循環経済をまちづくりの根幹に。産官学で作る「サーキュラーシティ蒲郡」の現在地

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Sponsored by 蒲郡市

2024年、日本ではサーキュラーエコノミーが国家戦略として本格的に位置付けられた。第五次循環型社会形成推進基本方針においてその重要性が示され、年末には「サーキュラーエコノミーへの移行加速化パッケージ」が取りまとめられるなど、国レベルでのサーキュラーエコノミーへの移行における大きな進展が見られた。

そうした動きに先駆け、いち早くサーキュラーエコノミーを市の政策として取り入れたのが、愛知県蒲郡市だ。同市は2021年11月にサーキュラーシティの表明を行い、サーキュラーエコノミーを軸に市民のウェルビーイングを目的としたまちづくりを進めていくことを表明した。以来、「つながる 交わる 広がる サーキュラーシティ蒲郡」をビジョンに、官民が一体となって取り組みを推進している。

そんな蒲郡市で、2025年3月19日、「サーキュラーシティ実証実験プロジェクト2024成果報告会」が行われた。報告会には市内外から関係者や実践者が訪れ、2024年度に採択された実証事業の成果報告やパネルディスカッションのほか、サーキュラーエコノミーの第一人者からの基調講演などが行われた。当日は蒲郡市のサーキュラーシティとしての取り組みの進捗が広く共有されると共に、サーキュラーエコノミーへの理解を深める場となった。

本記事では、蒲郡市がサーキュラーシティの表明に至るまでの経緯やビジョン策定の背景、2024年の実証実験プロジェクトを含む現在までの歩み、そして今後の展望までを一挙にレポートしていきたい。

サーキュラーシティ実証実験プロジェクト2024成果報告会の様子

Photo by 河原彰志

コロナ禍で行った、サーキュラーシティの表明

愛知県蒲郡市は、愛知県の南東部、三河湾に面した人口約8万人の自治体だ。みかんや深海魚などで知られる農業や漁業のほか、繊維や自動車といった多様な産業を有している。また、市内には4つの温泉地があり、戦後は観光地としても栄えてきた。

そんな蒲郡市がサーキュラーシティを表明したのは、新型コロナウイルスによるパンデミックの只中にあった2021年11月のことだ。コロナ禍で、観光業をはじめ市内の産業は打撃を受けた。加えて、農業や漁業においてはパンデミック以前から気候変動の影響で収穫量や漁獲量が徐々に減少していたこともあり、環境への取り組みの必要性を再認識させられたという。

当時から現職の鈴木寿明(すずき・ひさあき)市長は、「物質的豊かさを追い求めてきたそれまでの価値観が揺らぎ本質的な幸せを問い直す中で、これから市が掲げるキーワードとして、ウェルビーイングという言葉がしっくり来ました。さらに、環境も経済も立て直しながら市民のウェルビーイングを実現する手段として、サーキュラーエコノミーという概念に出会ったのです」と振り返る。

鈴木市長「サーキュラーエコノミーの考え方こそが市民一人ひとりの幸せにつながる道であり、私たちにとって『正しい方向』を示してくれるものである──そう強く確信し、サーキュラーシティを表明しました」

市内事業者と共にビジョンを策定。初期段階からの巻き込みが推進力に

当時は市内にサーキュラーエコノミーという言葉を知る者はほとんどおらず、鈴木市長やサーキュラーシティ推進室の職員が中心となり、その概念や取り組む意義などを丁寧に伝えて回った。

また、ビジョンや重点分野を策定するにあたり、市内の事業者を巻き込んだカンファレンスやワークショップを開催。市内の産業が抱える課題や蒲郡市が目指すべき姿などについてヒアリングし、事業者の意見を政策に盛り込んでいったという。

蒲郡市企画部 企画政策課 サーキュラーシティ推進室の主査・杉浦太律(すぎうら・ひろのり)氏は、「こうした初期段階からの事業者の巻き込みが、現在進んでいる産官学の強固な連携につながっている」と話す。

杉浦太律氏

杉浦太律(すぎうら・ひろのり)氏 / Photo by 河原彰志

こうして2021年度のうちに策定されたサーキュラーシティ蒲郡のビジョンが、「つながる 交わる 広がる サーキュラーシティ蒲郡」だ。さらにこのビジョンの中に、「教育・消費・健康・食・観光・交通・ものづくり」という7つの重点分野を設定。重点分野の策定においては、全ての事業者が当事者意識を持てるよう網羅的なものにすることを意識したという。これらの分野が相互に関連し合い、かけ合わせることで地域全体の活性化を促していくことが狙いだ。

