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生物多様性とは・意味

biodiversity

生物多様性とは

生物多様性とは、陸、淡水、海洋、大気のすべてのレベルにおける生きものの多様性と、複雑な生態系に存在する全ての生きものの命のつながり・相互作用のことである。地球上の生きものは40億年の長い歴史の中で環境に適応し続けてきた。生きものたちは、すべて直接的、間接的につながり、支え合い、壮大な命の循環を作り上げている。

1992年に制定された生物多様性条約では、次の3つのレベルで多様性があるとしている。

  • 生態系の多様性:森林、里山、河川、湿地、干潟、サンゴ礁など、いろいろなタイプの生態系がある。
  • 種の多様性:動物、植物、細菌などの微生物まで、いろいろな生きものがいる。
  • 遺伝子の多様性:同じ種でも異なる遺伝子を持つことにより、形や模様、生態などに多様な個性ができる。

生物多様性(biodiversity)という言葉は、biological(生物の)とdiversity(多様性)の2語を組み合わせた造語として1985年に生まれた。その後、地球環境への危機感、特に絶滅危惧種の増加への不安から、多くの政治家、科学者、活動家、市民に使われるようになった。

生物多様性はなぜ重要なのか?

生物多様性は、水や大気、食べ物、紙や建材のもとになる木材など、様々な資源の源となっているほか、森や海の環境は地球の気温や気候を安定させる役割や、災害の防波堤の役割も果たしている。人間の生活は陸上、淡水、海洋の生態系からの恩恵(生態系サービス)によって支えられており、IUCN(国際自然保護連合)の試算によれば、生態系がもたらしているこれらのサービスを経済的価値に換算すると、1年あたり33兆ドルにもなるという。

また、生物多様性は新しい医薬品や作物品種などの開発に役立つ遺伝資源を提供しており、医薬品の成分には、5万種から7万種もの植物からもたらされた物質が貢献していると言われているなど、人類の健康にも大きく貢献してきた。さらに、生物多様性は地域性豊かな文化の多様性を支え、文化的・精神的な価値も提供している。

近年は、自然を基盤とした解決策(NbS:Nature-based Solutions)という概念が定着してきており、生物多様性と気候変動を総合的に対処する動きも高まっている。例えば、森林や沿岸域などの生態系が健全に保たれていることは炭素吸収源対策として重要であり、生態系を活用した気候変動緩和策として、森林吸収源対策、ブルーカーボン、都市における緑地整備などの取り組みや検討が進められている。また、再生エネルギーのうち、バイオマス(特に木質)利用は、エネルギーの地産地消、自然災害へのレジリエンスの確保、地域産業や地域コミュニティの活性化とともに、生物多様性の保全が期待できる。

生物多様性の危機

近年の人類による環境の搾取により、生物多様性が持っている自然の回復力、生産力を25%も上回る規模で資源が消費されていると言われており、生物多様性の喪失が世界的な課題となっている。

特に過去50年における急速な経済成長、人口の増加、国際貿易、テクノロジーの多様化などによってエネルギー、食料、その他原料の需要が増加したことを背景として、土地や海の利用の変化、動植物資源の過剰消費、気候変動、汚染、侵略的外来種などが起こり、生物多様性の損失や生態系と生態系サービスの劣化が進行している。経済価値や社会価値のある生態系サービスを乱用してきたことにより、100万種もの動植物が絶滅の危機に瀕し、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類の1~2.5%の種はすでに絶滅しており、個体群や遺伝的多様性も低下しているという。

WWFが2年に一度発行している、地球環境の現状を報告する『Living Planet Report:生きている地球レポート(2022年版)』によると、野生種の相対的な個体群の推移を追跡している「生きている地球指数」で、1970年から2018年の間に、野生生物の個体群は相対的に平均69%減少している。また、淡水域の「生きている地球指数」(1970年~2018年)によると、淡水生息域の個体群は平均83%減少している。

生物多様性に最も富んだ17か国のうち15か国がグローバル・サウスに位置している。開発途上国では、生物多様性を保護するためのリソースが限られていることから、異常気象など気候変動の影響を受けている。

生物多様性が失われたらどうなるのか?

