【イベントレポ】クリエイティビティを引き出す、これからの時代の自然コミュニティ。都市だからこそ生まれる「森づくり」の価値とは?

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気候変動により、地球の温度はますます上昇しています。国連によると、1800年代に比べて地球の気温は1.1度上昇しているといいます(※)。このまま気温上昇が続けば、人類は自然災害や紛争、食料不足などさらなるリスクにさらされるでしょう。

気候危機は環境だけでなく、社会や政治、世界システムなど複雑に絡み合って私たちの前に立ち塞がっています。

私たちは、複雑な問題が組み合わさっているこの気候危機に対して、どう向き合っていけばいいのでしょうか。ますます進行の一途をたどっている気候変動を抑えていくためには、これまで以上に大胆な改革が必要だ──そんな想いから、IDEAS FOR GOODと株式会社メンバーズが始めた共創プロジェクトが「Climate Creative(クライメイト・クリエイティブ)」です。

Climate Creativeではこれまで、数々のイベントを開催してきました。(過去のイベント一覧

14回目となる今回は「クリエイティビティを引き出す、これからの時代の自然コミュニティ。都市だからこそ生まれる「森づくり」の価値とは?」と題して株式会社NEWPARK代表の渡辺英暁さんをお招きし、アーバンシェアフォレスト「Comoris」の取り組みやそこに生まれている共創型コミュニティ、都市で行うからこその森づくりの意義などについてお話しいただきました。

この記事では、そのイベントの第一部の様子をお伝えします。

渡辺 英暁(株式会社NEWPARK代表)

渡辺さん(株)パルコにて商業・文化施設でのまちづくりを、デジタルクリエイティブ企業でのデジタルアート、サービス・プロダクト開発を経て、まちづくり×テクノロジーの(株)NEWPARKを創業。[新しい公園]をコンセプトに、都市の未活用スペースを、予期せぬ出会いや学びの空間に変えることを通して、人と自然と街の関係のアップデートを目指す。

生物多様性の危機と、企業に求められる動き

最初に、ハーチ株式会社の大石から生物多様性の現状について説明がありました。

生物多様性は人の生活に密接に関わってきます。たとえば食糧や水の供給、気候の調整、土壌形成、二酸化炭素固定など、生態系によって人間が恩恵を受けている部分が多くあります。

ところが、近年は生きている地球指数の減少や農業従事者数と基幹的農業従事者数の減少など、生物多様性が失われつつあります。生物多様性の危機要因として、乱獲といったオーバーユース、逆に人間の手が入らなくなることによって生じるアンダーユース(里山は人間の手が入ることによって生物多様性が保たれてきた)、外来種、気候変動の4つが挙げられます。

生物多様性の危機と企業に求められる動き

そこで、生物多様性を守るためのネイチャーポジティブという考え方があります。ネイチャーポジティブは、生物多様性の毀損に歯止めをかけ、自然をプラスに増やしていくことです。また、2021年6月に英国で開催されたG7サミットで、各国は世界目標の決定に先駆けて「30 by 30」を推進することを含む「G7 2030年自然協約」に合意しました。30 by 30とは、ネイチャーポジティブの実現に向け、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする目標です。

そしてTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)SBTs for Nature(自然に関する科学に基づく目標設定)など、企業に対しても自然環境や生物多様性に関するアクションが求められています。

生物多様性の危機と企業に求められる動き

都市の中で森をシェアし、「土や微生物とお隣さんになる」Comorisの共創コミュニティ

続いて登壇されたのが、今回のゲストである株式会社NEWPARK(以下、NEWPARK)代表の渡辺英暁さん。同社は、テクノロジーを活用して、人と自然のための共創空間をデザインするクリエイティブスタジオです。「新しい公園」をコンセプトに、都市の未活用スペースを、予期せぬ出会いや学びの空間に変えていくサービスやプロダクトを開発しています。

渡辺さん「NEWPARKは『都市のさまざまな場所に人と自然のための共創空間をデザインする』という目的のもと立ち上げました。わたしに、「  」を、街にNEWPARKを。という弊社のブランドメッセージにあるかぎかっこ内が空欄なのは、私たちが届ける”NEWPARK”というプロダクトやサービスは、体験する人によって異なる価値を生むものでありたいという想いを込めています。」

comoris

そのNEWPARKと共同でプロジェクトを行っているのが、ACTANT FORESTです。ACTANT FORESTは「これまでのデザインは人間のためにどれだけ心地いいものを作るかという観点から考えていたが、自然という存在を忘れていなかったか」という疑問をきっかけに、2020年に山梨県の4000坪の森を拠点に活動を開始。自然をデザインする(Design Nature)のでも、自然のためにデザインする(Design for Nature)でもなく、自然の中の多様なアクターをパートナーとして迎え入れ、これからの環境・社会変化に対応するしくみやライフスタイルを一緒になってデザインする「Design with Nature」のアプローチを試みています。

