移行期の解は、100かゼロかではなく「真ん中」。オランダのハイブリッド肉「Meat-You-Halfway」の気づかれない戦略

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サステナブルな食の未来を語るとき、議論はしばしば極端に振れる。肉を食べるのか、完全にやめるのか。100%植物由来に移るのか、それとも従来の食習慣を守るのか。しかし、その二項対立のあいだには、大きな”中間地帯”がある。

オランダの「Meat-You-Halfway」は、その中間をあえてプロダクトにしたブランドだ。本質は「肉の代替」ではなく、「人が変わりきれない現実を前提に、どこまで食を移行させられるか」というコンセプト設計にある。

同社共同創業者Remko Hol(レムコ・ホル)さんに、あえて100%を目指さない製品設計の意図や、北海の海藻を活用し「肉好きに気づかれない」ほどのクオリティを実現した背景、そして社会の不完全な現実に歩み寄ることで生まれる巨大な環境インパクトについて聞いた。

今回オランダ・ハーグ市で取材に応じてくれた、Olijck Foods社のRemko Holさん

オランダ・ハーグ市で取材に応じてくれた、Olijck Foods社のRemko Holさん

「ビーガン」製品を毛嫌いする人もいる

Meat-You-Halfwayは、オランダの食品メーカーOlijck Foodsが2022年にブランド化した製品ラインだ。「最大50%が肉、最低50%が植物由来」を基本設計とし、ハンバーガー、ミートボール、rundervinken(牛肉ロール)、ホットドッグ、スモークソーセージ、カルパッチョまで、ラインナップは徹底して見慣れた肉料理だ。新しい食文化を提案するのではなく、既存の食べ方のまま中身だけを変える。

同社共同創業者Remko Hol(レムコ・ホル)さんはその背景にある想いをこう語る。

「ベジタリアンやヴィーガンの人は代替肉食品を好んで選ぶかもしれません。一方で、今の社会の中ではヴィーガンやプラントベースというラベルを見た瞬間に、これは私たち向けの食品ではないと感じてしまう人が多く存在しています。こうした人たちに選んでもらう食品が必要だと思ったのです」

市場データはその見立てを裏づける。GFI Europe(Good Food Institute Europe)が2025年6月に発表したオランダ市場分析レポートによると、同国の植物性肉の販売量は2024年に前年比6.2%減少し、植物性食品全体の小売市場規模も前年比5.9%減(約2億8800万ユーロ)となった。かつて「植物性先進国」と呼ばれたオランダでも、代替肉の普及は止まっている(※1)

濃い緑が示す主菜における植物性タンパク質の示す割合は減少を示す一方で、混ぜて調理する食品における割合はほぼ横ばいとなった。(出典:GFI「The state of plant-based in the Netherlands: retail sales decline despite consumer openness and foodservice growth」)

ところが同時に、政策側の目標は高い。オランダ農業・自然・食品品質省が2022年に策定した目標では、2030年までにたんぱく質消費を動物性50%・植物性50%にするとされる。さらにオランダ保健評議会(Gezondheidsraad)が2023年に示した試算(ING銀行が2025年1月に発表したたんぱく質転換分析レポートも引用)では、60%を植物性・40%を動物性にシフトすることで、食に由来する環境負荷を約25%削減できるとされる(※2)。Wageningen Social & Economic Researchがオランダ農業省から委託を受けて毎年実施するProtein Monitor 2024によれば、現状の植物性たんぱく比率は約40%──目標の50%まで、10ポイントの乖離がある(※3)

消費者の意識と実際の食行動のあいだに、大きな溝が広がっている。

レムコさんが提示する答えは、「ラベルを変える」でも「製品のデザインを変える」でもなく、「誰もが抵抗感なく楽しめる方法を選ぶ」。

具体的には、ハイブリッド製品をベジタリアン棚ではなく、通常の肉製品の隣に並べる。スーパーの缶詰ソーセージや業務用ミートボールをそのまま置き換える形で導入する。「ヴィーガン」も「プラントベース」も名乗らない。消費者に意識的な選択をさせるのではなく、いつもの料理を変えないまま、中身を少し変えること。

Meat-You-Halfwayのハイブリッドバーガー

Meat-You-Halfwayのハイブリッドバーガー(写真は筆者撮影)

