【欧州CE特集#34】「売らない食材は私にください」自走するドイツ最大の市民イニシアティブ「Berliner Tafel」

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「フードバンク」をご存知だろうか。フードバンクとは、まだ食べられるのにも関わらず「賞味期限が近い」「メーカー・小売側の問題がある」などの理由で廃棄されてしまう予定の食品を集め、必要な施設や団体に寄付する機関のことを指す。日本のフードバンクは欧米諸国に比べて規模が大きい訳ではなく、行政や企業との関わり合いも少ないと言われている。そのため日本のどのフードバンクも「資金繰り」という壁にぶつかっているという。

この度ご紹介するのは、ドイツ・ベルリンでフードバンクの役割を果たしている非営利組織「Berliner Tafel e.V.(以下、ベルリーナターフェル)」である。27年前にベルリーナターフェルを立ち上げて以来代表を務めるSabine Werth(以下、サビーネ)さんは「ベルリーナターフェルは従来のフードバンクとは異なり、行政の資金援助を受けない、完全に独立した組織だ」と強調する。

今回はサビーネさんへのインタビューから、ベルリーナターフェルが実践しているユニークなアイデアを紹介し、独立した組織として自走するフードバンクの新しいあり方について考えてみよう。

代表サビーネさんの画像

Berliner Tafel e.V.代表サビーネさん

タダで食品を仕入れ、タダで提供する

Q.ベルリーナターフェルについて簡単に教えてください。

ベルリーナターフェルは27,00人以上のボランティアと32人の職員からなり、寄付と月額最低2.75ユーロ(約350円)のメンバーシップのみで食品や車の調達を行っています。政府から独立した存在であるのが大きな特徴です。一般的に、フードバンクを運営するには倉庫代や人件費などかかりますが、ベルリーナターフェルでは「タダで食品を仕入れ、タダで提供する」のが原則。お金が一切かかっていません。これがベルリーナターフェルの特徴です。

スーパーに行くと、果物や野菜は割高で売られていることに気づきます。ほとんどの貧しい市民は高い野菜や果物の代わりに安い肉製品を買っているのですが、それは健康的ではありません。そのため私たちが提供しているのは主に野菜や果物で、基本的に肉製品は提供していません。さらに重要なこととして、提供している食品の30%以上がオーガニックなものです。

Q.提供する食品の基準はありますか?

野菜は手に取って、見て、匂いを嗅いで大丈夫であれば食べられます。それはこちらで分別していますが、それ以外に基準はありません。

Q.どのように食品を仕入れているのでしょうか?

スーパーやメーカーに直接交渉しています。26年前、創業した当初は苦労しました。「ゴミがほしいの?」と聞かれるので、その度に「ゴミではなく、あなたが売らないものがほしいのです」と根気強く伝えました。それでも「私たちが売らないものはゴミだよ」と言われてしまうのです。

私は賞味期限の日付システムを抜本的に変える必要があると思っています。賞味期限が少し切れているだけでも、100%気持ちよく食べようという気にはなれませんよね。「賞味期限が切れていても大丈夫」といくら強調されても、安心できるかどうかは心の問題。だからこそ、日付システムを変えることは私の使命だと思っています。

ベルリーナターフェルに届く野菜

ベルリーナターフェルに届く野菜。綺麗な状態のものが多い

協力してくれる人が「いい気持ち」であることが大事

Q. 寄付とメンバーシップのみで、どのように団体の経営を成り立たせているのですか?

さまざまなクリエイティブなアイデアがあります。空港のセキュリティチェックの前にペットボトルの回収箱がありますね。ここに回収された何トンものペットボトルを資金に換えています。これにより2年間で50万ユーロ(約6,000万円)を手にしました!

またあるとき行ったキャンペーンでは、ベルリンにある106ものレストランに働きかけて特別なスープを作ってもらいました。レストランでそのスープを注文するとその金額がベルリーナターフェルに寄付されるというものです。

他にも、1年分のメンバーシップをプレゼントできるようなカードもあります。「ベルリーナターフェルのメンバーになるための会費を大切な人に代わって支払う」ユニークなアイデアだと思いませんか?

食べ物の配布拠点としては、教会を使っています。しかも、45もの教会です。教会は町のそこかしこにあり、スペースがあるので活用させてもらっています。教会の方たちは「どうぞ使ってください。ここを利用される方はどの宗教の方でも、あるいは無宗教の方でも構いません。」と言ってくれています。ベルリーナターフェルを利用する人にははるばる遠くから足を運んでもらいたくないと思っているので、最適な場所だと思います。それぞれの教会で週1度配布しており、多くのボランティアが参加してくれています。

毎年上半期に、Fruit Logistika、Grüne Messeといった世界中の企業が集う食品の見本市が開催されます。食品が多く展示されるとても大きなイベントで、ボランティアが400人程度参加します。イベント終了間際にもう使われない食品を毎日頂くのです。2020年には全部で96トンもの食材が提供されました。