サーキュラーシティ蒲郡のビジョン

サーキュラーシティ蒲郡の7つの重点分野。 / Image via 蒲郡市

市内の熱量を高め、実証実験へ。カンファレンスのつながりから生まれた事業も

翌2022年度にはさらなるワークショップなどを重ね、実装に向けた具体的なロードマップとなるアクションプランを策定。そして、2023年度からは策定したアクションプランをもとに、サーキュラーシティの実現に向けた実証実験プロジェクトを開始した。

また、サーキュラーエコノミーの実現に不可欠なこれまでにない事業者同士のつながりを生むため、2023年度、2024年度にはサーキュラーシティカンファレンスを年に一回開催。新たな連携と熱量を高めたうえで実証実験に入る流れを作った。実際に、カンファレンスを通してできたつながりから生まれた実証実験もあったという。

サーキュラーシティの実現に向けた全体プラン

サーキュラーシティの実現に向けた全体プラン。/ Image via 蒲郡市

第一回の実証実験には6つの事業が採択され、工場から排出されるCO2を用いたみかんのハウス栽培や廃棄カーテン生地を用いたウェディングドレスの製作などが行われた。実証実験の期間終了後も本格的な事業化が進められるなど、全ての事業が継続していることが大きな成果だと杉浦氏は語る。

杉浦氏「事業者の熱が高まってきていることを感じています。実証実験以外で市内事業者からサーキュラーエコノミーに資する事業を立ち上げたいといった相談も受けています」

市外企業との連携による廃棄物の削減も進めている。2022年度からは全国初の取り組みとしてメルカリShopsで蒲郡市のアカウントを取得し、蒲郡市のクリーンセンターに持ち込まれる粗大ごみの出品を開始。2024年度は565品の売却、2,155.5キログラムの粗大ごみの削減につながった。さらに、株式会社ECOMMITと連携し、蒲郡市と繊維産地である近隣地域内にリユース品回収ボックスを設置し、繊維のリユース・リサイクルのシステム構築を目指すプロジェクトも行われた。

さらに、サーキュラーシティを表明した2021年以降は、同市の一人当たりの家庭ごみの量は減少傾向にあるという。これは、小学校でのコンポスト活動や使用済みおむつの再生利用プロジェクトなどの成果だ。「こうした市民に直接関わる廃棄物削減の活動により、市民のごみに対する意識も変わってきている」と杉浦氏は評価する。

蒲郡市内の小学校で行われたダンボールコンポストの様子

蒲郡市内の小学校で行われたダンボールコンポストの様子 / Image via 蒲郡市

まちづくりの根幹にサーキュラーエコノミーを

これらの取り組みを立ち上げ初期から伴走支援してきたのが、サーキュラーエコノミーによる地域活性化支援を行なうCIRCULAR DESIGN STUDIO.(株式会社新東通信)だ。支援の中心を担うスタジオ長の山下史哲氏は、現在の蒲郡市の成果は市内外の事業者とフットワーク軽く連携していく姿勢にあると語る。

山下氏「蒲郡市の『受け入れ体制』が素晴らしいと感じています。サーキュラーシティ推進室の職員は2名と、決して多くはない人数にもかかわらず、問い合わせがあったり、こちらからサーキュラーエコノミーに関心のある事業者を紹介したりすると、必ず丁寧なミーティングを行い、相性が良さそうであれば市内の協業先を熱心に探したり、実証を行えるよう、枠組みに捉われない柔軟な調整や支援をしてくださいます。だからこそ、蒲郡でサーキュラーエコノミーをチャレンジしたいという事業者がどんどんと増えていっているのだと思います」

さらに、市の根幹となる総合計画を立案する企画部にサーキュラーシティ推進室があり、他の部署の“ハブ”となってサーキュラーエコノミーを進めることができているのも大きな特徴だという。

山下氏「一連の計画は市の総合計画を補完する形で進められており、サーキュラーエコノミーをまちづくりとセットで考えているからこそ、移動や教育、健康といった項目が重点分野に盛り込まれているのです。これは、立ち上げ時に故・中石和良(なかいし・かずひこ)氏をはじめとするサーキュラーエコノミー分野の第一人者たちから、廃棄物問題の解決に限らないサーキュラーエコノミーの進め方をアドバイスいただいたことが大きかったと思います。それが、ウェルビーイングというゴール設定にもつながっていると考えています」

