1日1.08ドル未満で暮らす人が70%以上、金融口座を持たない人が75%(※)。
アフリカ南東部の国・マラウイでは、農業、住居、金融、環境といった暮らしの基盤が脆く、分断された状態にある。たとえば、多くの家庭は生産性の低い小規模農業に頼り、家は森林破壊を伴うレンガで建てられ、金融サービスからは排除されている。こうした課題が絡み合う中で、人々は「働いても、住む家がなく、未来が築けない」という構造的な困難に直面しているのだ。
そんな中、これらの単一ではなく相互に関連する複合的な社会課題に対して、ホリスティックに解決しようとするプロジェクトが注目を集めている。その名もアフリカ・マラウイの「Small Farm Cities(スモール・ファーム・シティーズ)」だ。
Small Farm Citiesは、アフリカのワーキングクラスの人々に向けて、単に「農業支援」や「家の提供」をするのではなく、彼らが持続可能な生活基盤を築くための“農業型コミュニティ”を構築している。農業・住宅・金融の3要素を統合し、すべてをデジタルでつなぐ仕組みによって、マラウイの地方部に包括的なまちづくりを展開しているのだ。

Image via Small Farm Cities
まずは「農地」。提供される農地では、再生可能農業のプロによる灌漑や資材提供、栽培方法のトレーニング、さらには収穫物の買い取り契約まで用意されており、初心者でも安定した収益が得られるよう支援されている。
次に、「住宅」。農地とセットで提供されるのは、1棟約1,000ドルという低価格な家である。焼かずに固める環境負荷の少ない圧縮土ブロックで作られており、木材を燃やして作る従来のレンガに比べて、森林破壊を大幅に削減できるという。農地で得た農業収益を使って、住民はこの住宅ローンを少しずつ返済していく。つまり「住まい」と「収入」が連動しているのだ。
最後に注目すべきは「金融サービス」である。農作物の収量やローンの返済状況を可視化できるデジタルダッシュボードにより、金融サービスにこれまで触れる機会の少なかった人々も、収支や支払い計画を理解しながら生活を安定させていける仕組みが整っている。
これまでにSmall Farm Citiesは、すでに3つの農業コミュニティを立ち上げ、50戸以上の家を建設。60万キロ以上の野菜をマラウイ国内で販売し、1,000人を超える若者が農業研修に参加するなど、大きな成果を上げている。

Image via Small Farm Cities
このプロジェクトの背景には、気候変動や都市の近代化がもたらした「暮らしの基盤の切断」がある。農業と住まいの分離、自然環境の劣化、そして人と人とのつながりが希薄になった都市空間。それに対し、Small Farm Citiesは「畑」を軸に、自分たちの手の届く範囲で暮らしを再構築すること、つまりローカルでの自立を目指している。
この動きは、日本の地域通貨や空き家の再活用、コミュニティファームといったローカルな実践とも重なる。日本でも過疎化が進む中、空き家を再生し、地域に根ざした働き方やつながりを育てる動きが各地で生まれている。また、都市部では「シェア畑」など、農を軸とした関係づくりが注目されつつある。
畑を“食べるための場所”ではなく、“暮らしのインフラ”として捉え直すSmall Farm Citiesの視点は、こうした日本の地域づくりにも新たなヒントを与えてくれる。規模や文脈は異なるものの、マラウイと日本の地域課題には、いくつかの共通する課題意識が見出せる。いま地域支援に問われているのは、「何を手渡すか」ではなく、「どう共に、持続可能な暮らしの基盤を繋ぎ直すか」なのだ。
※ FinMark Trust「FinScope Consumer Malawi Survey 2023」
【参照サイト】Small Farm Cities Africa
【関連記事】アフリカに学ぶ「ケアの民主化」。地域が担うメンタルヘルスのあり方
【関連記事】農業でCO2は削減できるのか?コスタリカの「リジェネラティブ農業」最前線【ウェルビーイング特集 #8 再生】