また、ボランティアに参加してくれる人たちもさまざまで、例えば会社を引退して来年から年金を貰うような人たちには「自分が社会にどう貢献できるか」を模索しているような人もいます。とある自治体では定年で退職する従業員たちにベルリーナターフェルを紹介してくれているようです。ほかにも食の循環性に興味のある学生や、健康問題に興味のある医療現場の方たちもいますね。

食事を提供すること、ボランティアに参加すること、場所を提供することについて「いい気持ち」を持ってもらえることが大切だと思っています。

次世代に向けた取り組みも活発です。目の前の道路にある、青いバスを見ましたか?もう使われなくなった電車もありますね。「キンバ」という名前です。私たちは幼稚園や小学校に通う子どもたちをバスや電車に招待して食べ物の大事さや簡単な料理を教えます。貧しい子どもたちに向けてではなく、全ての子どもたちに向けてです。

キンババス

キンババス

キンバエクスプレス

キンバエクスプレス

私は、若い人が抵抗感なく食べ物を捨ててしまっている今の状況を危惧しています。「Fridays for Future」と言っては気候変動の対策を求めて外に繰り出している彼らですが、食べきらないからと食べ物を捨てている若者も多いですよね。私たちは、子どもたちや若い世代への啓発をきちんと行っていきたいと思っています。そして、子どもたちを通して親御さんにもメッセージを伝えていきたいのです。

子どもたちへの教育のために作ったこのレシピ集ですが、高品質な紙を使った素敵なデザインで作られています。これも無料です。どうやって実現したかというと、このレシピ集ではドイツ最大の清掃会社「BSR」がレシピの後半部分2ページを使ってゴミのゆくえやバイオガスについて図解しており、この2ページを作るためにBSRは資金を提供してくれたのです。

ベルリーナターフェルがつくるコミュニティ

Q.ドイツでは難民も受け入れ、多様性が広がっていますが、ベルリーナターフェルへの影響はありますか?

ドイツ人の価値観・食習慣は変わってきていることを感じます。そして食品の提供場所に来る人々もこの27年間で大きく変わってきた気がしています。特に貧しい市民たちは難民が好きではなく「難民が食べ物を奪っている」という意見の人が多いです。しかし食べ物は誰かのためだけのものではなく、全ての人のものです。何もない時は何もないのです。

当然私たちも難民の方たちに食品を提供しています。 難民であろうとなかろうと、ドイツ人であろうと非ドイツ人であろうと関係ありません。必要な人全員に渡しています。

代表ザビーネさん

Berliner Tafel e.V.代表サビーネさん

配布場所には子どもだけで来る場合もありますが、私たちも長年その地域で活動しているのでだいたい来る人の家族構成やコミュニティの雰囲気も分かっています。その場合は「ご家族はどうしたの?一緒に来なさい」と言っています。その家族が子どもに家庭の仕事を手伝わせすぎていないかは注視するようにしていますね。

Q.廃棄食品を売るスーパーSurplusなど、ベルリンでは食品ロス削減に向けた取り組みが始まっていますね。

教育の成果だと思います。Surplusのようなビジネスで食品ロスの分野で活動している会社もあれば、私のように他に仕事がありながら食品ロスに取り組んでいる人たちもいます。いろいろな軸で食品ロスに関わってくれる人がいることはとても嬉しいことです。

ヨーロッパのいくつかの国では「売らない食品は非営利組織に提供する」という法律があるようです。ドイツにはまだなく、こういった食品ロスに関する組織と一緒に前進できればと思っています。

Q.今後の展開として、どんなことを考えていらっしゃいますか?

「キンバボート」のさらなる推進です。今はバスと電車がありますが、中古のボートを改修してキッチンをつけようと思っています。このボートで子どもたちに食の大切さを伝えたり料理教室を開くのです。子どもたちが船長兼シェフになれるので、絶対子どもたちがこのボートを大好きになると確信しています。費用が掛かりすぎるのが難点ですが、実現させるのが楽しみです!

代表サビーネさん

Berliner Tafel e.V.代表サビーネさん

インタビュー後記

施設内は多くのボランティアに溢れ、活気があった。多くのフードバンクが資金繰りに苦しむ中、ベルリーナターフェルが「タダで食品を仕入れ、タダで提供する」という原則を貫いてきた秘訣は、ユニークなアイデアと、肝っ玉母さんのようなサビーネさんが多くの組織を金銭ではないソフトパワーで巻き込んできた27年間の経験則にあるのだろう。

それにしても、2,700人ものボランティアが関わり、週1回のペースで45拠点に食品を提供する。しかも30%以上がオーガニック食品であるというのは驚きだ。多様性あるベルリンの土地柄で、食品の提供を継続的にしてもらえることでどれだけの人が助けられているか、そしてベルリーナターフェルのコミュニティにどれだけの人が支えられているかと想いを馳せるだけでも心が温かくなる。

食品を扱うイベントや資金になりそうなチャンス逃さないこと、どのステークホルダーともいい気持ちでいられる関係を築くこと、そして継続し続けることが大切なのだと思う。

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