2025年は、人工知能(AI)が私たちの日常に溶け込む一年となった。
目覚ましい技術の進歩は、仕事の効率を劇的に高め、かつてない創造性を引き出す可能性を示した一方で、その光が強まるほど、落とす影もまた濃くなった。AIを動かす膨大なエネルギー消費、学習データに潜むバイアス、そして「人間らしさ」とは何かという根源的な問い──テクノロジーがもたらす恩恵の裏側で、私たちは数々の倫理的なジレンマに直面している。
AIは未来を照らす灯台か、それとも新たな格差を生むパンドラの箱か。一つの答えが出ないまま、社会はアクセルとブレーキを同時に踏み込むような、複雑な議論を重ねた一年だったと言えるだろう。こうした中でIDEAS FOR GOODでは、AIがもたらす環境負荷や社会的な公正といった、見過ごされがちな論点に光を当てる記事を届けてきた。
本記事では、2025年に公開した記事の中から、AIとの向き合い方を多角的に捉え、来年以降の「人間とテクノロジーの共生」のヒントとなる6本を厳選して紹介する。効率や便利さという言葉の裏側にあるものを見つめる先にこそ、私たちが目指すべき未来が隠されているのかもしれない。
「AI」の中から編集部が選ぶおすすめ記事5本
01. AIが生む新たな効率、新たな環境負荷。ジェヴォンズのパラドックスとは?
AIの進化が「効率化による環境負荷の削減」という明るい未来を描く一方で、私たちは19世紀の経済学者が残した警告を忘れてはならない。それが「ジェヴォンズのパラドックス」だ。
この理論は、技術革新によってある資源の利用効率が上がると、消費量は減るどころか、むしろ全体として増加してしまう現象を指す。AIが計算速度や製造プロセスを効率化しても、その結果として生まれる余剰の生産能力が、さらなる大量生産と大量消費を加速させ、結果的に総エネルギー消費量を増やしてしまうのではないか。
AIという強力なエンジンを手にした私たちが、そのアクセルを踏み込む前に、進むべき方向性そのものを見直す必要性を問いかける内容を紹介している。
02. AIの省エネは「プロンプト」から。誰でもできる小さなアクション「Prompt Zero」
AIの環境負荷という大きな課題を前に、一個人ができることは小さいかもしれない。しかし、その小さな行動の積み重ねが大きな変化を生む可能性を示唆するのが、「Prompt Zero」というムーブメントだ。
これは、普段私たちが使うChatGPTなどのプロンプトの最後に「簡潔に答えて」「専門用語を避けて」といった一文を付け加えるだけで、AIの計算量を減らし、消費電力を削減しようというシンプルな試みである。
記事では、この「Prompt Zero」の具体的な使い方とその背景にある思想を解説。AIを「使う側」の私たちが、その使い方を少し工夫するだけで、テクノロジーをよりサステナブルな方向に導けることを教えてくれる。加速する世の中でAIを使わざるを得ない今だからこそ、こうした倫理的な「作法」が、これからのデジタル市民に求められるのではないだろうか。
03. 誰の「正義」を学習するのか?グローバルサウスの視点を取り入れた「Justice AI」
AIが学習するデータは、決して中立ではない。現在のAI開発は欧米諸国が中心であり、そのモデルは西洋的な価値観や知識体系を色濃く反映している。その結果、グローバルサウスの国々が持つ独自の文化や、先住民が育んできた伝統的な知恵、周縁化されたコミュニティの視点は、データセットからこぼれ落ち、「存在しない」ものとして扱われかねない。
この構造的な不平等を是正しようと立ち上がったのが、「Justice AI」を開発する研究者たちだ。IDEAS FOR GOOD編集部は、その開発者の一人を取材。彼らが目指すのは、多様な文化の文脈を理解し、それぞれの地域にとっての「公正」を実装したAIだ。
本記事では、AI開発における「知の植民地主義」という根深い問題を浮き彫りにし、真にインクルーシブなテクノロジーのあり方を模索する最前線の声を紹介している。
04. AIは「彼」の言葉で話している?見過ごされがちなジェンダーギャップ
AIと社会正義をめぐる議論の中で、最も身近でありながら見過ごされがちなのが、ジェンダーバイアスの問題だ。ある調査によれば、AIツールの利用率は男性に比べて女性が著しく低く、この利用格差がAIそのものの設計思想に影響を与えているという。利用者の多くが男性であれば、AIが学習する問いやデータも男性的な視点に偏り、結果としてAIが生み出す答えもまた、男性中心の世界観を再生産してしまうのだ。
その背景には、AI開発の現場における女性の少なさや、音声アシスタントが女性の声に設定されがちであるというステレオタイプなど、テクノロジーに深く根ざしたジェンダーの問題がある。誰もがその恩恵を受けられるはずのAIが、無意識のうちに既存のジェンダー不平等を固定化・増幅させていないか。私たちは改めて考える必要があるだろう。
05. . AIは敵か、仲間か。二項対立を超えた「人間とAIの共生」とは
ここまで、AIがもたらす環境負荷やバイアスの問題について議論を重ねてきた。しかし、最後に私たちが立ち返るべきは、AIを「脅威」か「道具」かという二項対立で捉える視点そのものかもしれない。考えるべきは、AIという新たな知性と、私たち人間がいかにして「共生」していくか、という問いではないだろうか。
どうすれば、AIと人間は互いの強みを活かし合うことができるのか。AIを知的な「他者」として認め、対話し、時にはその「不完全さ」さえも受け入れながら、共に新しい社会を築いていく。そんな視座の転換こそが、テクノロジーとの健全な関係を築くための第一歩となるだろう。
まとめ
AIという鏡は、2025年、私たち人間に数多くの問いを突きつけた。効率を求めるあまり見失っていた地球環境への配慮、無意識のうちに再生産してきた社会の不均衡、そして人間だけが持ちうると信じてきた創造性の意味。これらの問いは、技術そのものではなく、技術を使う私たち自身の価値観を問うている。
AIか人間かという対立の構図を超え、両者が互いの限界を補い合い、共に成長する「共生の知性」を育むこと。その探求の先にこそ、テクノロジーが真に人間を豊かにする未来が待っているはずだ。2026年は、その対話と実践を、さらに深めていく一年になるだろう。
Edited by Motomi Souma