「個社としてではなく、市内での幅広い連携につながった」2024年度実証実験の成果

こうした流れの直近の取り組みとして、2024年4月に新たに市内外の5社を実証実験プロジェクト事業として採択。2025年3月19日に蒲郡市商工会議所にて、その成果報告会が行われた。当日は市内の関係者をはじめ、市外からも多くの参加者が集まり、事業者の取り組みの共有やサーキュラーエコノミーへの理解の促進、意見交換などが行われた。

サーキュラーシティ実証実験プロジェクト2024成果報告会の様子

成果報告会の様子 / Photo by 河原彰志

実証実験の対象には、市内に拠点を置く事業者のほか、蒲郡市をフィールドに実証を行い、同市での社会実装を目指す市外事業者も含まれる。2024年度は3社の市内事業者のほか、名古屋市、また京都府に拠点を置く事業者も採択された。

同年度の実証実験の成果についてサーキュラーシティ推進室の杉浦氏は、「実証期間中にそれぞれが成果を出しただけではなく、すでに社会実装に向けた議論や取り組みを進められていることが素晴らしい。また、取り組みが個社に閉じず、地域の人を巻き込み、市内外のさまざまな企業と連携できていた点も良かった」と評価した。

基調講演では、メディア事業などを通してサーキュラーエコノミーについて発信しており、取り組みのアドバイザーでもあるハーチ株式会社代表・加藤佑氏が登壇し、「集約的で高密度な資源を効率的に採掘し製品化するリニアエコノミーに対し、サーキュラーエコノミーにおいては、各地に分散し形や質も異なる廃棄物が資源となるため、これまでとは全く新たな商流が生まれる。つまり、資源集積地やユーザーに対する高い解像度を持っている地域企業こそチャンスがある」と、サーキュラーエコノミーにおいて主役となるのが地域の人と企業であることを強調した。

以下が、実証実験プロジェクトとして採択された5つの事業だ。

1. 株式会社金トビ志賀:製粉製麺工場の端材を新たな名物へ。“アップサイクル×共創”プロジェクト

麺用粉専門の製粉や乾麺の製造を行う蒲郡市の老舗企業・株式会社金トビ志賀は、自社の製粉・製麺工程で生じる小麦の皮(ふすま)や製粉時のロス粉、きしめんの端材を活用したアップサイクルプロジェクトを実施した。

同社では従来、これらの素材を新たな麺や家畜の餌としてリサイクルしてきた。しかし、世の中の環境意識が高まる中、こうした素材を活用して地域や人のためにより価値の高い製品を製造していく必要性を感じ、今回のアップサイクルプロジェクトに乗り出したという。

プロジェクトでは、サステナビリティを軸とする事業を行うアサヒユウアス株式会社と協働し、ロス粉やきしめんの端材を使用したクラフトビールを製造。さらに、きしめんの端材からお土産やおつまみになるきしめんチップス、ふすま粉を活用した食べられるタンブラーや再生プラスチックとまぜたタンブラーなど、多様なパートナーと連携して蒲郡市の新たな特産品を模索した。

金トビ志賀のアップサイクル製品など

クラフトビールラベルときしめんチップスのパッケージは、女子美術大学のデザイン専攻学生とのデザインコンペで決定。また、市内のフェアでの価格調査や小学校での出前授業を通じ、取り組みの紹介と活用アイデアを募集した。 / Photo by 河原彰志

同社の取締役営業部長・志賀裕志(しが・ひろし)氏は、「クラフトビールへの反響に加え、弊社のきしめんに関心を寄せていただく機会も増え、環境や社会に対するものづくりの姿勢でモノが売れていくことを強く感じられました」と取り組みを振り返る。

また、実証実験が従業員に対して良い影響を与えたことも大きな成果だったと話す。「それまでどちらかというとネガティブな存在だった廃棄物が、ビールやタンブラーに生まれ変わったことで、ポジティブなものに変わりました。現在、端材の管理をより綿密に行おうと、従業員も積極的に取り組んでいます」

