鉄道もクラウドファンディングで作る時代。ドイツに誕生したエコ電車「Locomore」

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12月14日の朝、新しい鉄道の未来を切り拓く可能性を秘めたオレンジ色の電車が、ドイツ南西部の都市、シュツットガルトを出発した。北東部にあるドイツ最大の都市、ベルリンまでの400マイル(約640km)を結ぶこの鉄道は、世界で初めてクラウドファンディングの助けを借りて作られた長距離鉄道「Locomore」だ。

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Locomoreは、ドイツ最大の鉄道会社、旧国鉄のドイチェ・バーン(以下、DB)による寡占状態を壊すべく、2007年にDerek Ladewig氏らによって創業された新興企業だ。2012年にはアメリカのRailroad Development Corporation(RDC)とのジョイントベンチャーによりハンブルグ・ケルン間を結ぶハンブルグ・ケルン・エクスプレス(通称HKX)を開通して話題を呼んだが、その後、Derek氏はRDCとの戦略的な方向性の相違を理由に同僚ら数名と共にHKXを離れた。

しかし、同氏らはその後もDBの寡占状態を壊すという志を変えず、ドイツのクラウドファンディングサイト「Startnext」を活用して25万ユーロ以上を調達し、今回再び独自の鉄道のオープンにこぎつけた。

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このLocomore、従来の電車の常識を塗り替える非常にユニークな特徴を数多く兼ね備えている。まず一番に人々を惹きつけるのは、その価格の安さだ。ドイツでは90年代の民営化の過程で電車を走らせる鉄道運営会社と線路を保有する鉄道インフラ会社が分離され、その結果として新興企業の鉄道市場への新規参入が可能となったものの、現状では依然としてDBの寡占状態にあり、競争の少なさゆえに運賃も高い状況が続いていた。

Locomoreは、この状態に風穴を開ける。同社の運賃はDBの半分から3分の1以下の価格に設定されており、区間によって7ユーロ、13ユーロ、22ユーロとなっている。チケットの予約はインターネットやスマートフォンで簡単にでき、車内でも購入可能だ。

しかし、Locomoreの魅力は安さだけではなく、その車内の作りやサービスにある。Wi-Fiや電源コンセント、テーブルなどを完備したLocomoreの車内には、通常の電車のように静かに座って過ごせるだけではなく、同じ車内に乗り合わせた人々と交流ができるソーシャルゾーンが用意されている。このゾーンは様々なテーマに分かれており、スポーツ、コミック、英語、写真など同じ関心を持つ人々が集まって座れるようになっているほか、ボードゲームなどもある。また、子供も大人も快適に過ごせるようにファミリー向けのゾーンや、仕事やミーティングなどもできるビジネスマン向けプライベートスペースもあるという。

シュツットガルトからベルリンまではDBよりも1時間ほど長くかかるものの、その時間を乗客がそれぞれのライフスタイルに合わせて思い思いに楽しみながら充実して過ごせるよう、さながら電車を丸ごとコミュニティスペースにしたかのような設計がされているのだ。

そして、Locomoreの凄さはこれらの乗客の立場から見た魅力だけにとどまらない。このオレンジ色の鉄道はグリーンエネルギー会社のNaturstrom AGの電力を使用しており、100%再生可能エネルギーで走行する環境にも配慮された電車なのだ。車内で提供される食事やドリンクも地元でとれたオーガニックでサステナブルな素材を利用しているという。

電車は、あらゆる交通手段の中でももっともエコな選択肢だ。しかし、ドイツの鉄道市場の寡占がもたらす運賃の高さが人々の足を高速鉄道から遠のかせ、より環境負荷の高い長距離バスや自家用車の利用に向かわせていた。

Locomoreは、運賃を大幅に下げることで人々に電車というエコな移動手段をもう一度活用するインセンティブを生み出すだけではなく、車両自体も再生可能エネルギーを利用して走らせることでさらなる環境への配慮を実現し、より持続可能なライフスタイルを求める消費者の心を掴んでいる。

「価格は安いのにサービスは充実しており、環境にもよい」3拍子揃ったLocomoreが今後も運営を続け、さらに運行本数や距離を増やすために必要なのは、利用者の確保と、Locomoreの存続、拡大を願う人々からのサポートだ。

現状は1日1本しか走っていないものの、同社は今後本数も増やし、2017~2018年にかけて南はミュンヘン、北はビンツ、西はケルンまで運行拡大を計画している。

同社は今年の12月から、クラウドファンディング以外にも最低価格1,500ユーロからの劣後ローンの募集も開始しており、Locomoreを利用したい人々に対して投資機会を提供し始めている。

鉄道というインフラが地域の人々からのクラウドファンディングによって作られ、より低価格で快適かつ環境にも優しい交通手段としてそれを支援した人々や地域社会に還元されていく。Locomoreが描くのは、そこに暮らす人々を中心に作られた、新しい鉄道の未来だ。

【参照サイト】Locomore
【参照記事】Germany’s New Crowdfunded Train Sounds Almost Too Good To Be True