スーパーで買い物をしたあと、包装に使われているプラスチックの多さに驚くことは少なくないだろう。野菜や果物の袋やネット、お弁当のプラスチック容器、肉や魚が入ったパックなど、いわゆる過剰包装の状態だ。
この課題を少しでも解決したいと思う一方で、「誰に伝えたらよいのだろう?」、「どうせ自分の意見なんて聞いてもらえないだろう」と思っている人もいるかもしれない。
そんな中、都内にあるスーパー、「コープみらい コープ葛飾白鳥店」でそのような声を持っている消費者が参加できる企画が実施された。「一部のお肉を『トレー』から『ノントレー包装』に変更してもいいですか?」「特定の時間帯に、一部の商品棚の照明を消してもいいですか?」などと書かれた大きなパネルが買い物カゴの返却スペースに設置され、下部にはYES・NOの2つの選択肢が用意されている。
「買い物カゴ投票」と題されたこの取り組みでは、スーパーからの二者択一の問いかけに対して、消費者が買い物カゴを返却する際に、「YES」か「NO」で回答をする。消費者は買い物カゴを返却するだけで投票できる手軽さが魅力で、ふだんの買い物を通して意思表示ができる。また、スーパー側も大がかりな仕掛けを準備する必要がないため、気軽に消費者へ問いかけ、意見を聞くことが可能だ。
また、そのコーナーには消費者が判断するためのヒントになるポイントも並記されている。プラスチック削減だけではなく、家庭ごみが減ることや、そのまま冷凍できることなど日常生活の快適さがアップする点を記載しているもの注目だ。実際の「ノントレー包装」の見本があることで、消費者もイメージがしやすい。
買い物カゴはどんどん積みあがっていき、消費者の声が可視化されていく。その投票結果を受けてスーパーが取り組みを進めることができるという、とてもシンプルな仕組みなのだ。
この「買い物カゴ投票」は、行動科学の知見の活用により、人々がより良い選択を自発的に取れるように手助けする手法である「ナッジ型コミュニケーション」の新たな手法だ。買い物カゴを返却する行為を投票行動に変えることで、より良い売り場をスーパーと消費者が一緒につくる仕掛けなのだ。「WWF(公益財団法人世界自然保護基金)ジャパン」と滋賀県立大学人間文化学部生活デザイン学科の山田歩准教授による共同研究が行われている。
社会全体でサステナビリティのために行動する意識は高まってきているが、「自分ひとりの行動では何も変わらない」と無力感を感じる生活者も多い。しかし、買い物カゴ投票をすれば、自身の投票によってスーパーが変わった様子を目の当たりにすることできる。そのため、消費者の参画意識や自己効力感を高めることにつながるという。
この買い物カゴ投票のマニュアルはWEBでも公開されており、どんな人でも利用可能だ。問いの立て方や、投票の実施方法、売り場への反映の仕方まで詳細に解説されており、実践することができる。
気軽に、でもしっかりと自分の意思を伝えられる仕組みがあると、「わざわざ声をあげなくてもよい」と考える人たちが意見を表明しやすくなるかもしれない。そのような声にならない小さな想いを拾い集め、少しずつ社会が変わっていくことで、大きな課題も解決できるはずだ。
【参照サイト】買い物カゴ投票- WWFジャパン
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