11月23日は日本の国民の祝日である「勤労感謝の日」。この日は「勤労をたっとび、生産を祝い、国民がたがいに感謝しあう」ことを趣旨としている。
近年、この日を「ワーク・ライフ・バランスの日」として位置づけ、働き方と生活の調和を図る動きが活発化している。ワーク・ライフ・バランスは、単に仕事と生活の時間配分を見直すだけでなく、適度な休息や運動、「今ここ」に集中するマインドフルネスの実践、そして幸福感を高める社会的なつながりの育成など、ウェルビーイングの視点が求められている。
世界のワーク・ライフ・バランス事情
それでは、世界ではどんなワーク・ライフ・バランスが実践されているのだろうか。Remote社の「2024年グローバルライフワークバランス指数」やOECDの調査によると、ワーク・ライフ・バランスが進んでいる国々として、ニュージーランド、スペイン、デンマーク、フランス、イタリアなどが挙げられる(※)。
ニュージーランドは、法定年休32日、有給の産休が26週間など、法的に有利な条件が整っており、家族や健康、レクリエーションを大切にする文化が根づいている。また、スペインでは、長時間労働をしている労働者がわずか2.5%のみとされている。これにより、余暇や家族と過ごす時間を確保する傾向があるという。
北欧デンマークは、柔軟な働き方と豊富な休暇制度が特徴だ。特にリモートワークや時短勤務など、仕事の方法や場所を選べる柔軟性が高く評価されており、労働者が生活のバランスを取りやすい制度が整っているといえる。
フランスやイタリアでも、余暇を充実させる文化が浸透している。イタリアでは「il dolce far niente(何もしないことの甘美)」という表現があり、リラックスする時間を大切にする考えが広まっている。
こんなふうに世界では、ワーク・ライフ・バランスとはもはや文化なのである。
世界に学ぶ、ワーク・ライフ・バランス実例アイデア5選
01. 公共機関の週4勤務でメリット続出(イギリス)
欧州を中心に広まっているのが、週4勤務という働き方だ。英国では、公共機関を週4日勤務(週休3日制)にする社会実験が行われた。保守党政府からの激しい反発を招いたが、ケンブリッジ大学とサルフォード大学による研究結果では、離職率が39%減少し、年間371,500ポンド(約7,350万円)の節約になった。また、計画策定が迅速化し、仕事の時間内完了率も15%増加。事務処理にかかる時間も短縮したと報告されている。
自治体やオフィスの労働環境改善のために週4日制を導入することも考えられるだろう。
02. 勤務シフトは自分で決定する、働き方改革(チェコ)
2024年、チェコでは働き方改革の一環として、すべての人々が自由に働き方を選択できるようにする法律改正が進んでいる。全ての労働者は、雇用主との協議のうえで、自分の勤務シフトを決められるようになるという。
ここには、スケジューリングのプロセスを簡素化し、労働者と雇用主の信頼関係を高めるねらいがある。労働者がシフトを自己決定することによって、雇用者に対する立場を高める意味も持つだろう。
03. ハッピーじゃない労働者は休暇を取る、「不幸休暇」のすすめ(中国)
中国河南省のスーパーマーケットチェーン「Pangdonglai(パンドンライ)」は、従業員のワーク・ライフ・バランスのため「不幸休暇」を導入した。仕事に不満を感じるなど、文字通りハッピーな気分でないなら、仕事に来なくてよい、というのだ。
同社は「人を大切にする」スーパーとして知られ、フレンドリーな従業員がいることも魅力とされている。たしかに、ハッピーでリラックスした従業員が多くいれば買い物も楽しくなりそうだ。地域の暮らしのあり方にも直結しそうなアイデアである。
04. 「トラベリング・ビレッジ」で旅行しながら、仕事も家庭も子育てもつながりも(デンマーク)
旅行をしながら仕事ができたら、ワーク・ライフ・バランスは抜群にいいかもしれない。複数の子育てする家族がデジタル・ノマドワーカーとして共同で旅をする「トラベリング・ビレッジ」というアイデアはどうだろう。
居住地を変えながら、新たな「地元」でコミュニケーションし、家族がお互いに助け合って生活する試みだ。2024年1月からの4か月間に総勢70名の家族たちがベトナム、タイ、日本を巡って、旅と仕事と子育て、地域とのつながりを両立させている。
05. 世界中で広まる「つながらない権利」
パンデミック以後、リモートワークが広まるにつれて注目されているのが「つながらない権利」だ。これは例外を除いて、労働時間以外に従業員にメール、電話、チャットなどの方法で連絡することを禁じるもの。
2016年からフランス、その後ベルギー、イタリア、スペインなどのEU諸国やオーストラリア、ケニアなども法制化に乗り出した。国によって罰則規定の有無、企業規模の要件などが異なる。ビジネスリーダーの58%が「つながらない権利」に反対しているともいわれ、労働者のワーク・ライフ・バランスとのせめぎ合いが続いている。
一人ひとりが持続可能で満ち足りた生活を送るために
いかがだっただろうか。ワーク・ライフ・バランスは、仕事と生活のバランスをはかること。しかし、その理想の形は人それぞれ異なるものだ。一人ひとりが持続可能で満ち足りた生活を送るためにも、雇用者と従業員の双方にメリットをもたらすためにも、スローガンだけで終わらせず、権利としてしっかりと確保する必要があるだろう。
こうした世界各国の考えかたも参考にしながら、自分自身や職場のワーク・ライフ・バランスを再検討してみてはいかがだろうか。
※ Remote, 2023 Global Life-Work Balance Index
※ OECD Better Life Index Work-Life Balance
【参照サイト】第25号 平成23年10月31日 配信 – 「仕事と生活の調和」推進サイト – 内閣府男女共同参画局
【参照サイト】What a ‘right to disconnect’ from work could look like in the UK
【参照サイト】Czechia to Let Workers Decide Their Own Schedules
【参照サイト】Right to disconnect: The countries passing laws to stop employees working out of hours
【参照サイト】33 Work-life balance examples to try to improve productivity
【参照サイト】Five countries with the best work-life balance
【参照サイト】Largest UK public sector trial of four-day week sees huge benefits, research finds
【関連記事】「こんな働き方したい!」勤労感謝の日に見る、従業員の心を掴んだワークライフバランス事例
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Edited by Erika Tomiyama