今後は品質の担保や、製造コストに見合う付加価値の創造などに力を入れつつ、地元の飲食店などとも協業しながら新たなアップサイクル方法も模索していく。

志賀裕志氏

志賀裕志(しが・ひろし)氏 / Photo by 河原彰志

2. 有限会社原野化学工業所:衣装ケースのマテリアルリサイクルで製作する高品質サーキュラーベンチ

プラスチックのマテリアルリサイクル企業・有限会社原野化学工業所は、市民が廃棄する衣装ケースと市内の繊維企業の余剰生地を活用したベンチを製作するプロジェクトを行った。

従来、市民が廃棄する衣装ケースは市内のクリーンセンターで焼却されていた。同社はこの衣装ケースに良質なプラスチック素材であるポリプロピレンが使用されていることに着目し、自社で素材をペレット化。株式会社オリバーの協力を得てベンチの芯材を製作した。

さらに、蒲郡市の主要産業のひとつである繊維業の産業廃棄物となっている布やレザーといった余剰生地をベンチの貼り生地として活用した。生地は市内3社の繊維企業から回収し、このベンチを市内の施設などに設置することで、2つの素材のアップサイクル・再利用を掛け合わせた地域循環型のモデルを構築した。

原野化学工業所のベンチ

実証実験ではベンチを4台製作し、愛知県庁西庁舎や蒲郡市役所などに設置して取り組みを周知した。製品の座り心地やデザイン性も高評価を得ている。 / Photo by 河原彰志

同社代表取締役・原野裕(はらの・ゆう)氏は、「ベンチの成形や椅子の生地貼りなど、各工程の専門家と協力できたことができたことが成功の要因だったと思います。繊維企業にとっては、処理コストがかかる廃棄物を減らすことができるほか、会社のPRにもつながるという明確なメリットがあったため、すぐに賛同していただけましたし、想像以上に良質な生地を提供していただけました」と取り組みを振り返る。

原野裕氏

原野裕(はらの・ゆう)氏 / Photo by 河原彰志

また、製作物をベンチにした理由は、たくさんの人が関わるものにしたかったからだと説明し、「一級品でないと意味がないと考え、品質やデザイン性にはとてもこだわりました。関係各社のロゴを入れたり数十種類の貼り生地から選んだりと、楽しみながら使っていただけます」とサーキュラーベンチの製品としての価値を語った。

今後は市内施設へのベンチの展示を継続的に行うほか、継続的に販売していくため、デザインのバリエーション拡充や顧客のニーズに応える体制づくりを進めている。また、価格や使用後のリサイクル方法といった課題にも向き合いつつ、販路拡大や他製品への展開を図り、地域ブランドとしての認知向上も目指していく。

原野化学工業所のベンチの芯材や布

(左)繊維企業から回収したレザーと布の一例(右)衣装ケースをマテリアルリサイクルしたベンチの芯材 / Photo by 河原彰志

3. 株式会社ごみの学校:ラグーナテンボスで描く「サーキュラーパーク蒲郡」構想

ごみに関する教育や資源循環に関するコンテンツ開発などを行う株式会社ごみの学校は、蒲郡市のシンボル的存在であるテーマパーク・ラグーナテンボスにて、ゴミ箱のリデザインやプラスチック素材の統一などを通じた資源循環率の向上と、資源循環をテーマとしたテーマパーク内の新たな教育コンテンツの開発などを行った。

ラグーナテンボス内に設置されていた従来のごみ箱は分別品目が少なく、見た目でも判断しにくいという課題があった。このごみ箱をアーティストがリデザインすることで魅力的なものに生まれ変わらせ、ナッジを用いた投票式のごみ箱や生ごみ投入用コンポストごみ箱なども新たに設置することで各素材のリサイクルルートも確立した。

リデザイン前のピンク色のごみ箱

リデザイン前のごみ箱 / Image via 株式会社ごみの学校

リデザイン後のごみ箱

リデザイン後のごみ箱 / Image via 株式会社ごみの学校

さらに、従来さまざまなプラスチック素材で作られていた園内の食事用容器を全てポリスチレン製に統一。回収したポリスチレンはケミカルリサイクルを行う東洋スチレン株式会社が品質評価を行い、循環素材としてリサイクルルートに乗せられることも確認した。

ペットボトルキャップを使ったコマづくりや、プラ分解油を用いたポップコーンづくりといったワークショップや展示も企画し、多くの参加者に資源循環の様子を体験できる機会を提供した。

