【2022年最新版】オランダ企業のサーキュラーエコノミー先進事例
世界で注目されるサーキュラーエコノミー(循環型経済)。
これは、従来の大量生産・大量消費を前提とした経済システムのなかでは活用されることなく捨てられていた原材料や製品を、新たな「資源」と捉え、ごみを出すことなく資源を循環させる経済の仕組みのことを指す。アクセンチュア社の試算によれば、サーキュラーエコノミーの市場規模は2030年までに4.5兆米ドルに成長すると予測されている。
そんなサーキュラーエコノミーを先導するのが、ヨーロッパのオランダだ。首都アムステルダムでは2050年までに100%循環型都市になるという目標を掲げており、官民が連携してさまざまな事業のサーキュラー化が進められている。今回は、そんなオランダの注目企業を10社ご紹介しよう。
サーキュラーエコノミーに取り組むオランダ企業10社
01. 壊すときのことを考えた、サーキュラー建築スタジオ「bureauSLA」
bureauSLA(ビューロ・スラー)は、建築家と建築史学者、都市設計家、エネルギー専門家からなる、サーキュラーエコノミーを推進する建築スタジオ。資源やエネルギー、廃棄物の潜在価値を最大限に高める建築プロジェクトを手掛ける。「壊すときのことを考えて建て、サーキュラーでないものを使い続けるために愛着を持つ」という「建築とサーキュラー思考」を提唱する企業だ。
【公式サイト】bureau SLA – we are architects
02. サーキュラー×スマートビルディングを取り入れた職場「EDGE Olympic」
アムステルダムの南にある開発地区には、世界の誰もが羨むようなスマートなオフィスビルがある。建物の名前は「EDGE Olympic(エッジ・オリンピック)」。健康や快適性に焦点を当てた、建物環境評価システムである『WELL™Core&Shell Platinum認証』を取得したオランダで初めての建物だ。もともと郵便局だった古い建物を取り壊さず、既存の建物を再利用したため新しい建築材料を使用していない。
【公式サイト】EDGE Olympic
03. メガバンクが建てたサーキュラー複合施設・カフェ「CIRCL」
オランダの大手銀行ABN AMRO(エービーエヌ・アムロ)が建てた複合施設、CIRCL(サークル)。サーキュラーエコノミーの高い目標を掲げながら、みんなが気持ちいい空間をつくる。多くのリサイクル素材を使用し、解体後の再利用も念頭に置くサーキュラーデザインを採用。廃材アートも展示し、太陽光発電や雨水タンクも活用する。フードロスを減らすレストランも設置。
【公式サイト】CIRCL
04. サーキュラーエコノミーに取り組む国内最大手銀行「ING」
アムステルダムに本拠を置くオランダの最大手金融機関、ING(アイエヌジー)グループは、サーキュラーエコノミーの潮流がくる金融業界でも、いち早くビジネスモデルの転換を図ろうとしている。2018年7月には、他のメガバンクと共同で、金融業界におけるサーキュラーエコノミーの理解のためのガイドライン”Circular Economy Finance guidelines”を作成した。
【公式サイト】ING BANK
05. サーキュラーシティ構想を掲げ、市と連携する非営利団体「Circle Economy」
「2050年までに100%サーキュラーエコノミーを実現する」という目標を掲げるアムステルダム市と密接に連携し、戦略を支えるサーキュラーエコノミー推進団体。自然環境を破壊することなく社会的正義(貧困や格差などがない社会)を実現し、全員が豊かに繁栄していくための方法論である「ドーナツ経済学」でサーキュラーシティをつくる。
【公式サイト】Circle Economy
06. 街の食品ロスを減らすイニシアチブ「Taste Before You Waste」
TBYWはアムステルダムを拠点に、食料品店から出る廃棄食材を使ったディナーパーティーやフードサイクルマーケット、ワークショップなど、さまざまなイベントを行うイニシアチブ。現在は、オランダのユトレヒト、ベルゲン、さらにはカナダのキングストン、ニュージーランドのオークランドにまで拡大し、世界で食品廃棄を削減するためのムーブメントを起こしている。
【公式サイト】Taste Before You Waste
07. 都市アートで循環型の空間づくりを行う「NDSM」
アムステルダム中央駅から無料のフェリーに乗って5分ほどで到着するアムステルダム北地区には、お洒落なカフェやレストラン、斬新なホテルに加え、アーティストやスタートアップが集結し、最もクリエイティブなスポットとして注目を集めている。そのシンボルとも言えるのが、約8万㎡におよぶ旧造船所の敷地をリノベーションしたアート地区「NDSM(エヌディーエスエム)」だ。
【公式サイト】NDSM
08. 汚染地域を住民一体型のサーキュラー実験地区に変えた「De Ceuvel」
アムステルダム北地区にある「De Ceuvel(デ・クーベル)」。水辺に近く、どことなくヒッピーな雰囲気のあるこのエリアは、クリーンテクノロジーのプレイグラウンド(遊び場)と呼ばれている。もともと汚染されていた土壌を再生・活用するためにアムステルダム市が呼びかけ、今ではサーキュラーエコノミーに取り組むスタートアップと、市民のための実験地区となった。
【公式サイト】De Ceuvel
09. 製品デザイン/PaaSモデルのごみ箱をデザインする「LUNE」
10項目のサーキュラリティ(循環性)を掲げ、サーキュラーデザインのごみ箱をプロデュースするLUNE(ルーン)。すべての作業を一つの工場の中で行い、サステナブルな方法で製造し、廃棄物だけではなく、それを入れるごみ箱すらも循環させる。ごみ箱を「所有せずに利用する」PaaS(Product as a Service)モデルを導入し、グローバルな規模で、ローカルな事業を展開中。
