現代社会における様々な社会課題。それらが重要であるとわかっていても、自分ごととして捉えるのは容易なことではない。一人ひとりにとって社会課題を身近にし、それぞれの選択が課題解決への一歩に結びつくようにするためには、企業やブランドが消費者と「どう対話していくのか」「どうコミュニケーションしていくのか」が重要になる。
今回の記事では、2024年にご紹介した企業やブランドのコミュニケーション事例のなかから5つを紹介していきたい。
社会課題をジブンゴト化させる広告・コミュニケーション事例5選
01. 皮肉たっぷり「マイクロプラ」の缶詰
スペインで話題となった「Péllets Delicias del Mar(海の喜びペレット)」。一見すると可愛らしいターコイズブルーの缶詰だが、その中身はマイクロプラスチックだ。この缶詰は、海洋プラスチック汚染の深刻さを訴えるための啓発キャンペーンの一環として制作されたもので、実際に販売はされていない。
このキャンペーンの背景には、2023年12月に、ポルトガル沖にて荒波により貨物船のコンテナが落下し、積み荷であった樹脂ペレットが海に流れ出た事件がある。この問題について啓発し、署名を集めるため、生物多様性の保全を目的とする環境NGO Cheloniaが「夕食にプラスチックはいかがですか?(Plástico para cenar, ¿te lo comerías? )」と題されたキャンペーンを実施したのだ。皮肉を交えた表現を使い、課題に対する強い関心を引き出すアイデアである。
02. スーパーの「買い物カゴ」で欲しい未来に投票
東京都内の「コープみらい コープ葛飾白鳥店」では、消費者の意見を直接反映させる「買い物カゴ投票」という取り組みが行われている。これは、買い物カゴの返却時、「YES」か「NO」それぞれのスペースにカゴを置くことで、パネルに表示された質問に対する自分の意見を表明するというもの。「一部のお肉を『トレー』から『ノントレー包装』に変更してもいいですか?」といった問いとともに、判断の参考となる情報が掲示されており、消費者が具体的にイメージしやすい工夫が施されている。
この方法は、行動科学の「ナッジ」理論を応用したコミュニケーション手法であり、消費者の参画意識や自己効力感を高める効果が期待されている。
また、「買い物カゴ投票」のマニュアルはウェブ上で公開されており、他の店舗でも導入が可能。このような手軽に意思表示できる仕組みは、消費者の小さな声を集め、社会を少しずつ変革させる可能性を秘めている。
03. 経済状況にあわせて商品価格を“3択”から選べる取り組み
カナダ発のスキンケアブランド「The Ordinary」は、生活費の高騰に対応し、消費者が商品価格を選択できる「The price you choose to pay(あなたが選ぶ価格)」という取り組みを試験的に導入した。この施策では、洗顔料、保湿液、ヒアルロン酸トリートメントの3商品を含む「The Daily Set」に対し、通常価格、23%オフ、40%オフの3つの価格が設定され、消費者は自身の経済状況に応じて選択できる。
同社は、通常の価格を支払うことは、この取り組みの継続的な実施を支持することに繋がり、そうした貢献により、良質なスキンケアをより多くの人に届けることができるのだと語る。価格の選択制により、コミュニティの相互協力を生み出そうとしているのだ。
3つの選択肢が与えられることで、消費者は「社会を相対的に捉えて、自分はどれくらい困窮しているだろうか。この商品にいくらまで払うことが妥当だろうか」と、一度立ち止まって考えることとなる。モノが持つ、自分そして社会にとっての価値を捉え直すきっかけとなる取り組みだ。
04. 服に残る「指紋」で作り手の存在を可視化
ドイツのブランド「HUMAN TOUCH」は、衣服の作り手の存在を可視化するため、製品に意図的に手形を残す手法を採用している。縫製者は手に黒いインクを付けて生地に触れ、いつものように服を縫っていく。その、手が服に触れた痕跡をデザインとして取り入れるのだ。同ブランドは、このデザインにより、製品一つひとつに込められた人の手仕事を強調し、製品がどのように作られたかを直感的に感じ取ることができるようにしている。
同社のデザインは、日常的に使用する衣服に込められた人間的な要素を視覚化することで、消費者に製品の背景にある人々の存在を意識させることを目指している。縫製技術を再評価し、労働とテクノロジーの関係性を問い直しているのだ。
05. 「この暑さが続くのは……」気候科学者が毎日の天気を解説
フランスのテレビ局France2とFrance3では、2023年から気候科学者が出演する天気予報番組「Journal Météo-Climat」を放送している。この番組では、通常の天気予報に加え、気候変動の専門家が長期的な気候パターンやその変化について解説。これにより、視聴者は日々の天気と気候変動との関連性を理解しやすくなっている。
同放送局は、ニュースレポーター自身が天気予報を伝える際にも、その背景にある気候変動を伝えるなどの取り組みを行ってきた。これに加えて、気候科学者が番組に登場することで、より専門的な情報を発信する場になっている。
まとめ
社会に課題があることがわかっていても、それをジブンゴト化するのは難しい。だからこそ、課題と個人との距離をぐっと引き付けるためのコミュニケーションが重要になる。課題を抽象的なものから身近なものへと変え、具体的な行動に結びつけるきっかけとするために、何をどう伝えるべきか、どのように対話すべきなのかを考えていきたい。