生物多様性が失われると、以下のように人間の生活や健康、地球環境にさまざまな深刻な影響があると考えられている。

まず、生態系は、さまざまな生きものが相互に依存し合って構成されているため、その一部が欠落することにより生態系が不安定になり、生態系全体が崩壊する可能性がある。そして、農業、漁業、林業、医薬品開発、エネルギー生産など、多くの分野で重要な役割を果たす生物多様性が低下すると、これらの分野での供給源が減少し、経済的な影響をもたらしうる。

また、気候変動に対する生態系の回復力が低下することで、気候変動の影響がより深刻になる可能性もあり、健康に影響を与える微生物や新しい感染症の発生の可能性が高まるなど、人間の健康への影響もある。さらに、生物多様性は地球上の多様な文化や伝統と密接に関連しているため、生物多様性の低下は、文化的な多様性が失われることにつながる可能性もある。

このように、生物多様性の喪失は、社会、経済、地球環境に深刻な影響をもたらし、私たち人間の暮らしやウェルビーイングに大きく関わってくる問題であることがわかる。

生物多様性を守る国内外の動き

国際社会の動き

生物多様性条約

1992年、世界全体で生物多様性の重要性を確認し、取り組みを進めるための「生物多様性条約」が国連で採択された。2023年4月現在、日本を含む194か国、欧州連合(EU)及びパレスチナが締約国となったている(アメリカ合衆国は未締結)。条約には、先進国の資金・技術力で開発途上国の取り組みを支援する仕組みが提唱され、生物多様性を保存していくための資金・技術力が充分ではない開発途上国をサポートできるようになっている。また、生物多様性に関する情報交換や調査研究を各国が協力して行うことが書かれている。条約の締約以降は、締約国会議(COP:Conference of the Parties)が、世界各地でおおむね2年に1回開催されている。

愛知目標

2010年10月に愛知県で行われたCOP10(国連生物多様性条約第10回締約国会議)には、世界各地から180の締約国と関係国際機関、NGO等のオブサーバーも含めて計1万3,000人以上が参加。COP10は、2002年のCOP6(生物多様性条約第6回締約国会議)で採択された「生物多様性の損失速度を2010年までに顕著に減少させる」という「2010年目標」の目標年にあたっていたため、そのレビューと今後の目標を定める会議となった。COP10では2010年までの目標が達成できなかった反省から、2010年以降の世界目標となる新戦略計画として、各国に積極的な行動を促す「明確」で「わかりやすい」世界目標、戦略計画2011-2020(通称:愛知目標)が策定された。

昆明宣言

2021年10月に開催されたCOP15(国連生物多様性条約第15回締約国会議)の第1部会合では、生物多様性の危機的な状況を背景に、閣僚級会合の成果として、「遅くとも2030年までに生物多様性の損失を逆転させ回復させる」と、ネイチャー・ポジティブの考え方が取り入れられた「昆明宣言」が発表された。

森林と土地利用に関するグラスゴー首脳宣言

2021年11月、英国・グラスゴーで開催されたCOP26(気候変動枠組み条約締約国会合)で、「森林と土地に関するグラスゴー首脳宣言」が採択された。森林に関する共同宣言は、2014年国連の気候サミットで採択された「森林に関するニューヨーク宣言」以来。新宣言では、2030年までに森林減少を止めて回復に向かわせ、持続可能な土地の利用と開発を推し進めることを約束する。

また、先進国12か国・地域が「国際森林資金に関する誓約」に署名し、各国政府や民間から合計192億ドルが投じられることも発表された。この宣言には、世界最大の森林面積を誇るロシアを始め、ブラジルやインドネシア、コンゴ民主共和国など、広大な熱帯雨林を有する国も署名しており、参加国すべてを合わせると世界の90%以上の森林面積がカバーされることになる。

2022年11月、エジプトのシャルム・エル・シェイクで開催されたCOP27(気候変動枠組み条約締約国会合)では、議長国主導のイベントの一環として「森林・気候のリーダーズ・サミット」が開かれ、「森林と土地に関するグラスゴー首脳宣言」を確実に進めていく「森林と気候リーダーズ・パートナーシップ」の設立が発表された。このパートナーシップには、日本をはじめとした27の国・地域が参加している。

昆明・モントリオール生物多様性枠組と30by30目標

2022年12月に開催されたCOP15(国連生物多様性条約第15回締約国会議)の第2部会合では、2020年までの国際目標であった愛知目標に代わる、2021年以降の新たな国際目標が議論され、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択された。同枠組では、生物多様性の観点から2030年までに陸と海の30%以上を保全する「30by30目標」が主要な目標の一つとして定められたほか、ビジネスにおける生物多様性の主流化等の目標が合意された。

2030年ミッションとして「生物多様性を保全し、持続可能に利用し、遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分を確保しつつ、必要な実施手段を提供することにより、生物多様性の損失を止め反転させ回復軌道に乗せるための緊急な行動をとる」との内容が掲げられ、ネイチャー・ポジティブへの転換が喫緊の課題として認識されたかたちとなった。

公海条約

2023年6月、193か国が参加した国連の政府間会合で、地球上の海洋の6割を占める「公海」の生物多様性の保全と持続可能な利用を目指す「国連公海条約」の締結が採択された。この条約は、1994年に発効した「海洋法に関する国際連合条約」を全面的に改正・強化するもの。新条約では、2030年までに公海の約30%を保護区に設定するほか、海底の鉱物資源開発へ新たな規制を設ける。「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の「30by30目標」を達成するには各国の領海だけでは難しく、この条約で国際水域である「公海」の保全を進めることが期待される。条約の発効には60か国による正式な批准が必要となるため、国連は、参加国の早期批准を呼び掛けている。

