指先で伝わる試合の熱狂。視覚障害のある人向け触覚デバイス

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選手のダイナミックな動きや目まぐるしく変わる試合展開。目に障害があり、それらをリアルタイムで把握するのが難しい人々は、スタジアム内にいながらも、点が入った時の高揚感やサポーター同士の一体感を十分に味わい切れないこともある。中には、スポーツ観戦にどこかもやもやとした物足りなさを感じている人もいるかもしれない。

そんな課題に挑むのが、アメリカ・シアトル発のテック企業OneCourtだ。同社が開発した触覚デバイスは、視覚ではなく「指先」で試合を体感する新たな観戦スタイルを提案している。

OneCourtのデバイスには、コートや競技場の輪郭が立体的に施されたゴム製のマットが取り付けられている。スタジアムに設置された高精度のカメラが選手やボールの動きをリアルタイムで追跡し、そのデータを独自のアルゴリズムで振動パターンに変換、デバイスへと送信する仕組みである。

OneCourtのデバイスを膝に乗せる人

Image via OneCourt

利用者はデバイスに手を置くだけで、コート上のあらゆる動きを振動として感じ取ることが可能だ。手のひら全体を平らに置けば、選手たちの全体的な位置関係を「ズームアウト」して把握でき、指先に意識を向ければ、ドリブルやパスといった個々の細かなプレーを「ズームイン」するように追うことができるという。さらに、リアルタイムの音声フィードも搭載されており、得点やファウルといった重要な情報も耳から補完できる。

ちなみに、ゴム製マットにはバスケットボールコート、野球場、サッカー場などいくつかの種類があり、観戦するスポーツに合わせて交換が可能だ。

OneCourtは、すでに様々な試合で導入されている。NBAのポートランド・トレイルブレイザーズが2025年初頭から全ホームゲームでこのデバイスを導入したことは大きな話題となった。

OneCourtのデバイスを使用する複数人の観客

Image via OneCourt

SBJでは、実際にこのデバイスを使用したユーザーの喜びの声を紹介している。

先天性の目の病気をもつ11歳のハンク・フォーゲルさんは、かつては「ただ座っているだけで退屈だった」バスケットボールの試合をこちらを使って観戦。3ポイントシュートが決まった瞬間の興奮を振動で感じ取り、「本当にクールだった」と喜びを語った。

また、視覚障害のある柔道家、アンソニー・フェラーロ氏もこの試合を観戦し、「選手たちがこれほど多くの動きをしていたなんて知らなかった」と、触覚がもたらす情報の豊かさに驚きを示していた。

現在、OneCourtのデバイスは主にスタジアムで利用されているが、2026年には家庭用モデルの予約を開始する予定とのこと。現在、公式WEBサイトではウェイティングリストへの登録を受け付けている。

試合終了間際のシュートシーンに鼓動が高まったり、会場の熱気を感じたり、周りのサポーターたちと一緒に叫んだり……そんなふうに誰もがスポーツの喜びを存分に味わいきれる未来を切り開くカギは、私たちの“指先”にあるのかもしれない。

【参照サイト】OneCourt
【参照サイト】New tech at Trail Blazers games helps engage blind sports fans – OPB
【参照サイト】A Feel for the Game: In-venue devices offer fans with blindness a way to follow the action
【参照サイト】Portland Trailblazers Become First NBA Team to Use OneCourt Haptic Device to Help the Blind Feel the Game – TechEBlog

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