牛乳パックが“メディア”に。日常の風景を自閉症啓発に変えたキャンペーン

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朝、冷蔵庫から取り出した牛乳パックを手に取る。何気なくグラスに中身を注ぐその数秒のあいだ、なんとなく目に入ってくるパッケージ。そこに、対話のきっかけが仕込まれているとしたらどうだろう。

何百万、何千万という単位で食卓に並ぶ牛乳パックに、広告以上の可能性が宿っていることを示したのがブラジルの乳製品大手ピラカンジュバだ。

ピラカンジュバは、4月の世界自閉症啓発デーに合わせ、自閉症当事者が設立・主導する団体「Autistas Brasil」と連携し、啓発キャンペーン「Além do Espectro(スペクトラムの向こうへ)」を開始した。

これは、同社の牛乳のパッケージに、自閉症に関する5つのメッセージ(「自閉症は病気ではない」「自閉症の人は一人ひとり異なる」「自閉症の人は生まれつき自閉症である」「自閉症スペクトラムは広く多様である」「自閉症の子どもには支援が必要であり、その母親にも支援が必要である」)を掲載するというもの。パッケージにはQRコードも載せられており、読み取ることでより詳しい情報へアクセスできるようになっている。企画の立ち上げ段階からAutistas Brasilが関わり、メッセージ作成にも専門的な助言を行ったのが特徴だ。

この取り組みの背景には、自閉症をめぐる誤情報や理解不足がある。信頼できる質の高い情報へのアクセス不足が、社会が自閉症のある人を理解し、受け入れ、包摂を実践するうえで、今なお大きな障壁の一つになっているのだ。

そこでピラカンジュバは、自社の強みである流通網に着目した。同社の商品はブラジルの約9割の世帯に届き、月間で約6,000万個が消費されている。インターネットや特定の関心層に依存しないこの接点を通じて、これまで情報に触れる機会が少なかった層にも知識を届けようとしたのだ。

また、このキャンペーンは調査や当事者団体へのヒアリング、そして神経多様性をめぐる文脈への理解を踏まえて設計された。レイアウトは明快で読みやすく、情報が伝わりやすいよう工夫。単に「伝える」のではなく、誰にとっても受け取りやすいかたちに整えるところまで含めて、啓発のデザインになっているのだ。

地方で暮らす祖母の朝食の席に、あるいは忙しく働く父親の食卓に、牛乳パックが並ぶ。そうした日常のなかのワンシーンを通じて初めて、自閉症についての正しい知識と出会う人もいる。啓発とは、特別な場所に置かれた広告や作りこまれた動画キャンペーンだけで進むものではない。生活のなかに、どんな入口をつくれるかでも大きく変わるのだ。

社会課題の解決というと、新しい制度や大きな予算、革新的な技術に注目が集まりやすい。もちろんそれらは重要だ。しかし、この事例が教えてくれるのは、すでに存在しているインフラや接点もまた、社会を変える資源になりうるということだ。

企業が持つ流通力やパッケージという「日常の面」を、理解を広げるためのメディアとして使い直す。その発想が、包摂のあり方を少しずつ塗り替えていく。毎朝の食卓に並ぶ一本の牛乳パックは、見慣れたものの役割を少しずらすだけで、社会に新しい理解の入口をつくれることを教えてくれている。

【参照サイト】Além do Espectro: campanha usa embalagens de leite para combater desinformação sobre autismo no Brasil
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