古民家から回収したシンク、いくらで買う?「解体材デモオークション」が教えてくれる、循環に必要な創造性【展示レポ】

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私たちは日々、生活する中であらゆるモノにお金を払う。その多くの場合は、あらかじめ提示された価格を、特に疑問も感じずにその通り支払うだろう。市場経済の発達した現代社会を生きる私たちは、そんな風に“値段を提示されること”に慣れすぎている。

しかし、そもそもそのモノに値段がついているのは、そこに“価値”を見出す“誰か”がいたからだ。では、確かにそこに存在するのに、誰からもその価値を見出されなかったモノはどうなるのだろう。市場経済という舞台に上がれなかったモノたちは、誰にも気付かれず、ひっそりと朽ちていくのを待つしかないのだろうか──。

2025年9月27日から30日の4日間にわたり開催された「サーキュラー支店 展」は、「スクラップアンドビルド」を前提に発展してきた建設業界から、この問いを私たちに投げかける企画展だった。

サーキュラー支店 展の様子

主催したのは、「サーキュラーデザインビルド®️」を掲げ、パートナー企業も巻き込みながら廃棄物の削減や循環を実践する株式会社竹中工務店。会場は、同社が施設運営を担い2025年10月にグランドオープンを迎えた横浜の文化交流拠点「BankPark YOKOHAMA」だ。

会期中はこの場所を「サーキュラー支店」という名の架空の支店に見立て、実際の循環型建築プロジェクトや廃材を活用した建材などが展示された。また、循環をテーマとしたトークセッションやワークショップなども開催され、未来の建築と社会を形づくるサーキュラーデザインの可能性を多様な視点から探った。

今回IDEAS FOR GOOD編集部は、最終日に開催された、一般社団法人ASIBAと合同会社ReLinkが企画するワークショップ「解体材デモオークション」に参加。「実際の解体材を見ながらその使い方を自由に創造し、値段をつける」というユニークな体験から得た学びを、展示の様子とあわせてお届けする。

廃棄物から建材へ、建材から別のモノへ……無限に広がる循環の可能性

建設業界が生み出す廃棄物は、産業廃棄物全体の約2割を占め、量にして国内で3番目に多い。その種類は、コンクリートの破片などの「がれき類」、解体された建物の柱や梁などの木材、掘削・基礎工事で発生する汚泥、そのほか廃プラスチック類、金属くず、ガラスなど、多岐にわたる。そのうえ、解体工事では多種多様な建材が一気に廃棄物となるため、現場での完全な分別が難しいのだ。

結果的に、建設業界の廃棄物の埋立量は年間212万トンにものぼる。サーキュラー支店 展の背景にあるのは、こうした建設業界の大きな課題だ。入口正面に設置されていた透明なボックスの中に積まれた様々な廃棄物から、その多様さと課題の大きさが視覚的に伝わってきた。

サーキュラー支店 展の様子

一方で、その課題の大きさは、可能性の大きさとも言える。廃棄物が多種多様であるということは、創造次第であらゆる活かし方ができ、他の業界との関わりしろも大きいということ。サーキュラー支店 展からは、そんな建設業界の無限の可能性が感じられた。

例えば、建設のプロセスで発生する土を固めて新たな建材を作る研究。あるいは、コロナ禍で使われた飛沫防止のアクリル板や廃棄される服、伸びた芝などからブロックを作るプロジェクト。さらに、内装の解体時に廃棄されるケイカル板を再び内装に用いるアイデアがその一例だ。

サーキュラー支店 展の様子

建設発生土を用いた循環型の建材。生分解性樹脂を固化材として使用することで、土の弱点である強度や耐水性を改善し、廃棄後は土に還る

サーキュラー支店 展の様子

建設現場の廃材、アクリル板、小石、布、芝など、廃棄される様々な素材から作られた「一間ブロック」

サーキュラー支店 展の様子

内装の解体時に廃棄されるケイカル板をアプリで撮影し、その場でタイリングデザインを作成、内装に転用することで素材をそのままアップサイクルするアイデア

また、構造躯体や外装材などをすべて可変・解体可能な構造にしたビルの設計提案や、生分解性の樹脂を使って3Dプリンターで製作され、実際に大阪万博の会場に設置された「森になる建築」など、そもそも廃棄物が極力発生しないようなサーキュラーデザインの事例も多数展示されていた。