ごみの学校の東野陽介(ひがしの・ようすけ)氏は、「普段のオペレーションもある現場の方々にどれだけ協力していただけるかが難しいポイントではないかと想定していましたが、皆さんが予想以上に前向きに取り組んでくださったのでとても助かりました。また、自分たちが廃棄物処理の中で普段見せない現場を見せることが、テーマパークではエンターテイメントになることにも気付かされました」と取り組みを振り返る。

東野陽介氏

東野陽介(ひがしの・ようすけ)氏 / Photo by 河原彰志

こうした取り組みを経て、ラグーナテンボス内のリサイクル率は約20%から約60%まで向上。地元新聞に取り上げられて実証期間中に取り組みが注目を集めたことや、学校団体に向けた環境学習プランの売り出しがすでに始まったことなど、コンテンツがビジネスとして成り立つ兆しが見えてきたことなども大きな成果だという。

今後は、蒲郡市全体のサーキュラーエコノミーを体験できる施設としてコンテンツの充実を図り、ラグーナテンボスを中心に蒲郡市全体を盛り上げていく。また、サーキュラーパークというコンセプトを全国に広げていきたいとしている。

4. 西浦REBORN:サーキュラータウン西浦 TOOTH BRUSH TO BRUSH UP ~歯も未来もみがこう~

西浦温泉の魅力向上を目指す多業種の有志グループ・西浦REBORNは、西浦地区をサーキュラーシティ蒲郡のモデルタウンとしてデザインすることを目標に、旅館で配布される使い捨て歯ブラシを資源として活用するための実験や、市民を巻き込みアメニティに対する意見を募るキャンペーンを行った。

実証期間中には、西浦温泉の7つの温泉旅館や西浦地区の小学校に回収ボックスを設置し、SNSでも呼びかけるなどして、合計約7,200本の使い捨て歯ブラシを回収。衛生上使用できない先端部分を切断したうえで長く使える歯ブラシスタンドへとアップサイクルし、2025年1月から実施された「マイ歯ブラシ持参キャンペーン」の第二弾で、マイ歯ブラシを持参した宿泊客にプレゼントした。小学校での出張授業や旅館従事者とのフィールドワークなどを通じて、プラスチックリサイクルへの理解を促進する教育活動にも取り組んだという。

西浦REBORNの製作した歯ブラシスタンド

使い捨て歯ブラシをアップサイクルした歯ブラシスタンド / Photo by 河原彰志

取り組みの中心となった山村佳史(やまむら・よしふみ)氏は、「日本従来のおもてなしを大切にし、『アメニティの充実=サービスの充実』と考えている旅館もたくさんあります。旅館にはこのプロジェクトが目指す未来を伝え、回収期間中は毎週旅館に顔を出すなど、綿密なコミュニケーションを心がけていました」と語る。

山村佳史氏

山村佳史(やまむら・よしふみ)氏 / Photo by 河原彰志

歯ブラシに使われているプラスチック素材が旅館によってそれぞれ異なっていたため、回収した半分近くの歯ブラシのアップサイクルが叶わなかった。そうした実際に取り組んだからこそ見えた課題も多かったと山村氏は話す。「とにかく集めて溶かせば何か作れるのではないかと考えていましたがそうもいかず、調べれば調べるほどリサイクルの難しさを実感しました」

一方で、大きな可能性も感じたという。SNSで集めたアンケートでは、「客室にアメニティは必要か?」という質問に対し、約8割が「あれば使ってしまうけれど、なくても良い」といった意見を持っていることがわかり、今後取り組みを前向きに検討できる材料となった。

今後は、県内企業や市内の他の温泉地との連携も強めながら、サーキュラータウン西浦に向けての検討を重ねていくという。これからの時代に合った「新しいおもてなしの形」を築き、宿泊業、地域住民、企業が一体となって協力する循環経済のモデルを西浦から広げていく予定だ。

キャンペーンのフライヤー画像。取り組みは一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパンがプロデュースし、Green Innovator Academyの学生たちも施策に協力した。

取り組みは一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパンがプロデュースし、Green Innovator Academyの学生たちも施策に協力した。

5. トヨタコネクティッド株式会社:「まちなかモビリティ」で高齢世代の課題にアプローチ

前年度も実証実験に参加し、電動トゥクトゥクの無償シェアリングサービスを展開したトヨタコネクティッド株式会社は、自動車の免許返納後も安心して移動できる手段を提供することを目的に、高齢者向けの電動アシスト四輪自転車のレンタルサービスを展開した。

