【欧州CE特集#30】サーキュラーエコノミーは、コミュニティにも恩恵をもたらす。LWARB「Circular London」に学ぶ、循環型都市への道のり

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世界を代表する国際金融都市であり、890万人もの人口を抱える欧州最大の都市、英国ロンドン。2050年には人口が1100万人を超えると予測されているロンドンでは、増加し続ける人口と消費に対応し、持続可能な都市づくりを実現するための戦略として、「サーキュラーエコノミー」の概念が採用されている。

そのロンドンのサーキュラーエコノミー政策の中心的な役割を担っているのが、LWARB(London Waste and Recycling Board)だ。LWARBはロンドンの廃棄物・資源管理を統括するGLA(Greater London Authority:大ロンドン庁)の法定機関で、「Resource London」、「Circular London」という2つのプログラムを展開している。

ロンドンのサーキュラーエコノミーへの取り組みは、今から5年前に遡る。LWARBはロンドン市長からの依頼を受けて2015年に「Towards a circular economy(サーキュラーエコノミーへ向かって)」を策定・公表し、ロンドンがサーキュラーエコノミーに取り組むべき背景やその機会について整理した。

同レポートの中で、サーキュラーエコノミーはロンドンに対して2036年までに毎年少なくとも70億ユーロの利益をもたらし、再利用や再製造、素材イノベーションの分野では新たに12,000の雇用を生み出し、ロンドンの失業率を2030年までに0.26%下げうるとの試算が示された。

そして、LWARBはこの報告書をベースとしながら2017年6月に、2036年までのロンドンのサーキュラーエコノミーへの移行の道筋を示した「Circular Economy Route Map」を公表した。このルートマップが現在のロンドンのサーキュラーエコノミー政策を支える礎となり、様々なプロジェクトが生まれている。

大都市ロンドンではサーキュラーエコノミーをどのように機会と捉え、都市全体として経済モデルの移行を進めているのだろうか。今回、IDEAS FOR GOOD編集部ではLWARBが展開するサーキュラーエコノミー推進プログラム「Circular London」の責任者を務めるJames Closeさんと、Circular Londonのコミュニティ・オフィスマネジャーを務めるNicola Bradleyさんのお二人にお話を伺った。

ロンドンのサーキュラーエコノミーを加速させる「Circular London」

Circular Londonは、その名の通り、幅広いステークホルダーと連携しながらロンドンのサーキュラーエコノミーを推進しているプログラムだ。同じくロンドンに拠点を置く Carbon Trust社と協働で、サーキュラーエコノミーに特化した6ヶ月間のスタートアップ支援プログラム「Circular London Accelerator」を開催したほか、LWARBとEuropean Regional Development Fund(欧州地域開発基金)との共同出資によりSMEs(中小企業)のサーキュラーエコノミーへの移行支援プログラム「Advance London」も展開している。Advance Londonではすでに140以上の中小企業を支援し、30社が同プログラムを通じてサーキュラー製品やサービスを生み出した。

ジェームズさんは、Circular London のゴールについてこう話す。

「私たちのゴールは、ロンドンを世界を牽引するゼロ炭素・循環型都市にすることです。そしてそのためには、消費ベースのCO2排出に目を向ける必要があります。都市における消費ベースのCO2排出量についてはC40が素晴らしいレポートをまとめており、我々も戦略を立案する際に活用しましたが、ロンドンでは1.1億トンもの消費ベースCO2排出量があり、私たちはライフスタイルを大きく変える必要があります。私たちの目的は、この問題に対処するためのエコシステムを創り上げることにあります。」

Circular London責任者、James Closeさん

Circular Londonは、ロンドン全体のサーキュラーシティへの移行に向けて、ロンドン市内の各自治区や中小企業、スタートアップ、大企業など様々な組織を支援している。

「私たちはロンドンの各自治区とも連携し、彼らのリサイクルや廃棄物管理、サーキュラーエコノミー計画やプログラム作りを支援しています。自治体の中には進んでいるところもああればそうでないところもあり、サーキュラーエコノミーに対して真のコミットメントをしている自治区はまだ少ないのが現状です。」

「また、私たちは世界最大のサーキュラーエコノミーインキュベーターでもあります。私たちの役割はサーキュラーエコノミーへと移行したい企業を金融資本と結びつけることにあり、私たち自身も資金の一部を捻出していますし、Greater London Investment FundやCircularity Capital Fundといったファンドにも資金を提供しています。」

