日常的に使う家電、特に電動シェーバーや電動歯ブラシなどの小型家電は、部品のちょっとした破損で使えなくなってしまうことがある。そんなとき、あなたはどうするだろうか。
修理する権利の動きが進む欧州では、EU市民の77%が「新しい製品を購入するよりも、壊れた製品を修理したい」と回答しているという(※1)。しかし現実には、同じメーカーの部品が高額だったり、入手が困難だったりと、高いハードルがある。そのため、「修理するより買い替えたほうが安い」と考え、手放す人も少なくない。
そこで、オランダ発の電気機器メーカー・Philipsは、消費者自身が3Dプリンターを使って同社のパーソナルヘルス製品の交換部品を出力し、製品を修理できるプログラム「Philips Fixables」を発表。2025年6月現在、この取り組みはチェコ共和国で開始されている。
Philipsに協力しているのが、チェコに拠点を置き、無料の3Dモデル共有サイト・Printables.comを運営するPrusa Researchだ。このサイト上で、Philips公式の3Dプリント用交換パーツのデジタルライブラリが公開されている。消費者はこれをダウンロードして部品を出力し、製品の修理に活用できるのだ。

Image via Printables.com
現在提供されているのは、シェーバーの「OneBlade」用コーム。交換パーツは、標準的なPLAフィラメント(※2)を使用しており、Philipsの品質・安全性基準を満たしていることが保証されている。ただし、適切な素材と設定で出力しないと、機能性や耐久性が十分に確保されない可能性があるとして注意を呼びかけている。
※2 植物由来のデンプンや糖を原料とし、PLA樹脂をベースとして開発された材料
2024年、欧州委員会は「修理する権利指令(2024/1799)」を公布し、保証期間終了後もメーカーに修理の提供を義務づけた。スマートフォンや掃除機、洗濯機などが対象とされ、スペア部品の供給や修理マニュアルの公開も求められている。また、正規ルート以外の修理業者による互換品や3Dプリント部品の使用を不当に制限することも禁じられている。
PhilipsのFixablesは、こうした法的背景を踏まえ、製品の寿命を延ばし、廃棄物を減らすことを目的とするものだ。今後同社は、シェーバーや電動歯ブラシ、ヘアドライヤーなどの交換部品の追加を検討しているという。今後、同社にとっては、すでに商品を購入してくれた人が継続利用をしてくれるだけではなく、修理に意欲的な人が新規顧客になるというメリットも見込めるだろう。
壊れたら捨てるという従来の消費スタイルに風穴を開けるこのような取り組みは、製品の修理をより身近なものにしてくれる可能性を秘めている。一方で、3Dプリンターや適切な素材・知識が必要とされる現状では、誰もがすぐにこのシステムを利用できるわけではなく、修理へのアクセスに格差が生まれる懸念もある。だからこそ、地域の共用設備や代行サービスなど、より多くの人がこの仕組みに参加できる環境づくりがカギとなるだろう。
修理が日常の一部になるような新たなライフスタイルが、どのように広がっていくのか。その進化に、これからも注目していきたい。
※1 Electrical & Electronics SGS
【参照サイト】Philips will let you fix your trimmer with 3D printable parts and accessories
【参照サイト】Gadget brands: Follow Philips’ lead and let us 3D print our own spares
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Edited by Megumi