脱炭素を目指すまち、横浜。地域で出来るリジェネレーションとは?【イベントレポート】

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世界13か国・14都市で開催される、サステナビリティをテーマとした国際会議「サステナブル・ブランド国際会議」。

第6回目となる2022年「サステナブル・ブランド国際会議 2022 横浜『REGENERATION(リジェネレーション)』」が、2月24日、25日の2日間にかけてパシフィコ横浜ノースで開催された。2日間の来場者数は、現地参加とオンライン参加を合わせて延べ 4,513名(2022年3月8日発表速報値)にのぼる。

数百名がホールに集い、壇上を見つめている様子

(写真提供 Sustainable Brands Japan)

IDEAS FOR GOODでは、同国際会議にメディアパートナーとして加盟している。そこで本記事では、横浜と脱炭素をテーマとしたトークセッション、「脱炭素実現へのRegeneration in Yokohama」の模様をお伝えする。

「脱炭素実現へのRegeneration in Yokohama」セッション概要

横浜市は、2018年に「SDGs未来都市」に選定され、いち早く2050年までに脱炭素化を目指す「Zero Carbon Yokohama」を宣言した。さらに2021年には、規模や地域特性といった背景の違う約160市区町村がその知見を共有し、脱炭素社会の実現に向けた具体的な議論を行う「ゼロカーボン市区町村協議会」を会長都市として設立するなど、自治体の脱炭素化をけん引していくトップランナーの役割を発揮している。

エネルギー消費量の削減や消費電力の再生可能エネルギーへの転換が主軸になりがちの中、容器リサイクル、サプライチェーン、建築や街のあり方など、脱炭素への大きな力となり得る事例を共有し、真に持続可能な未来を描く。

▽ファシリテーター
・山岡 仁美さん(サステナブル・ブランド国際会議 D&Iプロデューサー / 株式会社グロウスカンパニー+ 代表取締役)

▽パネリスト
・山本 真帆さん(株式会社ファンケル SDGs推進室 室長)
・堀江 菜月さん(太陽油脂株式会社 原料購買・CSR推進グループ)
・西田 司さん(株式会社オンデザインパートナーズ代表 / 東京理科大学 准教授)

脱炭素社会を目指す横浜の現状

山岡さん「横浜は、2050年までの脱炭素化を目指す『Zero Carbon Yokohama』を宣言しています。日本の中でも、特に脱炭素を牽引する都市としてアクションを始めた都市です。大都市ではスピード感が課題になりがちだというイメージがありますが、横浜市が中心となって、ボトムアップでさまざまな企業や団体を巻き込み始めています。例えば、再エネへのパワーシフト、EV車の導入に力を入れています」

山岡さんがマイクを持って話している様子

サステナブル・ブランド国際会議 D&Iプロデューサー 山岡さん(写真提供 Sustainable Brands)

ファンケルによる4Rの取り組み

ファンケルは、横浜市中区に本社を置く、化粧品と健康食品事業を展開する企業だ。

山本さん「ファンケルでは、2018年6月に『サステナブル宣言』を行い、2030年を目標とするSDGsと足並みを揃え、サステナブルな世界への貢献を宣言しました。テーマは『未来を希望に』です」

脱炭素社会に向けては、2030年までに、4Rに基づくサステナブルな包装容器へ100%転換することを目標に掲げているという。

ファンケルでは、4Rに即した取り組み戦略を次のように定めている。

Reuse(リユース):容器樹脂の削減
Reduce(リデュース):つめかえ容器化
Recycle(リサイクル):容器回収・リサイクル実現
Renewable(リニューアブル):プラスチック以外の素材への代替

山本さん「2030年までに、ファンケルの全ての容器包材が、上記4つのいずれかのRに対応できる状態を目指します。例えば、本体容器を軽量化したり、詰め替えや付け替え容器を積極的に採用したりすることでプラスチックの使用量を削減します。また、石油由来から植物由来のプラスチックや再生プラスチックを使用した容器へ転換することができ、CO2排出の削減に貢献します」

山本さんが壇上でマイクを持ち話している様子

株式会社ファンケル 山本さん
(写真提供 Sustainable Brands Japan)

容器回収・リサイクルでは、2017年7月よりファンケル9店舗を対象に、化粧品容器の回収とそのリサイクルに取り組んでいる。

対象店舗で回収したボトルの分別や洗浄作業は、ファンケルの子会社である「株式会社ファンケルスマイル」(特例子会社)が担っているそうだ。そして、プラスチック容器はマテリアルリサイクルによって植木鉢に生まれ変わり、横浜市に寄贈される。最終的に、花と緑にあふれる環境先進都市横浜の実現を目指す「ガーデンネックレス横浜」にて活用されているという。

山本さん「現状の取り組みは、我々が実現目標に向けた第一フェーズでしかありません。第二フェーズとして、今後は容器のケミカルリサイクルによる水平リサイクル(容器を容器へリサイクルすること)を実現させたいと考えています。今後想定される容器回収量の増大に対応するため、設備投資や体制整備にも力を入れ、2022年4月に予定されているプラスチック資源循環促進法の適用とともに、回収拠点も拡大させてまいります」

