【特集】幸せなお金のありかたって、なんだろう?今こそ問い直す、暮らしと社会の前提
お金は、ただの紙切れでも数字でもない。生き方や価値観、人間関係、社会制度にまで影響を及ぼす「見えざる力」だ。便利で、時に残酷で、そして人間的なこの仕組みは、いつから私たちの当たり前になったのだろう。自己責任が求められる働き方、そして「お金がない」ことを理由に後回しにされる福祉や環境対策──議論は世界中で交わされているが、日々の暮らしの中でお金の本質を見つめ直す機会は少ない。だからこそ今、問いたい。「お金」とは何か、そして私たちはそれとどう向き合っていけるのか。本特集では、経済だけでなく、文化人類学や哲学、コミュニティの現場など多様な視点からお金の姿を捉え直す。価値の物差しを少し傾けてみた先に、より自由でしなやかな世界が見えてくることを願って。
市場だけに頼らない、コモンズやケアによる支え合いへの関心が高まる今、改めて「公共の力」が注目されている。公民連携も増えているように、行政だけでまちの運営を続けることが難しくなってきているのだ。
ただし、行政と協働できるのは民間企業だけではない。そこに暮らす市民だって、公共を支え未来をつくるパートナーになれるはずだ。
今、そんな新しい公共のあり方を模索する動きが、世界各地で起きている。その一つが、市民が直接予算の使い道を提案し、さらにその選定も市民による投票で決定する、参加型予算編成(Participatory Budgeting:PB)というモデルだ。
北アイルランド首都・ベルファストの市議会では、この参加型予算が「Bank of Ideas(アイデア銀行)」と名付けられ、市民の支持を集めている。公募は、市民からのメールやオンラインフォーム、郵送で受け付け。その後、基準を通過したアイデアは「投票イベント」に招待され、発案者がそれぞれのブースでプレゼンテーションを行う。集まった市民は気に入ったアイデアに投票し、得票数の多いものに予算が割り当てられるという流れだ。
2024年に始まったこのプログラム。初回の盛況ぶりを受けて、2025年に第2回が開催されている。2025年は計5万ポンド(約980万円)の予算が用意され、少なくとも25のプロジェクトに対し、それぞれ最大2,000ポンド(約40万円)が支給される。初年度を上回る計110件以上の応募があり、6月29日に投票イベントが開催される予定だ。
申し込み期間中にはアイデア創出と応募サポートのためのワークショップも開催。参加のハードルを下げ、より多くの市民からアイデアが集まる場づくりが工夫されている。

Image via Belfast City Coucil
初年度、実際に採択されたのは計29件のアイデア。移動式自転車アートギャラリーとコミュニティガーデン、重度の多重障害を持つ子どもに向けた多感覚演劇ショー、難民の人を対象としたセラピー・マッサージや、気候フェスティバルなど、多様なアイデアが現実となった。
そもそも参加型予算編成の始まりは、1989年にブラジルの都市・ポルトアレグレで政治腐敗への対抗を目指した、市民参加型の予算配分の議論だった(※1)。それ以降、ブラジル国内をはじめ、アメリカや韓国などにも実践が広がっている(※2, 3)。最近では、フランス・パリのアンヌ・イダルゴ市長が2014〜2020年度にかけて参加型予算を採用し、各年2,000万ユーロ(約33億円)を投じた(※4)。日本では杉並区が「区民参加型予算」を確保し、2025年度は健康・ウェルネスをテーマに6月30日までアイデアを募集している。
市民が同じ場を共有し、お金の使い方を一緒に考えることは、まちの未来の優先順位をみんなで決めること。「今」に根を張って未来を見据える民主主義のかたちは、こうした参加型予算で実現することもできるかもしれない。
※1 Case study: Porto Alegre, Brazil|Local Government Association
※2 Speaker Adams, New York City Council Members Announce Results of FY 2026 Participatory Budgeting|New York City Council
※3 ソウル市民参加型予算制度の概要|ソウル市
※4 Parisians have their say on city’s first €20m ‘participatory budget’|The Guardian
【参照サイト】Everyone’s invited to City Hall’s ‘Bank of Ideas’ creative voting day|Belfast City Coucil
【参照サイト】‘Bank of Ideas’ now open for applications|Belfast City Coucil
【参照サイト】Bank of Ideas 2025 | Your say Belfast
【参照サイト】Bank of Ideas 2024 | Your say Belfast
【参照サイト】Summer of Creativity Ahead as ‘Bank of Ideas’ Recipients are Announced|Ulster Tatler
【参照サイト】Pissoirs and public votes: how Paris embraced the participatory budget|The Guardian
【参照サイト】「住民参加型」予算は広がるか 都内自治体が挑戦開始|日本経済新聞
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