サーキュラー支店 展の様子

「借りながら暮らす」をテーマに、働く、集まる、座る、といった日常の行為に便乗するサーキュラーデザインを提案するアイデア。写真は、多様なシーンで活躍する、分解できるコーンパネル

サーキュラー支店 展の様子

竹中工務店と協業するパートナー企業のプロジェクト展示も。写真はアーティストネットワークを活かして制作した廃棄物から生み出されたアートでインテリアや内装を提案する「ACTA+(アクタプラス)」

竹中工務店 サステナビリティ推進部の福井彰一さんは、今回の展示を通して「サーキュラーエコノミーを実装することの必要性をより強く実感できた」と語る。

福井さん「資源循環に関する技術開発やプロジェクトへの展開を進める中で、竹中工務店が掲げる『サーキュラーデザインビルド』というビジョンを真に実現するためには、様々なステークホルダーの理解を得る必要があることを痛感しました。そこで、建築主様や一般市民の方々に廃棄物の状況や資源循環の意義を知ってもらおうと、この展示を企画しました。

実際に開催してみて、廃棄物アートのワークショップで子どもたちが目を輝かせながら材料を選ぶ様子や、作ったものを大切に持ち帰る姿を見て、私たちの取り組みがこうした価値の転換を生み出すものなのだと改めて感じました。また、展示に協力していただいた方々や参加者との関係性の質も高まり、新たな挑戦に踏み出すきっかけなったのではないかと思います。

今後も、より多くの方々と環境にポジティブな建築やまちづくりを進めていきたいと考えています。まちを大きな“建築資材の倉庫”としてとらえる──そんな、新たなまちづくり像を見出したいと思っています」

スクラップアンドビルドの慣習を前提に構築された法律や流通の仕組みの変更、各地に点在する素材の効率的な回収など、新たなアイデアの実装に向けた課題は多い。

しかし今、これまでは捨てるしかなかったあらゆる素材の価値が次々と見出され始めていることは確かだ。ひとたび社会の仕組みが追いついてくれば、こうしたアイデアが一気にめぐり始め、大きすぎるように見える建設業界の課題も乗り越えていけるのではないか──展示からは、そんな希望が感じられた。

そんな使い方もアリ?!個性豊かな解体材の第二の人生を創造する

そんな中、最終日の午前中に行われたのが「解体材デモオークション」だ。企画したのは、竹中工務店と連携して取り組みを進める、建築・デザイン・アート領域の若手プレイヤーの発掘や育成を行うクリエイティブ集団・一般社団法人ASIBAと、ASIBAのレーベルに所属する、様々な方法で解体材の再利用をプロデュースし「文化としてのリユース」をデザインする合同会社ReLink

サーキュラー支店 展の様子

ReLinkの活動のひとつは、全国各地で解体される建物を地域の職人や生産者と共に視察し、彼らが欲しいと表明した部材を解体業者と連携して取り出すこと。現場には、何十年も風雨に耐えてきた木材や、味わい深い質感を持つタイルなど、再び命を吹き込むことのできる素材が数多く眠っている。しかし現実には、その多くが粉砕や焼却に回され、もとの形を保ったまま再利用されることはほとんどない。

なぜ、価値あるモノをもう一度使うことがこんなにも難しいのか──そんな違和感と向き合う中で生まれたのが、解体材の使い方を皆で自由に創造し、オークションのように値段をつけてみることを通して、その価値を再考する場を開くという企画アイデアだった。

解体材デモオークションの様子

(左)合同会社ReLink代表社長・本多栄亮さん(右)一般社団法人ASIBA 代表理事・二瓶雄太さん

デモオークションで扱ったのは、実際にReLinkが各地から回収した10点の解体材だ。例えば、古民家から取り外してきたというシンク。それに、同じく古民家から回収したガラスがはまっていた木枠や、壁から剥がしたタイル。さらには、エアコンの室外機カバー、廃校になった小学校から回収した水道の蛇口やフック、ドアノブ、校長室で使われていたという机の天板……。