金融都市ロンドンのイニシアチブらしく、Circular Londonではサーキュラーエコノミー事業を展開するスタートアップ企業や中小企業向けの資金援助プログラムが充実しているのが特徴だ。

事業のスタートアップ期からシード期、グロース期まで一連の支援体制が構築されており、2019年6月にはGLA(大ロンドン庁)との提携により サーキュラーエコノミーに特化したベンチャーキャピタル「Greater London Investment Fund」をローンチした。既に一定の売上を持ち、事業拡大に向けてシリーズA・Bラウンドの資金調達をしたい中小企業への投資を行っている。

また、LWARBはスコットランドのエジンバラに本拠を置くサーキュラーエコノミーに特化したプライベートエクイティファーム、Circularity Capitalが運営する Circularity European Growth Fund 1の最初の投資家の一人でもあり、グロース期の企業への投資資金も提供している。

さらに、LWARBではスタートアップや中小企業だけではなく、大企業とも連携しながらロンドンのサーキュラーエコノミーへの移行を加速させている。ジェームスさんによると、サーキュラーエコノミーへの先進的な取り組みとして知られるヒューレット・パッカードや、ロンドンの大手デベロッパーCanary Wharf Groupとも協働し、サーキュラーエコノミープロジェクトを支援しているそうだ。

移行への道筋となった「Circular Economy Route Map」

ロンドンのサーキュラーエコノミーへの取り組みを語るうえで欠かせないのが、LWARBが2017年6月に公表した「Circular Economy Route Map」だ。

約60ページにわたるこのルートマップには、2036年までのロンドンが循環型都市に移行するまでの道筋が示されており、ロンドンに関わるあらゆるステークホルダーに対してサーキュラーエコノミーへの移行に向けた具体的な行動が提案されている。

LWARBは、同ルートマップに先駆けて2015年に公表した「Towards a circular economy(サーキュラーエコノミーへ向かって)」の中で、「食品」「繊維」「プラスチック」「電子機器」「建造環境」の5つを注力セクターとして特定していた。

Circular Economy Route Mapではここからもう一歩踏み込んで、上記5セクターにおいて現実的にサーキュラーエコノミーへの移行を進めるうえで何をすべきなのか、「コミュニケーション」「コラボレーション」「政策」「調達・市場開発」「ファイナンス」「企業支援」「デモンストレーション」「イノベーション」という8つのテーマから、具体的な行動を整理してまとめている。

さらに、各テーマごとに「アクション」「リソース」「アウトプット」「アウトカム」「インパクト」までが特定されており、このマップを見れば自身の業界や自社が何に取り組めばよいのかが一目瞭然で分かるようになっている。

例えば、「食品」分野ではフードロスを減らすための「コミュニケーション」施策として「Love Food Hate Waste」というキャンペーンを設計・展開するという「アクション」を行った。それによって市民や学校に通う子供たちの間でフードロスを減らすことの経済・環境に対する理解が深まるという「アウトプット」が生まれ、結果として家庭や学校からのフードロスが減り、自治体のリサイクル目標が達成に近づくという「アウトカム」が実現した。そして最終的にCO2排出量の削減という「インパクト」がもたらされた。

注力セクターごとの課題や現状すでに実行されているプロジェクトを可視化し、そのうえで必要となるアクションベースの提案が非常に体系的かつ論理的にまとめられているため、サーキュラーエコノミーへの移行に向けたスタート地点に対する共通理解や、今後進むべき方向性を議論する際の土台として活用することができるのだ。

ジェームスさんも、このルートマップの策定は、ロンドンがサーキュラーエコノミーへの取り組みを進めるうえでとても役立ったと話す。

「ルートマップの存在は、私たちを本当に助けてくれました。ルートマップのおかげで、最も大きな変化を起こせる分野に私たちの意識を集中させることができたのです。特に都市にとっては、このようにサーキュラーエコノミーのマッピングをすることはとても重要だと思います。マッピングとは、よりより意思決定をするために必要となる質の高いデータを集めることを意味します。ルートマップは、私たちは今どこにいて、将来にどこに行きたいのかを考える手助けとなります。また、それにより優先順位をつけることができ、より早く、より効率的にゴールにたどり着くことができるようになります。」