【公式サイト】Lune – Circular Waste Bins
10. アップサイクル/スマホを回収・再生する「Closing the Loop」
【欧州CE特集#6】まっさらなアフリカだからこそ循環型社会へ。携帯電話回収スタートアップ「Closing the Loop」
Closing the Loop(クロージング・ザ・ループ)は、アフリカで廃棄された携帯電話を回収し、メタルを抽出するヨーロッパの製錬所に販売、マテリアル・ニュートラルな携帯として新しく生まれ変わらせるスタートアップ。不適切な焼却や埋立処分による資源の無駄、環境汚染、健康被害を減らす。
【公式サイト】Closing the Loop
10. 廃棄物を出す企業と使いたい企業をマッチングする「Excess Materials Exchange」
【欧州CE特集#24】ブロックチェーンとAIで廃棄物をマッチングするアムステルダムのスタートアップ「Excess Materials Exchange」
業界横断型プラットフォームで廃棄物を出す企業と、それを資源として活用したい企業をマッチングするアムステルダムのスタートアップ。AIが素材マッチングを加速し、ブロックチェーン技術で透明性とプライバシーを確保。自ら積極的にユニークなコラボを生み出す。
【公式サイト】Excess Materials Exchange
11. 製品のサーキュラリティを可視化し、調達を支援する「Circular IQ」
市場に出回っている製品のサーキュラリティを、単なる概念ではなく、測定可能なデータとして可視化するベンチャー企業。製品一つひとつに「Product Passport(製品パスポート)」というアイデンティティを付与し、サーキュラリティを可視化することで政府や企業のサーキュラー調達やサーキュラーエコノミーへの移行の具体的なアクションを支援する。
【公式サイト】Circular IQ
12. 廃棄スマホから美しいジュエリーをつくる「NoWa」
金、銀、その他たくさんのレアメタルや希少な資源が埋もれる都市鉱山を眠らせないために、廃棄されたスマホからジュエリーをつくり、メッセージを届ける。このようにして、増加する一方の廃スマホがアフリカの電子廃棄物の墓場に辿り着くのを回避。また、レアメタルを新たに採掘することで、生じる鉱山での児童労働や資源を巡る紛争を未然に防ぐ。
【公式サイト】NoWa
13. 起業家が集まる、ロッテルダムのインキュベーションセンター「BlueCity」
オランダ第二の都市ロッテルダムのかつての温水プールが、30社・約100名の起業家やスモールビジネスが集まるインキュベーションセンターに変わった施設。起業家・リソース・知識・ネットワークが集積する象徴的なサーキュラーエコノミーのエコシステムで、新しいインスピレーションやアイデアを得るために世界から多くの人が視察に訪れる。
【公式サイト】BlueCity
14. 世界初・循環型のファッションを展示するミュージアム「Fashion for Good」
2018年秋、アムステルダム中心街に誕生した世界初のサステナブルファッションミュージアム。私たちが普段何気なく着ている衣服の裏側にあるストーリーから、持続可能な未来に向けたイノベーションまでのインタラクティブな学びを提供し、“来館者の行動を根本的に変える” ことを目指す。
【公式サイト】Fashion for Good
15. デニム作りに必要な工程が全部わかる施設「Denim City」
デニムの産業で必要な工程を一つの敷地に集めた施設。デニムに関連する企業やプロジェクトを支援する財団「ハウス・オブ・デニム財団」が運営する組織で、現場には所狭しと色とりどりのデニム製品が置かれている。
【公式サイト】Denim City – Denim of tomorrow
16. ボートツアーで河川の掃除を提案する「Plastic Whale」
Plastic Whale(プラスチック・ウェール)は、街にすでに流出してしまったごみを回収するため、運河でペットボトルを釣りするボートツアーを企画するアムステルダム発のスタートアップ。釣ったプラスチックは、サーキュラー家具をつくるのに使用する。ツアーによって人々の意識改革や行動変容を促し、街づくりの一員となってもらうというユニークな体験を提供している。
【公式サイト】Plastic Whale
まとめ
スマホなどの電子廃棄物の削減に取り組んでいる複数のベンチャー企業もあるが、近年は、生産側が掌握していた力を消費者側に移譲し、より自由に修理できるようにすることで、無駄を減らす「修理する権利(Right to repair)」の概念が浸透してきている。
国土も人口規模も決して大きくないオランダが、世界のサーキュラーエコノミーの先陣を切って行く理由の一つに、オランダが別名「低地」を意味する「ネーデルラント」とも呼ばれることがある。オランダ全体の3割は、海面より低いところにあり、国土の2割が干拓によって造り出された土地だ。
たびたび洪水に見舞われ、ひっきりなしに排水しなければ、いとも簡単に浸水する。そのような事情から、人々は生活の基盤となる土地を守るために、皆が協力して地域ぐるみで社会を守ってきた。そのためオランダでは、地域は運命共同体であるという思想が自然と醸成されたのだ。
以下の「欧州サーキュラーエコノミー特集」では、オランダ以外にもイギリスやドイツ、フランス、ノルウェーなどのサーキュラー事業を取り上げているので、ぜひチェックしてみてほしい。