その設計の核にあるのが海藻だ。代表的なバーガーやミートボールの配合は、約50%の牛肉に加え、海藻、にんじん、玉ねぎ、きのこ、豆類で構成される。海藻は天然の結着力を持ち、脂の風味や肉らしい食感を補いながら、人工的なバインダーや過剰な添加物を減らせる。さらに天然の旨味と塩気を持つため、添加塩も抑えられる。

レムコさんによると、同社は「環境にいいから海藻を使う」のではなく、「おいしさを落とさずに肉を減らすために海藻が必要」なのだという。

スケールの論理──半分でも、インパクトは巨大になる

肉と植物性を組み合わせるハイブリッド食品は、単なる“中途半端な選択肢”ではない。英ガーディアン紙は2022年の論考で、レンズ豆や野菜を肉に混ぜる「ハイブリッドバーガー」が、環境負荷、健康、動物福祉の観点で大きなメリットを持ちうると指摘している。肉の消費量を完全にゼロにしなくても、部分的に減らすだけで大きな環境インパクトにつながるのだ(※4)

Olijck Foodsが公式サイト上で開示する2022年9月の導入以降の累積インパクトは、CO2削減750トン、淡水使用量600万リットル削減、農地使用36万5,000平方メートル減(※5)。いずれも企業自己開示ベースの数値だが、重要なのはロジックだ。「半分しか減らしていない」のではなく、「半分減らすだけでこれだけ変わる」と見せる──そのフレーミングが戦略の一部だ。

レムコさんによると、KLMの機内食で大量のハイブリッド・ミートボールが提供されたとき、乗客から特別な反応はなかったと言う。美味しいという評価はあっても、「いつもと違う」と気づいた人はほぼいなかったのだ。レムコさんは言う。

「気づかれないことが、最大の成功です」

現在、Meat-You-Halfwayの製品はBidfood・Sligro・HANOSといったオランダ主要食品卸を通じてケータリング、社員食堂、飲食店へ供給されている。またEnkco(Van Loon Group傘下)との協業で食品サービス向けラインナップをさらに拡張中だ。カルパッチョはSelektMeatと共同開発され、meatandmore・FortunaCarpaccioのブランドで展開されている。

プロの厨房でまず使われ、料理として成立し、その体験を通じて消費者の抵抗感を下げていく──それが同社の市場進入の順序だ。

Meat-You-Halfwayのハイブリッド・ソーセージを提供するレムコさん

Meat-You-Halfwayのハイブリッド・ソーセージを提供するレムコさん(写真は筆者撮影)

この”気づかれない戦略”には学術的な裏付けもある。Meat Science誌に2023年に掲載されたオランダ・フィンランドの消費者研究(オランダ126名・フィンランド250名対象)では、フレキシタリアン層はハイブリッド肉に対して、100%植物性代替肉や培養肉より高い評価を示した(※6)

また英・西・デンマーク消費者2,477名を対象とした2022年のApplied Economic Perspectives and Policy誌の研究では、ハイブリッドバーガーへの購買意向は「提供される情報の種類」に強く左右され、「健康面の便益」を伝えたときに最も高まる一方、「植物性であること」の明示は購買意向を必ずしも高めないという結果が出ている(※7)

Wageningen University & Researchが2025年に発表した分析は、より直接的にこう指摘する。「政策は植物性製品の供給拡大に集中してきたが、実際に変わるのは消費者の行動だ。そして行動変容は、新しい食文化を押し付けるよりも、既存の食体験を少しずつ書き換えるほうが現実的」(※8)

北海の海藻が、食卓につながる日

Olijck Foodsの海藻利用は、食品単体の話にとどまらない産業文脈の中にある。

2022年に構想され、2024年10月に植え付けが始まったNorth Sea Farm 1──オランダ沖シェフェニンゲンから約18キロの洋上風力発電エリア「Hollandse Kust Zuid」内に設置された世界初の商業規模沖合海藻農場は、2025年7月、初収穫を達成した。

Amazon’s Right Now Climate Fundが200万ユーロを拠出し、North Sea Farmersが主導したこのプロジェクトは、洋上風力タービンのあいだというすき間の空間を活用し、農地も淡水も肥料も使わない海藻生産の商業的可能性を実証した。「沖合インフラの中での商業規模の海藻生産が可能だと証明できた」とNorth Sea FarmersのマネージングディレクターEef Brouwersは欧州海藻協会による記事の中で述べている(※8)

