【2024年10月】B Corp認証のリアルから脱成長まで。ニュースレター編集部コラム4選

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表裏一体である「手間と面倒臭さ」から考える、本当の持続可能性の手がかり(8月22日配信)

Written by Natsuki


いま自宅では、ごみを何種類に分別しているでしょうか。日本の自治体では、11〜15種類が平均的な分別数だと言われています。筆者が暮らす徳島県上勝町では、2024年8月現在、43種類に分別しています。ここはゼロウェイストタウンとして知られる町で、ご存じの方も多いかもしれません。

上勝について話すと「そんな多くの分別があったら、どうやって家で分けておくのか」「そんな大変なことを続けられるのか」と質問されることも少なくありません。

しかし、そこは他の街の暮らし方と同様で、自宅のごみ箱は町の分別と一致しているわけではありません。収集にあたっては43種類が存在しますが、自宅では日常的に出しているごみに合わせて10種類程度に分けている町民が多いのではないかと思います。

筆者の家では、ごみの分別はおおよそ10種類だけです。生ごみ、プラスチック、廃プラスチック、紙、汚れた紙、燃やすごみ、段ボール、缶、瓶、木材……。その多くは、結局ごみステーションに持ち込んでから、その場でそれぞれの箱に入れていきます。家で何十種類も分けている町民は、おそらくいません。

ただし、自宅で必ず分けておくものもあります。たとえば、きれいなプラスチックと汚れているプラスチック、きれいな紙類と汚れている紙類。汚れの有無によって回収コストが異なるため、多くの場合分別すれば処分費用を抑えられるのです。

もちろん、筆者の分別方法はただの一例にすぎません。もっと丁寧に分けている人や、もっとざっくり分けている人もいるかもしれません。あくまでも、分別の粒度は個人に任されていて、それぞれの要領でおこなっています(最終的にはごみステーションスタッフの皆さんが分別を整えるなどして管理してくださっています)。

このような形で、ほぼすべての町民が、43分別に従ってごみを出しているわけです。そんな上勝町に住み始めて、筆者は、分別を通して「手を動かしていること」の大きな意義を感じています。

分別をするということは、ごみとなるモノの素材が何であるかを確認し、洗う必要があるかを判断し、必要ならば油っぽさがなくなるまで洗浄し、それを乾かし、分別の袋に入れて、収集場所に持っていくという全工程を経験することを意味します。

これは、一見すると“面倒臭い”作業かもしれません。最新のテクノロジーですべて一気に分別することもできるのかもしれません。しかし筆者は、その手作業があるからこそ、どの包装方法がリサイクルしやすいかを考えて購入できるようになり、世に出回る商品がいかにリサイクルしにくいものばかりかを実感するようになりました。

つまり、この「手間」が何か重要な役割を果たしているように見えるのです。自分がどんなごみを出し、それが回収後に何になるのかを把握した上で、自らの身体性を伴ってその過程に携わること──そんな手間のかかる方法は、結果として環境負荷を抑え、市民の間で暮らしを捉え直す機会を生んでいると感じています。

面倒臭いと思う日もあります。地元の中学生も「洗うのが面倒臭い」と口にします。それでも、それが無意味な強要ではなく、地域の自然と社会に資する大事な手間だと知っているからこそ、どうにか続くものなのかもしれません。

環境問題や、自然そのものと向き合うとき、この「手間」と「面倒臭さ」の捉え方を考えてみると、個人の関わり方や時間の使い方が変わってくるはずです。

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スイスのオーバーツーリズム対策と広告規制にみる、住み良いまちのつくり方(8月29日配信)

Written by Megumi

お盆が終わり、だんだんと通常運転に戻っている方も多いかと思います。ロンドン在住の筆者は今年の夏休みをスイスで過ごしました。欧州の夏休みと言えば、もともとイタリア・スペイン・ポルトガルなど南欧が旅先として人気でしたが、近年は気候変動の影響でそれらの地域が40℃を超えるような酷暑となり、最近では本来寒い地域であった場所の人気が伸びているようです。スイスもその一つで、ターミナル駅には多くの観光客の姿が見られました。

スイスと言えば、ハイジの物語で描かれるような雄大な自然を思い出す方も多いかもしれません。もちろん、山々や湖などの自然にもいたく感動したのですが、実際に訪れていて意外なところで感銘を受けたのが、街のとあるシステムでした。

スイスの一部の都市では、現在観光客用のパスが宿泊施設に連動して発行されるようになっています。訪れたのは首都のベルンやローザンヌ。ホテルでチェックインをすると、ホテル側で発行された数字のパスワードやQRコードが渡されます。その後、アプリをインストールしてそのパスワードを入力することで、宿泊機関中の公共交通の無料パスを手に入れることができるのです。

公共交通を使うときのシステムは各都市で異なるため、旅行の際などは到着したら最初に調べてチケットを購入しなければならないのが常ですが、スイスではそのストレスがなかったのが印象的でした。またそのように「乗り放題のパス」を渡すことで、タクシーなどではなく、なるべく「公共交通で移動しよう」という意識が働くことにもなります。