都市がサーキュラーエコノミーへの移行を進めようと考えた際、まず最初にやるべきことは、現在地をしっかりと確認することだ。都市にどのようなインプットとアウトプットがあり、セクターごとにどのような課題があるのか、それらの課題に対して現状はどのような取り組みが行われているのか、これらをしっかりと明らかにし、移行に向けたスタート地点を特定することが重要なのだ。

LWARBのオフィスビル

サーキュラーエコノミーへの移行に必要なのは「システミック・チェンジ」

LWARBではロンドンのサーキュラーエコノミー移行戦略の核となるロードマップの策定から、各自治区の政策立案サポート、中小企業やスタートアップ企業へのファイナンスまで幅広い取り組みを手がけているが、サーキュラーエコノミーへの移行を実現するうえでは、どのようなアプローチがもっとも効果的だと考えているのだろうか?ジェームズさんは、こう語る。

「サーキュラーエコノミーを支えているのはシステムであり、私たちはシステム全体を変革することに注力しています。そのため、私たちはあらゆる施策をどのように関連付けていくかを常に考えています。政策は核となる資金流入や事業運営を加速させますし、市場ではサーキュラーエコノミー事業や循環型ソリューションへの需要も高まっており、投資家にとってこれらの事業はより魅力的に映るようになってきています。これら全てが一緒に機能するようなシステムを構築することが重要です。」

サーキュラーエコノミーへの移行は、特定の分野からのアプローチではなく、政策立案者、事業者、投資家らが同じ方向に向かって進めるようにシステム全体の視点から変革を試みることが重要だというのがジェームスさんの考えだ。

「サーキュラーエコノミーへの投資は重要ですし、サーキュラーエコノミー事業に対して税制優遇やインセンティブを提供することも大いに役立つでしょう。また、これらの化石燃料に対する補助金の廃止や化石燃料関連事業者への支援ともセットで提供される必要があります。気候変動とサーキュラーエコノミーを結びつけることも重要です。」

また、LWARBでは、システム全体の変化を起こすために、「ToC(セオリー・オブ・チェンジ)」という考え方を採り入れているそうだ。

「私たちは、世界の気温上昇を1.5℃以下に抑える必要があります。そのために私たちができることは、消費ベースのCO2排出量を減らすことであり、ロンドンでは2030年までに消費ベースのCO2排出量を少なくとも半減させることを目指しています。そのためには、私たちはロンドンの自治体から出る廃棄物も、商業廃棄物も同様に減らす必要があり、そのためにはロンドンの自治区や企業、市民らがそれを実行できる環境を整える必要があります。私たちのプログラムは、それを現実にするためのものなのです。これが私たちの基本的な『セオリー・オブ・チェンジ』です。」

実際に、LWARBが提供するプログラムの一部には人々の行動変容を促す「ナッジ」の概念が導入されており、どのようにすれば人々が従来とは異なった振る舞いをするかについて、行動経済学の知見が活用されているとのことだ。

サーキュラーエコノミーは労働市場をどう変える?

LWARBは、2015年に公表したレポート「Towards a circular economy(サーキュラーエコノミーへ向かって)」の中で、サーキュラーエコノミーは再利用や再製造、素材イノベーションの分野で新たに12,000の雇用をもたらし、ロンドンの失業率を2030年までに0.26%下げうるとの試算を示している。

ジェームスさんは、サーキュラーエコノミーが労働市場にもたらす影響についてどのように考えているのだろうか?

「サーキュラーエコノミーへの移行により、環境面だけではなく経済面にも大きな利益が生まれると考えています。リペア経済(Repairing Economy)における仕事は、調達経済(Procurement Economy)よりもより質の高い仕事となる可能性があります。人々は資源の使い方により意識的になり、質の高い労働に対してよりありがたみを感じるようになり、この変化は中小企業に対してもよい変化をもたらすでしょう。」

「また、サーキュラーエコノミーを促進し、人々の行動変容を起こすためには、デザインやマーケティング、プロモーションといった仕事もとても重要になります。そして、修理といった職人的スキルも同様にとても重要となります。衣服であれ電子機器であれ建築素材であれ、モノを捨てるのではなく修理できるハブをどのように創っていくかも大事なテーマです。雇用という面では本当にたくさんの機会が存在していると思います。」