海の問題に国境はない。国連が初めて「公海」を保護する条件案を採択

自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)

上記のような国際条約以外にも、民間主導で生物多様性を保全するためのグローバルなイニシアティブも生まれている。その代表的な動向のひとつが「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD:Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)」である。2021年に発足したTNFDは、金融機関や企業に対し、自然資本および生物多様性の観点からの事業機会とリスクの情報開示を求める、国際的なイニシアティブである。2023年3月に開示フレームワークの最終の草稿版(ベータ版4.0)が公開された。2023年9月頃に最終版が公開される予定となっており、自然資本や生物多様性に関する開示が進むことにより、生物多様性保全の取組みが促進することが予測される。

日本の動き

日本では、2008年に生物多様性基本法を制定。「生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する施策を総合的かつ計画的に推進することにより、豊かな生物多様性を保全し、その恵沢を将来にわたって享受できる自然と共生する社会を実現し、地球環境の保全に寄与すること」を目的とし、地域の生物多様性の保全、野生生物の種の多様性の保全、外来生物等による被害の防止などの保全策や、持続可能な利用に重点を置いた施策を行っている。

また、1995年に最初の生物多様性国家戦略を策定し、定期的に見直しを行いながら、国内の生物多様性の保全に取り組んでいる。2023年3月に発表された「生物多様性国家戦略 2023-2030 ~ネイチャーポジティブ実現に向けたロードマップ~」は、新たな世界目標「昆明・モントリオール生物多様性枠組」に対応した戦略として策定されており、2030年のネイチャーポジティブの実現を目指した、地球の持続可能性の土台であり人間の安全保障の根幹である生物多様性・自然資本を守り活用するための戦略と位置付けられている。

日本においても、生物多様性を保全するための民間主導のイニシアティブが生まれており、そのひとつが2023年2月に発足した「Finance Alliance for Nature Positive Solutions (FANPS)」である。

FANPSは、ネイチャーポジティブ転換の促進・支援に向けた金融機関によるアライアンスであり、株式会社三井住友フィナンシャルグループ、MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社、株式会社日本政策投資銀行、農林中央金庫の金融機関4社を中心に、株式会社日本総合研究所、MS&ADインターリスク総研株式会社、株式会社日本経済研究所、株式会社農林中金総合研究所を加えたメンバーで構成されている。研究機関とも協力しながら、産学でネイチャーポジティブに係る知見を集積する場を整備していくことを計画しており、国内でのネイチャーポジティブ転換の議論が推進され、取組拡大につながっていくことが期待される。

私たちができること

「生物多様性を保全する」「地球の生命のつながりを維持する」と聞くと、あまりにも大きなコンセプトに感じてしまうが、生物多様性の保全のために私たちができることは、たくさんある。

  • 普段使っているものがどこからきたものか関心を持つ。そして、生物多様性を脅かさない方法で作られたものを選ぶ。(FSCやMSCなどの認証マークがついたものを選ぶなど)
  • 生態系に悪い影響を及ぼす活動をしている企業のものを、買わないようにする
  • 絶滅危惧種の問題や外来種の問題などを調べ、まわりに伝える
  • 地元でとられた旬の食べ物を食べる
  • 環境省のいきものログで生きもののことを調べたり、登録したりする
  • 身のまわりの生物多様性に関心を持つ

生物多様性の今後の課題

大きな課題は、生物多様性という言葉への認知度の低さだ。2014年に行われた内閣府による世論調査で「生物多様性」の言葉の意味を知っているか聞いたところ「言葉の意味を知っている」と答えた人の割合が16.7%、「意味は知らないが、言葉は聞いたことがある」と答えた人の割合が29.7%、「聞いたこともない」と答えた者の割合が52.4%となっており、聞いたことのない人が半数以上いる。

TNFDなどの取組みにより、企業における認知度は上昇していると考えられるが、個人レベルでも生物多様性の認知度を高め、皆で共に保全に取り組んでいくことが大切だ。

【参照サイト】生物多様性とは(環境省)
【参照サイト】MY行動宣言(環境省)
【参照サイト】生物多様性とは?その重要性と保全について(WWFジャパン)
【参照サイト】生物多様性条約(環境省)
【参照サイト】環境問題に関する世論調査(内閣府)
【参照サイト】生きている地球レポート 2022 (WWF)
【参照サイト】TNFD  releases fourth and final beta framework
【参照サイト】三井住友FGなど、「Finance Alliance for Nature Positive Solutions」を発足
【参照サイト】森林と土地利用に関するグラスゴー首脳宣言の概要(農林水産省)
【参照サイト】Beyond borders: Why new ‘high seas’ treaty is critical for the world(国連)

生物多様性に関する記事の一覧




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