解体材と一言で言っても、こうして見てみるとその種類、素材、数は多岐に渡り、確かに全国各地で発生するこれら全てに最適な使い道を見つけるのは容易ではないということもよくわかる。

解体材

古民家から回収されたシンク。陶磁器も金属部分もまだ綺麗で、確かにこのまま捨ててしまうのはもったいない

ワークショップでは、これらひとつひとつの解体材に順番に向き合い、思いついた使い方のアイデアをその解体材の写真が印刷されたポストカードに絵やコメントで書いていく。さらに、「その使い方ができるのであれば、自分ならいくらでその解体材を買うか」を考え、値札シールも貼っていく。

解体材デモオークションの様子

解体材の使い方を提案するポストカード。ここに、思い思いの使い方を絵や文字で書き込んでいく

解体材デモオークションの様子

小学校で使われていた机の天板に対するアイデア

「ガラスを外した木枠は穴を活かして傘立てにしたい」「倉庫の一部だった石をアートを飾る台にしたら、高級感を演出できそう」「エアコンカバーを照明にしたら、円形の影ができてお洒落なのでは」──参加者からは、そんなクリエイティブなアイデアが次々飛び出す。

あえて元々の意図とは異なる使い方を考えてみたり、形やテクスチャーの特徴を活かす方法を考えてみたり。中には複数の解体材を組み合わせたアイデアを提案する人もおり、自分だけでは思いつかないような発想の連続に驚かされた。

解体材デモオークションの様子

シンクの使い方を提案する参加者。個性的なアイデアが次々と飛び出す

解体材

元々はガラスがはまっていた木枠。簡単に加工すれば、間仕切りにできそうだ

解体材

長野県・諏訪地方で回収された昭和期の型板ガラス。現在は同じ型がもう生産されていない

解体材

古民家の壁から回収したタイル。解体業者には綺麗に剥がせないだろうと言われたが、意外にも良い状態を保って回収できたものだという

解体材

エアコン室外機のカバー。溶かして再利用可能なガラスには価値がつき始めている一方で、こうした設備系はまだまだ廃棄物とみなされがちだという

解体材

廃校になった小学校から回収したフック、水道の蛇口、ドアノブ。解体材の多様性が感じられるラインナップだ

筆者はというと、中にはどう使おうかと頭を悩ませるものもあれば、すぐに使い方が思い浮かび、実際に欲しいと感じる解体材もあった。いずれにせよ、ひとつの解体材にじっくり向き合うことで段々と愛着が湧いてきて、「何とかして使ってあげたい」という気持ちになる。そんな、クリエイティビティが刺激されるユニークな体験だった。

必要なのは、どんなモノにも価値を見出す「サーキュラー視点」

竹中工務店を中心に様々な企業や主体の循環に向けた挑戦を見せる展示。値段のつけられていない解体材を前に、その秘められた価値を見出すワークショップ。筆者が参加できたのは全体の一部であったが、一連の企画から感じたのは、循環の始まりとなるのは、仕組みでも制度でもなく、まず「目の前のモノに価値を見出す」クリエイティブな視点──いわば、「サーキュラー視点」にあるということだ。

綺麗に剥がされたガラスであれ、コンクリートの破片であれ、おがくずであれ、誰かが価値を見出さなければそのモノは次の場所へとめぐっていかない。反対に、誰かが「これにはこんな価値がある」と言ってくれさえすれば、そこから循環は始められるのだ。

そして、今回の解体材ワークショップが見せてくれたように、こうした対話の場さえあれば、こぞっていいアイデアを出そうとする──人間には、そんな生来のクリエイティビティが備わっているのではないだろうか。

循環が仕組みになり、社会のインフラにしていくためにやるべきことは山積みで、まだまだ時間がかかる。一方、その前段階の今こそ、最もクリエイティビティが試される、面白いタイミングなのではないか。自分が生きる時代をそんな風に捉えてみることができた、貴重な機会だった。

解体材
【参照サイト】竹中工務店 サーキュラー支店 展  ~スクラップアンドビルドから、資源が循環する建築へ~
【参照サイト】ASIBA
【参照サイト】ReLink

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