サーキュラーエコノミーへの移行が進めば、新しい素材を調達して新製品をつくるという仕事ではなく、既存の製品を修理しながら長く使い続けるという仕事により光が当たるようになる。修理、回収、リサイクルといった静脈産業で世の中を支えてきた人々の価値がより高まり、それらの仕事に従事をしてきた中小企業に新たな機会が生まれれば、大きな社会的インパクトにつながるはずだ。

また、従来のリニア経済においては新商品開発や新規事業などとにかく「新しいもの」をつくる仕事に人気が集まりがちだが、サーキュラーエコノミーが浸透すれば、「どんな仕事がかっこいいか」という人々の価値観も大きく変わるかもしれない。

サーキュラーエコノミーはコミュニティにも恩恵をもたらす

ジェームスさんは、サーキュラーエコノミーがロンドンにもたらす恩恵についてもう一つ重要な指摘をしてくれた。それは、サーキュラーエコノミーへの移行はよりよい地域コミュニティの実現につながるという話だ。

「私の個人的な考えとなりますが、サーキュラーエコノミーは経済に多大な恩恵をもたらすだけではなく、人々がものをシェアし、これまでとは異なるやり方で利用するために相互に交わり合うことで、よりよい隣人関係やコミュニティの実現につながると信じています。私たちは、サーキュラーエコノミーが結果としてどのような恩恵をもたらすかについて説明できることが重要です。それがより人々を健康にし、より多くの雇用をもたらすとすれば、誰もが喜んで取り組むはずです。そして、サーキュラーエコノミーへの投資は大きな価値があるものだったとみんなが分かるようになるでしょう。」

サーキュラーエコノミーの実現には市民ひとりひとりの行動の変化が欠かせない。しかし、それは同じコミュニティで暮らす人々が、関係性を取り戻す絶好の機会でもある。モノを修理したり、共有したりなど、地域の中で生まれる新たなコミュニケーションの機会や関係性が、よりよいコミュニティづくりにつながるのだ。

サーキュラーエコノミーは「 Planet(環境)」や「 Profit(経済)」だけではなく 、私たち「People(人々)」の話でもある。そのことを認識することが、「なぜサーキュラーエコノミーへ移行すべきなのか?」という問いに対する一つの有力な答えとなる。

アイデアの宝庫。LWARBの「サーキュラーオフィス」

これまで説明してきたように、LWARBはロンドンのサーキュラーエコノミー戦略の中核を担う存在として機能しているが、決して戦略策定や事業者の支援だけに取り組んでいるわけではない。自らも組織として率先してサーキュラーエコノミーへの移行を体現するべくアクションを起こしており、LWARBのオフィスにはいたるところにサーキュラーデザインが採り入れられている。

取材の最後に、Circular Londonでコミュニティ・オフィスマネジャーを務めるNicola Bradley(ニッキー)さんにオフィスを案内していただいた。サーキュラーなオフィスデザインのアイデアをご紹介したい。

中央が、Circular LondonのNicola Bradleyさん

漁網ネットから作られたカーペット

オフィスの会議室に敷かれているカーペットは全てリサイクル繊維でできており、漁網ネットからつくられたカーペットもあるという。

ダンボールで作られたネームプレート

会議室のドアに取り付けられているプレートも、よく見るとダンボールでできている。とても手作り感のあるプレートだ。

ヨーグルト容器とブラックPETからできた壁

オフィスの壁にあるパーティションは、ヨーグルト容器とブラックPETからできているという。Smile Plasticsという会社がヨーグルトの空き容器とブラックPETを回収して細かく裁断し、それをつぶしてプラスチックボードにしているそうだ。この素材は耐久性にも優れているためオフィスのいたるところで使用されており、使用後は再び裁断することで、資源を循環させ続けることができるという。

チェコ・スロバキアから来た照明。電力は100%再エネ

オフィスに付けられている照明の中には、かつてのチェコスロバキアで改修された素材を活用して作られたものもある。また、キッチンにある一部の照明を除き、オフィス内にある照明はすべて元々オフィスに残されていたものをそのまま活用しているそうだ。なお、オフィスの電力も100%再生可能エネルギーで賄われている。