オーバーツーリズムがあまりに顕著な場所では、そもそも公共交通すら逼迫しているため、この方法では対策しきれないかと思いますが、スイスの「観光客を排除する」のではなく「観光客をシステムの中に包摂していく」姿勢は、非常に新鮮に映りました。

また、スイスで印象的だったのは、街の広告が圧倒的に少ないことです。筆者は今まで東京とロンドンで暮らした経験があり、欧州では他の多くの街に対して「広告が少ないな」という印象を抱くのですが、スイスはその中でも特に街頭広告が少なかったように思います。

2024年8月に、ジュネーブにほど近いスイスのベルニエ市が、商業広告の全廃を決定しました。ベルニエ市は人口3万8,000ほどの小さな町ですが、広告を「視覚汚染」だとして町の景色から取り除いていこうと動いているのです。これは、公共空間を市民の手に取り戻す動きの一部でもあります。首都のベルンも主に商業広告の全面禁止を目指しているようで、街にあった数少ない広告はアートの展示を知らせるものなどでした。

オーバーツーリズム対策と、広告の規制はまったく別の話題なようですが、地元の人々の快適な生活と街全体の収益のバランスをどのように取っていくかという点において、同じジレンマを抱えているようにも思います。スイスはその両方において、他国・他都市とは少し異なるアプローチを取っているように見えました。

駅で大きなスーツケースを引く人々や、スマホで地図を見て右往左往する人々を避け、目的地に向かって早歩きをする……ロンドンでのそんな日々に戻ってから、これが本当にベストな形なのか、と疑問を抱かざるをえなくなりました。

【関連記事】「広告は、視覚汚染である」スイスの町が街頭広告を全面禁止に
【関連記事】オーバーツーリズムに加担したくないあなたへ。「より良い旅行者」になるためのヒント7選

B Corpは企業の認証として十分か?広がる「ウォッシング」への懐疑を、認証企業として考える(9月19日配信)

Written by Megumi

「B」のマークを街中で、そして自宅で見かけたことはあるでしょうか。

これはB Corp認証と言われる国際認証であり、社会や環境に配慮し、持続可能なビジネスを実践する企業に与えられるものです。B Corp認証を取っている企業は、利益だけでなく社会的責任を果たす企業であるとみなすことができます。

現在世界でB Corp認証を取得している企業は約7,000社。日本では40社が認証を受けており、1,000社が登録するイギリスは最も大きな拠点の一つとなっています。筆者が暮らすロンドンでは、B Corp認証を見かけずに街を歩くのは不可能であると感じるほど。さまざまな商品のパッケージに、地下鉄の広告に、「B」のマークが付いています。

B Corpは認証を得るまでに、そして認証を取り続けることに、一定の努力が必要だと認識されてきました。実際に、IDEAS FOR GOODを運営するハーチ株式会社でもB Corp認証取得に向けて新しいチームが立ち上がり、2023年に認証を得てからも社内でさまざまな取り組みが続いています。

環境負荷を算出するために、出張で利用した飛行機や使用しているパソコンの環境負荷をそれぞれが調べ、シートに記入。また、それぞれのオフィスでどのようなごみの分別がされているか、入居するビルに再エネが利用されているかなどを調べます。さらに、社員だけではなく、業務委託のパートナーも含め、健全な環境で働けているかヒアリングをし、企業としての情報開示を行うイベントも開催しています。

このように、取得には一定の努力が必要とされてきたB Corp認証。しかし、最近ではそれに対してウォッシングを懐疑する声が広がっているのも事実です。

一つの要因は、B Corp認証を取得する企業数が増えたことで、企業のガバナンスに関する問題が露呈したこと。一部のB Corp認証取得企業が化石燃料を使用する企業をクライアントに持っていることが指摘され、さらに2024年2月には、B Corp認証である仏食品大手ダノン傘下の飲料水ブランド・アクアが、インドネシアの河川に捨てられたペットボトルの中で最も多いことが報じられました。このように、B Corp認証が企業のサプライチェーン全体を監視するシステムとしては機能していないことが明らかになったのです。

さらに二つ目の要因としては、認証自体のアプローチが挙げられます。B Corpは5つの影響領域(環境、労働者、顧客、コミュニティ、ガバナンス)を評価する「総合的な」アプローチであると主張していますが、2024年9月現在、認証を取得するには200点中80点を取れば良い。つまり、特定の領域(たとえば「環境」)で0点を取っても、B Corpのロゴを表示できてしまうことになります。これでは、企業をホリスティックに評価することはできないという声があがっているのです。

B Corpの価値は「認証」としてだけではなく、「コミュニティ」にも置かれていることは、その内部にいる企業の一員として実感するところです。そのコミュニティが広がり、企業間のコミュニケーションが活性化されることは喜ばしいことなのですが、今後多くの国・地域でもB Corp認証取得企業が飽和状態になることで、消費者がより懐疑的になったり、管理が行き届いているのか不明瞭になったりすることがあるかもしれません。