オランダの面する北海で水揚げされる海藻。

オランダの面する北海で水揚げされる海藻。(写真提供:Hague & Partners)

海藻は食品のみならず、包装材・繊維・塗料・木材代替など多用途素材として期待されており、欧州では産業そのものを立ち上げるフェーズにある。Olijck Foodsが日常の肉製品に海藻を組み込む試みは、その供給側を支える需要の出口の一つとして機能しうる。

欧州における海藻製品への需要は堅実な増加が見込まれる。

欧州における海藻製品への需要は堅実な増加が見込まれる。(出典:2021年「Seaweed for Europe – Hidden Champion of the Ocean – Report」)

もちろん限界はある。ハイブリッド肉は依然として動物性食品であり、完全な脱動物性を求める層には適さない。「中途半端」と見なされるリスクも常に抱える。

それでも、このブランドが示しているものは大きい。たんぱく質転換の議論は、「何が最も正しい食か」に集中しがちだ。しかし市場が本当に必要としているのは、「人が今の生活を壊さずに、どこまで前に進めるか」という問いへの答えかもしれない。

Meat-You-Halfwayという名前は象徴的だ。最初から「半分まで行こう」と言っている。ごまかさない代わりに、ハードルを下げる。完全な置換より、現実的な移行──このブランドは”肉の未来”を売っているのではなく、”変化の速度設計”を売っているのだ。

Meat-You-Halfwayのハイブリッド・ミートボール

Meat-You-Halfwayのハイブリッド・ミートボール(写真提供:Olijck Foods)

編集後記

レムコさんが私の前のテーブルに並べてくれたのは、カルパッチョとバーガー。どちらも見た目は普通の肉料理だ。カルパッチョは薄く広がり、バーガーはずっしりと手に重い。一口食べて、特別な感想は浮かばなかった──それが、おそらくこの製品の正解だ。

レムコさんの言葉、「気づかれないことが、現時点でのいちばんの成功になりうるのです」が響く。

食の移行を巡る議論は、どうしても「理想の食」の話になりがちだ。でも現実の食卓は、習慣と感情と慣れ親しんだ味でできている。Meat-You-Halfwayが示しているのは、その現実を否定せずに、書き換えていくことが可能だ、という道なのではないだろうか。

取材協力:Hague & Partners

※1 GFI Europe(2025年6月)「The state of plant-based in the Netherlands: retail sales decline despite consumer openness and foodservice growth」
※2 Health Council of the Netherlands / Gezondheidsraad(2023年)「A healthy protein transition」 Report No. 2023/19
※3 Wageningen Social & Economic Research(2024年)「Protein Monitor 2024」(オランダ農業省委託)
※4 The Guardian(2022年11月7日)「How can we cut soaring demand for meat? Try a hybrid burger」
※5 Olijck Foods(2024Olijck Foods(2022〜)Meat-You-Halfway製品ページ・環境インパクト情報
※6 Schouteten, J.J. et al.(2023年)「No meat, lab meat, or half meat? Dutch and Finnish consumers’ attitudes toward meat substitutes, cultured meat, and hybrid meat products」Meat Science, ScienceDirect
※7 Grasso, S. et al.(2022年)「European consumers’ valuation for hybrid meat: Does information matter?」Applied Economic Perspectives and Policy, Wiley Online Library
※8 Wageningen University & Research(2025年)「Less meat helps people and planet – but where is the clear direction?」
※9 North Sea Farmers(2025年7月14日)「First-ever harvest at pioneering North Sea seaweed farm」 northseafarmers.org / PRNewswire

【参照サイト】Remko Hol, Duurzaam Ondernemen(2021年)「Remko Hol: ‘Olijck Foods geeft een gezicht aan de eiwittransitie’
【参照サイト】オランダ農業・自然・食品品質省(2022年)「Eiwitbalans 50/50 in 2030」
【参照サイト】「Accelerating the protein transition: Netherlands slow to meet 50:50 animal and plant-based protein split」 foodingredientsfirst.com (2025年1月)

Edited by Erika Tomiyama

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