デザインと素材を別々に購入して作られた机

オフィスの中央部に置かれている机も、とてもユニークな形で作られている。机のデザインはOpendeskを通じてスウェーデンのデザイナーからオンラインで購入し、机自自体はロンドンで作られたそうだ。机のデザインと製造を切り分け、製造自体は地元の企業にしてもらうことで、スウェーデンからデザイン家具を輸送するよりコストも環境負荷も抑えているのだ。

なお、LWARBのオフィスに使用されている家具は全て中古のものか新たにアップサイクルして作られたもので、生地もリサイクル素材や循環型素材を含む繊維で作られているという。

歴史的建造物の廃材からできたフローリング

キッチンにあるフローリングは、もともとRoyal College of Surgeons の建物に使われていた板をオフィスに持ってきてフローリング材として活用したという。また、他のエリアにはCradle to Cradle認証を取得したフローリング材も使用されていた。

会議室の工事ででてきたガラスパネルを活用して作ったキッチン台

キッチン台のガラスは、会議室を一つ増やす工事をする際に、内壁を取り外すことで出てしまったガラスのパネルを再活用して作ったそうだ。オフィスの改装に伴い生まれる廃棄物を、そのままオフィスの別区画の改装に使うという発想がユニークだ。

テラサイクル社のリサイクルボックス

オフィスには、循環型ショッピングプラットフォーム「Loop」の仕組みで知られるテラサイクル社のリサイクルボックスも置かれている。ここに、オフィス文房具やイベント時に活用したマスクなど、地元ではリサイクルが難しいものを入れておくことで、リサイクルに送ることができるそうだ。

ミニサイズのプリンター

LWARBではペーパーレスも推進しているため、プリンターも非常に小さい。モノクロ・両面印刷を推奨しているという。

牛乳瓶の宅配

プラスチック使用の削減のため、オフィスにはオーガニックの牛乳瓶が宅配されており、瓶は50回まで再利用できるそうだ。食器などを洗う洗剤も化学物質を含まないエコクリーナーで、イベントやミーティング時にケータリングを行うときは、ベジタリアンポリシーに基づきベジタリアンフードを依頼するという。その他、来客者やスタッフにはオーガニックの紅茶やコーヒー、オートミルクが提供されているなど、環境負荷を下げるための試みがオフィス家具だけではなく雑貨や食品にいたるまで細かく実践されている。

ニッキーさんによると、通常ロンドンではオフィスを移転するときには家具も含めて中身を全て入れ替えるのが一般的だが、LWARBが2018年10月に現在のオフィスに移転してきたときは、できるかぎり残されていたものをそのまま活用したという。

また、自分たちがまたオフィスを離れるときは、すべての家具が埋め立て廃棄されることなく再活用したり返却したりできるよう、デザイン会社と連携しながら徹底的に調達とオフィス設計にこだわったたそうだ。その結果、ロンドンのサーキュラーエコノミーを主導するにふさわしい、ユニークなアイデア満載のサーキュラーオフィスができたのだ。

LWARBのオフィスで実践されていることの多くは、日本でも同様に取り組めるものだ。サーキュラーエコノミーへの移行を考えるならまずは自分たちのオフィスから、というのも大事な視点だろう。

取材後記

LWARBを訪問して強く感じたことは、ロンドンのサーキュラーエコノミーはとても論理的な戦略に基づいて実行されているという点だ。Circular Economy Route Mapをベースとしてもっとも課題も機会も大きい重点領域や、それぞれの領域における移行に向けた実行計画がしっかりと整理されており、異なるステークホルダーが同じ方向に向かって進むための道筋が示されている。

また、サーキュラーエコノミーは新たな雇用を生み出し、中小企業にも恩恵をもたらし、結果としてよりよい地域コミュニティの実現にもつながるというジェームスさんのお話も印象的だった。サーキュラーエコノミーとは文字通り「エコノミー(経済)」のありかたそのものの根本的なシフトであり、自然資源を循環させるといった環境政策の話だけにはとどまらない。

サーキュラーエコノミーへ移行すること、私たちの生活がどのように持続可能で豊かなものへと変わるのか。そのイメージを関係者の間でしっかりと共有しながら戦略と計画を作っていくことが重要だと感じる取材だった。

【参照サイト】LWARB
【参照サイト】Circular London
【参照サイト】Advance London
【参照記事】Circular Economy Route Map

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