現在蒲郡市では9割の住人がマイカーを所持しているが、高齢者の中には、「免許返納をしてしまうと、近くのスーパーでの買物や畑への往復など、日常の生活に必要な移動に困難をきたしてしまうのではないか?」と不安を感じる人も多くいることがインタビューなどで明らかになった。しかし、既存の選択肢である自転車やコミュニティバスは、危険、時間がわからないなどのハードルがあり、そのためになかなか返納に踏み切れない高齢者の方も多い。免許返納後は、家族に車で送迎してもらう人が多いが、それだけで全ての日常生活での移動ニーズをカバーすることは難しいという。

そこで同社は、新たな選択肢として電動アシスト四輪自転車を提案し、試乗会やSNS発信、市民アンバサダー制度などを通して、地元市民を巻き込んだプロモーションと利用支援を行った。

試乗会の様子 / Image via トヨタコネクティッド株式会社

取り組みの結果、7名4組がサービスを申し込み、利用者の95%がサービスに満足と回答した。一方で、費用面や操作性への不安、新しいものへの抵抗感などが障壁となり、期待通りの利用拡大にはつながらなかったという。しかし同社の越前広一(えちぜん・こういち)氏は、この結果から今後につながる多くの気付きを得たと話す。

越前氏「実施してみて、高齢の方が長年慣れ親しんできた生活習慣を超えて、こうした新しい選択肢に挑戦するためには、家族や身近な人から勧めてもらうのが非常に効果的だということがわかりました。さらに、『免許を返納したらスーパーに行けなくなるから困るでしょ?その解決手段がこの乗り物なんです』というような勧め方は、“いかにもシニア向けの乗り物・サービスとして押し付けられている”と受止められることもあり、返って高齢の方のプライドを傷つけ、むしろ反発を生み出してしまうこともあることがわかりました。

ですから、今後はより幅広い世代を巻き込み、『短距離の移動にCO2を排出する大きなクルマで移動するよりももっとエコでミニマルな移動の選択肢を選ぶことのほうがカッコいい!』という新たなライフスタイルや価値観を時間をかけてまちの中に醸成し、環境にも優しい次世代モビリティを日常の選択肢にしていくことが必要だと考えています。そうしたライフスタイルが日常風景になれば、免許を返納した後も安心して暮らせるまちになるのではないかと考えています」

今後は、家族からの自然な推薦を促すコミュニティづくりや、操作性やデザインの改善、取り組みを促進する道路環境の整備など多面的な取り組みを、市ともより連携しながら進めていく予定だ。

越前広一氏

越前広一(えちぜん・こういち)氏 / Photo by 河原彰志

社会全体を良くするため、蒲郡市からサーキュラーエコノミーを発信したい

どの事業者も、確かな手応えと、取り組んでみたからこその学びを得られていた今回の実証実験。鈴木市長は、今年度の実証実験をどのように見ているのだろうか。

鈴木市長「今回の実証実験の成果は、中心となった企業の姿勢に関わる人たちが共感し、学び、自分たちに何ができるのかを考えた結果だと思います。取り組みに関わった地元企業の考え方も変わってきましたし、サーキュラーエコノミーへの理解も深まったと思います。実証実験をきっかけに、これまでなかった市内の一次産業と二次産業の交わりも生まれました。これもサーキュラーエコノミーの力ですね」

鈴木寿明市長

鈴木寿明(すずき・ひさあき)市長 / Photo by 河原彰志

サーキュラーシティ蒲郡の7つの重点分野の中でも特に大事にしている未来世代の「教育」に対しても、一連の取り組みが良い効果をもたらしていると話す。

鈴木市長「サーキュラーシティ蒲郡の表明が行われて以降、地元の小学校や中学校で、サーキュラーシティ蒲郡やサーキュラーエコノミーの取り組みについて伝える講演やワークショップを行っています。こうした活動により、蒲郡市の大人が環境や社会に対して何を考え取り組んでいるのかということを子どもたちにも感じてもらえたのではないかと思います。