太陽油脂によるパーム油のサステナビリティと脱炭素

太陽油脂は、横浜市神奈川区に本社・工場を置く企業です。食用加工油脂の製造販売、石けん・化粧品の製造販売、そして飼料用脂肪酸カルシウムの製造販売だ。

油脂製造の原料であるパーム油を扱う太陽油脂では、「持続可能なパーム油のための円卓会議(Roundtable on Sustainable Palm Oil)」(以下、RSPO)に加盟している。RSPOは、パーム油に関わる7つのステークホルダーによって構成される非営利組織で、持続可能なパーム油市場の確立を目指す。

RSPOの定める方法でパームを育てると、世界全体でおよそ140万t-CO2/年の炭素排出を防ぐことができるという。そして、パームを適切な土地で栽培することが炭素排出の削減につながるそうだ。

堀江さん「泥炭が積み重なった気温の低い『泥炭地』と呼ばれる土地が、地球の陸地面積のうち3%に存在しています。この泥炭地には、地球全土における炭素の約3分の1が蓄積しているともいわれています。泥炭地は本来水分に富んだ土地なのですが、そこでパームを植えるために水分を抜いたり肥入れを行ったりすると、地中にあった炭素が一気に空気中に放出してしまうのです」

太陽油脂では、パームの主要な生産地であるインドネシアやマレーシアは、泥炭地を多く有する国でもあるため、原則として泥炭地ではパームを栽培しないよう配慮している。

また2020年12月からは、石鹸・化粧品の自社製品全てをRSPO対応製品として製造している。

堀江さん「RSPO製品であることが消費者にもわかるよう、それぞれの製品の容器にマークをつけています」

堀江さんが壇上でマイクを持ち話している様子

太陽油脂株式会社 堀江さん
(写真提供 Sustainable Brands Japan)

さらに、地球にやさしいパーム油の製造販売の他にも、脱炭素に貢献する飼料の研究を進めているという。

堀江さん「家畜のエサにアマニ油脂肪酸カルシウムの飼料を混ぜることで、メタンガスの排出を抑えられるという研究結果があります」

家畜、特に牛のゲップから放出されるメタンガスが地球温暖化を悪化させているとも言われており、太陽油脂の製造する飼料がその対応策の一つになるかもしれない。

堀江さん「最近では、小中学生でのサステナブル教育にも参画するなど、パートナーシップを広げています。『買い物は投票』と言われる通り、企業の努力によって生まれた製品を、消費者が主体的に選べるようにサポートしてまいります」

太陽油脂のこれまでの取り組みは、「人にも地球にも優しいサステナブルな石鹸を。太陽油脂、創業101年目の決意」(Circular Yokohama)にて詳しく紹介している。

オンデザインパートナーズによるクリエイティブなまちづくり

オンデザインパートナーズは、横浜市中区を拠点とする都市建築や公共空間づくりに取り組む企業だ。

西田さん「今回は、『再生』というテーマを建築の分野から俯瞰して見てみたいと思います。建築の領域の外側にある社会。そのボーダーはどこにあるのでしょうか」

都市建築の分野と脱炭素の交差点は見つけにくいかもしれないが、まちの身近なところにそのヒントが隠されている、と西田さんは話す。

西田さん「パリ市長が打ち出したパリの15分都市構想というアイデアがあります。2024年までに誰もが車を使わず15分で仕事や学校、買い物、公園、そしてあらゆる街の機能にアクセスできる都市を作るというものです。横浜、関内でもこの構想を取り入れたまちづくりが始まっています」

パリの15分都市構想では、生活が15分圏内に集約されることで、長距離移動にかかるエネルギー消費を抑えたり、モノの長距離移動にかかる梱包資材を削減したり、環境負荷を減らすことが可能だ。また、地域内での人同士の繋がりが深まったり、移動を減らすことで生活にゆとりが生まれたり、暮らしやすいまちの実現も期待されている。

横浜での取り組みにおいては、コロナ禍でのまちづくりの一環として行われてきた「かんないテラス」がある。

西田さん「これまで、道路上に物を置いたり屋台を出したりすることは法律によって禁止されていました。しかし、コロナ禍における室内での三密回避の観点も含めた法改正が行われ、その規制が緩やかになりました。そこで関内では、道路に机や椅子を置くなどして人々が過ごす空間を広げる「かんないテラス」を開催しています。テイクアウトやテラス営業などを促進することはもちろん、遊び心あるまちづくりの観点から道路の使い方に工夫をこらしている点が特徴です」

「かんないテラス」では、質素な道路をテラスにして机と椅子を置き、アスファルトにはカラフルなテープでデザインを施す。道路を道路以外の方法で楽しむことを提案し、建築と社会のボーダーを広げるのが目的だ。

西田さんが壇上でマイクを持ち話している様子

株式会社オンデザインパートナーズ 西田さん(写真提供 Sustainable Brands Japan)