Actant Forest

両者は2024年、アーバンフォレストのシェアサービス「Comoris」を共同で立ち上げました。Comorisは、空き地や遊休地をメンバーシップ制の小さな森に転換することで、都市に住む人が自然とのつながり方を見直し、新たなライフスタイルを発見していくコミュニティを目指しています。同時に、街の中のラボ(グリーンリビングラボ)として、人々のクリエイティビティを引き出す場づくりも行なっています。2024年5月から、代々木上原の住宅地にある空き地を利用して社会実装を開始しています。

渡辺さん「Comorisを通して都市に森を増やすことがゴールではなく、人々の価値観や行動変容に関わりたいと考えています。主に二つの機能があり、一つは『土や微生物とお隣さんになる』ぐらいの気軽さで、子どもから大人まで楽しめる場として、土壌を改善するワークショップや、自分たちで育てたハーブを使った朝食会を開催するなど、自然と触れ合うコミュニティになっています。もう一つは、Comorisをリビングラボと見立て、大学や企業、デザイナー、まちの方と共創しながら製品・サービスの実証実験や、様々な場での森づくりに活用できるデザインキットを開発したりしています。NEWPARKとしても、使い方によって椅子やベンチだけでなく、プランターや水槽など人以外ためにもなる屋外家具を開発し、Comorisで使用しています。」

Actant Forest

comoris

こうした取り組みを通して、自然への共感を持つことに加えて、行動を起こせる人を増やすことが、生物多様性を維持する一歩になると渡辺さんは話します。

渡辺さん「緑地面積の減少や都市人口の増加などの問題があり、ネイチャーポジティブに変えていこうという世界的な潮流があります。一方で、現在の都市生活では自然に触れる機会が極端に少ない現実があります。自然へのエンパシーや創造力を育むには自然と交流することが大切ですが、既存の公園は様々な制約があり、なかなか能動的に自然に関わることができません。そこで、セミパブリックに色々な人が気軽に自然と関わっていける場所としてComorisがその役割を果たせたらと思っています」

渡辺さん

みんなで一緒にサービスをつくりあげていく

Comorisは、メンバー(会員)や、その「森」に集まる様々な生物たちとともに空間やサービスを作り上げていくのが特徴です。メンバーは月会費を支払うとNFTの会員証が付与され、都市と山中・山間部の森を自由に使用でき、様々なアクティビティに参加しながら、メンバー同士で交流することができます。また、例えば代々木上原のComorisには犬の糞のコンポストやおしっこポールが設置されるなど、人間以外の生き物への関わりしろも作られています。

さらに、運営には「DAO(分散型自律組織)」の仕組みを活用しており、メンバーが場を運営する主体者として一人一票の権利があります。また、メンバー間でやり取りできるトークンを用意することで、自立分散型の運営を目指しています。

ComorisのDAO

渡辺さん「トークンは現在設計中ですが、大きく2つで運営されます。ガバナンストークンは運営方針に関わる部分を決めます。オンライン上の投票システムを使い、たとえば『トマトがこのままだと大きくなりすぎてしまうので地植えして良いですか?』と投げかけ、過半数の票を獲得すれば実施して良いというルールです。一方、ケアトークンは、たとえば水やりするとポイントが貯まり、貯まった人には次期の会費割引やグッズ優待などのインセンティブが得られる仕組みを考えています」

こうして、メンバーが自然と触れ合い、自然と共に考えながら行動することで、自然への共感やメンバー一人ひとりの創造力が育まれていくしくみになっています。

渡辺さん「2024年9月末に代々木上原のComorisの実証期間が終了する予定で、引っ越し先を検討中です。都市に森を増やす初期段階では、法人とのパートナー連携が重要だと考えています。企業が持つ有効に活用されていない土地、例えばビルの中庭や以前は喫煙スペースだったような場所を活用して、その会社のESG経営や社員のウェルビーイング、屋外共創空間として機能させることで、Comorisを広げていきたいです」

都市にいながら主体的に自然と関わるしくみを作ることで、自然と関わる関係人口を増やし、生物多様性を維持していく。そのアプローチ方法がユニークで、今後の取り組みが楽しみです。

次回のイベントも、ぜひご期待ください!

What Is Climate Change?-United Nation

【参照サイト】1.5度目標とは

Edited by Erika Tomiyama

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