書店でふと手に取った一冊。その物語を紡いだのは、血の通った人間だろうか、それとも高性能なAIだろうか。
AIが瞬時に文章を生成できる時代、私たちはその問いに直面している。これはAIを否定する話ではない。テクノロジーと共存しながら、人間ならではの創造性や思考の価値をどう見出していくか。その一つの答えが、イギリスから示された。
AIが生み出すコンテンツが溢れるなか、イギリスのスタートアップ・Books By Peopleが、人間が書いた作品であることを示す「オーガニック文学」認証をスタートさせた。これは、特定の基準を満たした食品にオーガニック認証が与えられるように、人の手による創造性を保証する試みだ。
その仕組みは、人間が執筆した書籍に「オーガニック文学」のスタンプを表示するというもの。ただし、この認証はAIを完全に排除するものではない。作家の可能性を広げるためのアイデア出しや、編集作業におけるフォーマットの整理といった補助的な役割でのAI利用は認められている。出版社は、この認証基準を遵守し、年次の抜き打ち検査を受けることで、自社の本にスタンプを付与する資格を得る。

Image via Books By People
この動きの背景には、AI生成コンテンツの急増がある。特に、Amazonのような巨大オンラインマーケットプレイスは、AIが書いたテキストに関する規制が追いついておらず、専門家が「無法地帯」と警鐘を鳴らすほどだ。質の低いコンテンツや、ときには危険な偽情報が野放しになるリスクも懸念されている。
最初の認証タイトルは、創設パートナーの一つであるGalley Beggar Pressという出版社から2025年11月に出版される、ゴンサロ・C・ガルシア著の『Telenovela』。同社の共同ディレクター、サム・ジョーディソンはThe Guardianの取材でこう語る。「この取り組みは、本を創る人、届ける人、そして何より、本を愛する読者にとって非常に大きな意味を持ちます。これは品質の証であると同時に、私たちが本に求める、人間ならではの温かさや想いを保証するものなのです」
Books By Peopleは2026年にグローバル展開を計画しており、この動きはさらに広がっていくだろう。英国出版社協会も、人間の創造性を守るこうした自主的な取り組みを歓迎し、オンライン小売業者に対して低品質なAIコンテンツへの対策強化を求めている。
この「オーガニック文学」のスタンプは、単にAI不使用を示すためのものではない。AIが人間の能力を拡張するパートナーとなりうる未来において、私たちは物語に何を求め、何を大切にしていくのか。その本質的な問いを、投げかけているのだ。
【参照サイト】Books By People
【参照サイト】Certified organic and AI-free: New stamp for human-written books launches
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