B Corp認証が環境そして社会へのインパクトを示し続けられるようにするには、消費者や第三者機関の監視だけに頼っていては不十分です。取得企業内および、取得企業同士が業務を改善し合えるコミュニケーションを取り、認証自体の信頼性を磨き続けることも必要になってくるのではないでしょうか。

【参照サイト】B Corp certification pros and cons
【参照サイト】As greenwashing soars, some people are questioning B Corp certification
【関連記事】B Market Builder Japan始動。日本のB Corpムーブメントの舞台裏とこれから
【関連記事】B Corp取得企業は経済危機に強い?改めて考える、収益と社会性の関係

私たちがすべきことは、単に「エシカル商品」を購入することではない。パリで斎藤幸平氏が語ったこと(9月26日配信)

Written by Erika Tomiyama

先週末、筆者が住むフランス・パリにある世界的に有名な現代美術館・ポンピドゥーセンターで、今や国際的に著名な日本の哲学者の講演がありました。

その人物とは、マルクス主義や脱成長の理念に関する研究で知られる、斎藤幸平氏。同氏は2020年に著書『人新世の「資本論」』が日本で50万部以上を売り上げ、一躍時の人に。このイベントは、フランス語版『Moins ! : La décroissance est une philosophie(少ない!脱成長は哲学である)』の発売を記念したもので、会場には多くの人々が集まっていました。

「私たちは一生懸命働いているのに、なぜ幸福になれないのでしょうか。気候危機が地球を破壊していることはわかっているのに、なぜビジネスはいつも通りに進められているのでしょうか。この問題を解決するためには、根本的に異なる改革が必要であり、その答えが『脱成長コミュニズム』であるというのが、私の主張です」

日本人としてサステナビリティに関する取材をフランスでしていると、斎藤氏について尋ねられることも増えました。「脱成長」という概念に関しては、これまでも様々な本が書かれていましたが、このテーマがこれほどまで国民に支持され、本が売れたことは世界でも“異例”の出来事であったからです。斎藤氏の功績は世界的に評価され、メディアで彼の名前を見ない日はないほど。彼の著書は現在、12ヶ国語に翻訳されています。

今日、誰もが資本主義が大きな地球規模の危機を生んでいることを知っています。しかし、問題があまりにも抽象的すぎて、個人として何ができるのか分からなくなっているのです。結局、多くの人がエコバッグやエコボトルを買うのは、他に何ができるか想像できないから。よく言われるのは【資本主義の終わりを想像するよりも、世界の終わりを想像する方が簡単だ】ということです。これが、今日の私たちの想像力の限界を示しています。

よく脱成長は「緊縮」や「質素」と結びつけて考えられますが、今世界で議論が進む脱成長の概念は、決してそうではありません。斎藤氏は脱成長を「公共の豊かさ」や「公共の贅沢」であると表現します。

資本主義の基本原則は「商品化」ですが、斎藤氏がこれからの進むべき方向として挙げるのが「共通化(コモン)」の拡大。私たちがすべきことは、単に「エシカル商品」を購入することではなく、公共交通機関への投資を増やし、カーシェアリングシステムを拡大し、さらに自転車利用を促進すること。公共の財やサービスに誰もが無料でアクセスできる仕組みを構築することで、社会全体が豊かさを享受できる状態を作り出すことができるというのが、今世界で支持されている斎藤氏の主張なのです。

資本主義の外側にある可能性を、個々人が想像することは難しいと思う人もいるかもしれません。斎藤氏はトークセッションの中で「小規模なローカル活動の重要性」を話しました。斎藤氏は本の出版後、友人たちと一緒に「コモンフォレストジャパン」というグループを立ち上げています。地元の森を共同で購入し、その森をコモンズとして再生させる活動です。

斎藤氏は、著書の中でも「人口の3.5%の人々が根本的に行動を変えれば、社会は必ず変わる」と主張しています。こうしたローカルな実践が、より広範な視点から世界的な危機にどう対処するかについての洞察を与えてくれる──重要なのは、私たちが世界的な危機に直面している一方で、その実践やアクションは各地域の実態に合わせて適応させる必要があるということ。私たちが今直面しているグローバルな危機に圧倒されるのではなく、むしろターゲットを絞ったローカルな行動を起こすことが重要なのです。そう足元を見て考えれば、自然と今自分ができることも見えてくるかもしれません。

斎藤氏自身も、かつては「脱成長は退屈で良くないもの」と思っていたと言います。世界そのものを変えるには時間がかかりますが、今日のこのような議論は、少なくとも10年前には存在し得なかったものです。そう考えれば、日本の哲学者の思想が国内だけでなく世界中に広まり、これほどまでに支持されていることは、今グローバル規模で大きな価値転換を示していると言っても過言ではないかもしれません。

【関連記事】【パリ視察レポ】「脱成長」始まりの国フランス。市民に学ぶ「節度ある豊かさ」とは?(Beyond Circularity 2023)
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