北ロンドンの「修理と再利用」最優先の15年戦略。リサイクルはあくまで“最終手段”

Browse By

「リサイクルをしていれば、環境に良いことをしている」──その“常識”はすでに過去のものになりつつあるかもしれない。

リサイクルはたしかに重要だ。しかし、それはあくまで廃棄物が出てしまったあとの対処療法にすぎない。本質的な課題解決のためには、そもそもごみを出さない社会構造への転換が求められている。

イギリスの北ロンドン廃棄物局(NLWA)と、バーネット、カムデン、ハックニーなどを含む北ロンドンの7つの自治区は、2025年から2040年までの15年間にわたる新しい合同廃棄物戦略「North London Joint Waste Strategy 2025–2040」を発表した。この戦略の骨子は、これまで廃棄物処理の中心とされてきた「リサイクル」をあくまで最後の手段と位置づけ、「リユース(再利用)」と「リペア(修理)」を最優先事項へと格上げすることだ。

製品を長く使い、修理しやすくする──こうしたサーキュラーエコノミーへの転換は、EUをはじめとする欧州諸国ではすでに強力な政策として推進されている。今回の戦略は、英国においてもそれらと同等の基準や制度を早急に整えるよう、国や産業界に求めるものだ。

発表された戦略の中で、NLWAは現在の消費システムに対する厳しい現状認識を示している。持続不可能な消費主義が、削減やリサイクルが追いつかない速度で廃棄物を生み出し続けていること。そして、短命でリサイクル困難な製品を市場に溢れさせている生産者がその責任を負わず、処分費用を納税者が負担しているという不公平な構造への批判だ。

この現状を打破するため、北ロンドンは地域レベルでの対策として、家具や衣類、電化製品などを修理・共有・寄付できるコミュニティ・リペア・ハブやリユースショップの拡大、学校教育への廃棄物防止カリキュラムの導入などを掲げた。

しかし、自治体の努力だけで「使い捨て社会」を変えることは不可能だ。そのため同戦略の核心は、英国政府と産業界に対する「要求」にある。NLWAは政府に対し、以下の施策を早急に進めるよう求めた。

まず、製品がより長く持ち、手頃な価格で修理できるようにするための「デザイン基準」の導入だ。これはEUのエコデザイン規制などでも見られる動きであり、製品設計の段階から廃棄を防ぐ狙いがある。次に、生産者が販売するすべての製品の廃棄・リサイクルにかかる全費用を負担する仕組みの徹底。そして、リサイクル率だけでなく、「どれだけリユース(再利用)されたか」を国家統計として評価する新たな指標の導入だ。

NLWAの議長を務めるクライド・ロークス氏は、「なぜ、汚染を続ける企業が利益を上げている一方で、納税者が持続不可能な廃棄物の山を処理するための費用を負担しなければならないのだろうか」と問いかける。

この言葉は、ロンドン市民だけでなく、日々ごみ出しに追われる人々の胸にも刺さるはずだ。北ロンドンのこの新しい戦略は、単なる地域計画というよりも、国の政策に対する自治体からの「異議申し立て」に近い。リサイクル率の数字合わせに終始するのではなく、生産と消費のあり方そのものにメスを入れなければ、廃棄物の問題は永遠に解決しない──そんな当たり前の事実を、改めて突きつけている。

【参照記事】North London Joint Waste Strategy 2025 – 2040
【参照記事】North London’s new waste strategy puts reuse and repair first – and demands Government and business action to prevent waste at source
【関連記事】気候アクションの学び場を、ロンドンの“空き家”で次々展開。地域密着プロジェクト「Sharing Spaces」

FacebookX