案し、国連総会で制定された。特に、世界の停戦と非暴力の日として認知されており、ユネスコはすべての国と人々に対し、この日は敵対行為を停止するよう働きかけているという。また国際平和デーは、ニューヨーク国連本部に置かれている日本の「平和の鐘」が鳴らされる日でもあるのだ。

そんな日に、改めて平和の尊さや、暴力のない世界に向けて考える時間をつくってみるのはどうだろうか。今回は、編集部から平和について考え直すのにおすすめしたい映画や本を紹介したい。

平和について考え直す映画と本

第2次世界大戦中の“何気ない日常”を描く映画『この世界の片隅に』

『この世界の片隅に』は、こうの史代の同名コミックを原作とした2016年公開のアニメーション映画だ。第2次世界大戦下の広島・呉で、大切なものを失いながらも前向きに生きようとするヒロイン・すずと、彼女を取り巻く人々の日常を生き生きと描いている。

戦争映画というと、絶えず戦場のシーンが描かれるようなイメージを持つ人もいるかもしれない。だが、こちらの映画で描かれるのは、あくまでも「何気ない日常」。そして、そんな「普通」の日々のなかに組み込まれた戦争であるように思う。戦争という重いテーマを扱いながらも、軽やかさが感じられ、だからこそ苦しくもなる。様々な感情が湧き上がってくる映画だ。

自由を求める人々の叫びを映すドキュメンタリー映画『ガザ 自由への闘い』

  • 公開: 2019年
  • 公式サイト:Gaza Fights For Freedom
  • ※ 映像には過激な戦闘シーンが含まれるため、18歳以下の視聴に制限が設けられています

イスラエル軍に包囲され抑圧される中東パレスチナ・ガザ地区の現実、そして2018年から1年以上にわたりパレスチナの人々が行った平和的なデモ「帰還の大行進」の様子を映した2019年のドキュメンタリー映画。イスラエルによるパレスチナ占領の歴史を紐解きながら、現地の映像やインタビューを通して、自由を求めるパレスチナの人々の叫が伝えられる。

鳥は自由にフェンスを超えていく
彼らはどこまでも飛んでいく
僕が占領を嫌う本当の理由が分かった
自然の法則に反するからだ
飛ぶことを禁じられているからだ
(アーメド・アブ・アルテマ帰還の大行進 主催者)

2023年10月にイスラエルとハマスの衝突が勃発してから1年が経とうとする今、ガザやパレスチナの人々は映画の描写をさらに上回る悲惨な状況に置かれているだろう。今この瞬間も、人間としての当たり前の権利を訴え続ける人々がいる。私たちが決して目を背けてはいけない現実があることを、改めて思い出させてくれる映画だ。

シリア内戦の現実を、内側から多面的に描くノンフィクション『人間の土地へ』

  • 著者:小松由佳
  • 出版社:集英社インターナショナル
  • 刊行日:2020年9月25日

日本人女性として初めてK2登頂と生死の境目を歩き、シリア内戦・難民をテーマに活動するフォトグラファー小松由佳さん。そんな著者がシリア内戦を家族や友人のストーリーを通して、報道とは全く異なる視点で描いたノンフィクションだ。

「人間は、最低限の生活が保障され、安全を手にしても、それだけでは生きるために十分ではないのだ。ラドワンや、その他大勢のシリア人が、危険を顧みずシリアへ帰るのは、そこが住み慣れた土地だからというだけでなく、人生を自ら選択する自由があるからではないだろうか(中略)日々の選択によって自分があるという実感。それこそが“人間の命の意義”ではないだろうか」

本書に出てくる人々の物語は、自分が今生きている日常とまったくの地続きである。なぜ戦争は、この地球を無慈悲に破壊できるのか。生命や人間、そして平和について考えるきっかけをくれる一冊だ。

アウシュビッツを生き抜いた心理学者が極限状態の人間模様を描いた『夜と霧』

  • 著者:ヴィクトール・E・フランクル
  • 訳者:池田香代子
  • 出版社:みすず書房
  • 刊行日:2002年11月5日

わたしたちは、おそらくこれまでのどの時代の人間も知らなかった「人間」を知った。では、この人間とはなにものか。人間とは、人間とはなにかをつねに決定する存在だ。人間とは、ガス室を発明した存在だ。しかし同時に、ガス室に入っても毅然として祈りのことばを口にする存在でもあるのだ。

ユダヤ人の心理学者として、アウシュビッツを生き抜いたフランクルが内部の人間模様を描いた一冊。ホロコーストやナチスの歴史を綴った本が多くある中、『夜と霧』は収容所の惨状だけではなく、そこでユーモアを交えながら語り、祈りを捧げた人々の個人としての物語を描いた。フランクル自身も収容所で「選別」され、離れ離れになった妻と、“精神の中で”会話した経験に救われたと語る。

特定の存在を「悪者」とし、歴史を「失敗」だったと評価することは簡単かもしれない。しかし、その中を生き抜いた人々には、彼ら自身の物語が存在したのだ。不条理な戦争がなお終わることなく、罪なき人々が命を落とすこの時代に、その物語に改めて耳を傾けたい。

難民となってもリオ五輪への出場を果たした17歳の記録『バタフライ』

  • 著者:ユスラ・マルディニ
  • 訳者:土屋京子
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 刊行日:2019月3月19日

2016年のリオオリンピック・パラリンピックで初めて結成された、難民選手団。その一人となったシリア出身の17歳、ユスラ・マルディニの幼少期から内戦、欧州への移動、オリンピック出場までの道をユスラ自身が綴った一冊だ。

その日、その瞬間のありさまが、10代らしい親しみやすい文調と、正直な表現を通して伝わってくる。あたかも友人の日記を読んでいるかのように、シリアを取り巻く状況の片鱗を感じ取ることができるだろう。

今年のパリ大会でも、オリンピックに36選手、パラリンピックに8選手が難民選手団として出場。パラリンピックでは、難民選手団から初のメダリストが生まれたことも話題になった。心からの祝福を送ると同時に、母国の代表としては出場が叶わない選手たちがいることに、今一度想いを馳せたい。『バタフライ』は、そのきっかけとなるはずだ。

国際平和デーに「知る」を重ねる

私たちは映画や本を通して、今世界のどこかで生きている、または生きた他者と出会い直すことができる。その過程で、ただ「知るだけ」という立場に思い悩んだり、無力感に苛まれたりするかもしれない。

それでも、「知らない状態」に戻ることはできない。私たちは知ることを重ねて、より他者への想像をめぐらせることができ、今までと異なる行動を起こすことができる存在へと変化しているのではないだろうか。

Edited by Natsuki

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