オンデザインパートナーズではこの他に、横浜スタジアムの広大な空間でビアガーデンを開催したり、スタジアム周辺の建物を公共空間として活用したりしている。野球やスポーツへの関心のあるないに関わらず、誰もが「訪れたい」と思うような関内のまちづくりを進めているという。

西田さん「これまで、狭い分野でしか普及していなかった情報や交流していなかった人々を、その外側へ広げていくことがねらいです。地域の『クリエイティブラボ』としての役割を担いたいのです」

都市建築と脱炭素の交差点には、業界や分野の間に存在するさまざまな境界を壊して、これまで触れ合うことのなかったモノ同士が繋がりあう「クリエイティブラボ」がある。そして、そこで生まれる新しいコラボレーションとアイデアが、脱炭素に向けた社会経済を形作っていくという。

脱炭素化は経済の話ではない。私たちが暮らす社会の話

後半のパネルディスカッションでは、登壇する3社が抱える課題と、脱炭素化の本質について議論がなされた。

堀江さん「太陽油脂では、現在使用している都市ガス由来のエネルギーを、どのように脱炭素へつなげていくかが課題です。現状は今できることの選択肢から目標を設定し、それに向けた手段を採択していますが、これから時間とともに新たな手段が生まれてくるかもしれません。それらに注目しながら、さまざまなモノ・コトを積極的に活用し、脱炭素を進めたいと考えています」

山本さん「ファンケルでは、サステナビリティやSDGsへ取り組むことはもはや必須事項であり、企業責任として必要な投資だと考えています。取り組み始める際にコストはかかりますが、将来的にブランド価値が上がったり共感してくださるファンが増えたり、脱炭素以外の副次的効果があると信じて、手厚く投資を行っていきたいという考えです」

西田さん「関内の地域にフォーカスしてみると、まちにはすでに人が遊ぶ余白がないくらいあれこれ密集していますよね。コロナ禍で学び方や働き方が変わっても、例えばちょっとした立ち話ができるとか、新しい人と繋がれるきっかけがあるとか、人々はそれを望んでまちに来るのではないでしょうか。すでにあるモノや今まで取り組んできたことの延長に、少しの余白や遊びを加えて、まちの魅力を作ることで、再生や回復につながるパートナーシップが生産されると考えています」

左から:山岡さん、西田さん、堀江さん、山本さん (写真提供 Sustainable Brands Japan)

左から:山岡さん、西田さん、堀江さん、山本さん
(写真提供 Sustainable Brands Japan)

山本さん「気候変動対策は、リスクに立ち向かうための壮大な話だと思ってしまいますが、企業にとってはお客様との繋がり構築など、チャンスでもあるのです。崇高な理想を掲げるよりも、地に足のついた地道な活動を通して地域の人々とより近い距離で取り組んでいきたいです」

堀江さん「脱炭素への取り組みに対して、ネガティブな印象を持っている人もいるかもしれません。しかし、脱炭素社会の実現は、そういった人々も含めて包括的に行われる必要があります。これから、脱炭素がもたらすポジティブな面を一層広げていきたいと思っています。太陽油脂も暗中模索で進めているところですが、これが前向きな活動なんだ、という自負を持って取り組み続けたいです」

西田さん「持続可能とは、すなわち継続可能ということです。しかし、やらなければいけないと思って取り組んでいるうちは、どうしても長続きしません。脱炭素社会実現のためには、人々へのメリットを明確にし、夢中になれる方法を見出すことが必要だと思います。そのために我々は、そこにいて楽しい、遊びのあるまちづくりを推進していきます」

山岡さん「本セッションは、『脱炭素実現へのRegeneration』をテーマとしていますが、政策や制度、エネルギー効率といった話には触れていません。それよりも、脱炭素はシステム転換とか経済の話だけではなく、私たち人間が存在する社会の話だという点に注目しました。『脱炭素』と聞くとつい、ゴミを減らす、分別する、節約しなければ、車移動はダメなど、行動を規制する方向に考えがちです。しかし、より暮らしやすくあるために自分達の身近にできることがあるのだ、と気がついていただけたら、このセッションの意味があると思います」

取材後記

本セッションに登壇している3社の共通点は、自社が目指す社会を脱炭素を通じてどのように実現できるかを探っている点だ。

確かに、気候危機に立ち向かい地球の持続可能性を確保するためには、脱炭素への取り組みは至上命令と言えるかもしれない。しかし企業の立場に立ってみると、事業が志す未来を実現するための方法の一つとして脱炭素に取り組むこともできるのではないだろうか。

脱炭素社会は、これまでの私たちの暮らしを否定し全く異なる社会を生み出すことではない。これまでの歴史や伝統、文化に工夫を加え、「人にとっても地球にとっても心地よい環境を実現する」という時代を超えて受け継がれるテーマの達成を目指すこと。それが、Regenerationの意味するところなのかもしれないと、本セッションを通じて気づきを得ることができた。

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【参照サイト】サステナブル・ブランド国際会議2022横浜

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「Circular Yokohama」からの転載記事となります。

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