一連の取り組みに加え、学校の先生方が授業で熱心に教えてくださり、子どもたちの中に『まちの未来を考える』という意識が生まれ、ごみ拾いや挨拶といった行動にもつながっています。こうした経験を経て育った子どもたちは、子どもの時にサーキュラーエコノミーを完全に理解するのは難しくても、大人になった時にその考え方を改めて頭で理解し、自然とビジネスや生活に取り入れられるようになると考えています」

みんなのアクションプラン 冊子の表紙

蒲郡東部小学校6年生、形原北小学校5年生と連携し、サーキュラーシティの実現のため、小学生自分たちができる行動を考えとりまとめた「みんなのアクションプラン」を制作するなど、教育にも力を入れる。 / Photo by 河原彰志

今後は、市民へのさらなるサーキュラーエコノミーを浸透に力を入れていきたいと話す。また、最終的には蒲郡市の取り組みを発信することで世の中を良い方向へ変えていくことが目標だという。

鈴木市長「そのためには、今回行った取り組みが『つながり、広がり、交わっていく』ことが重要です。取り組みを進める企業や人が交わり、さまざまなところから縁が生まれていく。そうした小さな縁が集まって大きな『円』となり、社会や環境を少しずつ変えていくのだと信じています。

サーキュラーエコノミーへの取り組み方は一つではなく、地域ごとに、その土地や環境に合ったアプローチを模索すれば良いと思います。そのためにも蒲郡市は、さまざまな人と意見を交換できる今日のような場や実証実験の舞台を整え、『サーキュラーエコノミーという考え方を取り入れてみてはいかがですか?』という問いかけを、これからも発信していきたいと考えています」

住民との距離が近い「市」だからこそできる、サーキュラーエコノミー推進のあり方とは?

2023年に蒲郡市が発行したサステナビリティレポートの中には、「サーキュラーシティを表明してからまち自体の雰囲気も変わって、事業者が同じ方向に向いた」といった市内事業者の言葉があった。今回の成果発表会や各事業者への取材を通して、サーキュラーエコノミーを軸に一丸となる蒲郡市の空気感が感じられた。

そうした雰囲気を作ることができているのは、やはりどんな人でも共感でき、各分野も想いも包括できる「ウェルビーイング」という目的をわかりやすく打ち出したこと、そのうえで、「つながる 交わる 広がる」というビジョンを実際に体現するように、市が産業や市民を初期段階から丁寧に巻き込んでいった結果だろう。

サーキュラーシティ実証実験プロジェクト2024成果報告会の様子

成果報告会の様子 / Photo by 河原彰志

最後に、サーキュラーエコノミーへの移行における「市町村」の役割にも触れておきたい。

サーキュラーシティ推進室の杉浦氏は、国や県と比較した際の市町村の特徴として、事業者や市民に最も近く、「住民」というキーワードが頻繁に出てくることを挙げた。また、環境・経済・社会というサステナビリティの3要素の中でも、経済と合わせて社会の側面にも重きが置かれやすいことに触れ、「市民の生活の質を高めつつ環境にも経済にもプラスになるような多面的な取り組みを実現していくことが、市町村のサーキュラーエコノミー推進のあり方ではないか」と述べる。

また、ハーチ株式会社の加藤氏が基調講演で強調していたように、生活の場であると同時に資源の集積地でもある地域は、サーキュラーエコノミーにおいては“出発点”である。その出発点の解像度が高い市町村がサーキュラーエコノミーの移行における課題を現場レベルで的確に把握し、現実的な解決策を模索していくことは、社会全体の変化を後押ししていくために欠かせないのではないだろうか。

さらに、サーキュラーエコノミーにおいては、既存の枠組みを超えた仕組みの構築が必要とされている。そんな中、国や県レベルではできない実験的な取り組みにも挑戦しやすいのが市町村でもある。実証実験としてまず市町村が実践することでメリットや課題を明確にし、移行の障壁や知見を法や制度を再構築していく材料として県や国に共有していくことも、市町村に求められる役割ではないだろうか。

官民の強い連携のもと着実に取り組みを進める蒲郡が、今後どのような展開を見せてくれるのか。引き続き、その動向に注目していきたい。

【参照サイト】サーキュラーシティ蒲郡
【参照サイト】蒲郡市、ハーチ、Circle Economy との連携により循環型雇用分析ダッシュボードを公表
【参照サイト】サーキュラーシティを目指す蒲郡市で何が起こっているのか?〜BLUE WORK GAMAGORI 開催レポートを通じて〜

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