日本では、誰もが銀行口座を持っていて当然だと思っている。しかし、国が変わると事情は全く異なる。先進国にとって銀行は水道や電気と同様に日常に当たり前に存在するインフラの一つだが、多くの開発途上国では依然として銀行を初めとする金融サービスへのアクセスが限られているのだ。金融サービスへのアクセスは経済的自立の第一歩でもあるだけに、途上国の貧困や格差を語るうえでこの問題は外せない。
アフリカ第一の経済大国ながら、社会構造の機能不全などの理由から貧富の差が激しいナイジェリアもそんな課題を抱える国の一つだ。ナイジェリアでは、銀行とは支配階級や定職についている者が高額取引を行い、警備にはライフル銃を重装備した多数の警備員が警戒するものものしい場所だ。平和ボケした日本人からみたら、戦争状態だと錯覚を起こすくらいの迫力がある。
しかし、そんなイメージをがらりと変える画期的なサービスを、Wema Bankがこのほど開始した。同行が開始した「Wema Bank on Wheels」というサービスは、その名の通り、2つのATMが備わった車で移動し、遠隔地域にいる人々に対して銀行サービスを提供するというものだ。アフリカ最大の推定1億9千万人の人口が暮らす同国では、未だインフラが整わない不便な地域で暮らす市民にとってこのサービスは非常に魅力的だ。
この移動支店のスケジュールは電話で確認可能で、自分の街に来るときにあわせて行くことができる。インターネットバンキングやモバイルバンキングを当然のように使う時代だが、毎日のように停電があり、携帯の電波も悪く、そもそも「信用」というものが通用しないナイジェリアでは、眼前で取引が行われないと不安という者も多いが、そういったニーズにしっかり対応できる。
そして、このサービスをさらに魅力的にしているのは、銀行がただ車で移動するというだけではなく、車両の走行に使う動力に車のルーフに備え付けられたソーラーパネルで得られた太陽光エネルギーが使われているという点だ。産油国でもあり、日本のようにどうしても新しいエネルギーが必要な状況でもないナイジェリアでは、環境に対する意識はそれほど高くない。
街のいたるところに散乱したごみは掃き集められ、不分別のままその場で着火される。道路は一瞬だけ片付くが、明らかに有害な煙でまともに息ができず、1日もしないうちに風に乗ってまたゴミがたまる。この繰り返しに見慣れていると、同行のサービスがどれだけ画期的だか理解できる。
もともとナイジェリアは露天商や路上で物を売る行為が多く、消費者も特に疑うこともなく水やスナック菓子を買う。つまり、この移動支店は路上というナイジェリアの商習慣にもあっていると言える。おまけに従来の支店を設立するより設備投資が少ないため、消費者と銀行の双方にメリットが大きい。
最近、盛んに言われる「ファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)」という言葉がある。これは、金融サービスへのアクセスができなかった人々も金融の恩恵を受けることが出来るようにすることで経済的自立を促す概念だ。
Wema Bankのこの取り組みは、既存の銀行システムにはじかれた人々にも開かれ、環境と貧困という、地球と人類が直面する2つの大きな問題に真っ直ぐに向かい合った、純な心意気を感じる。この調子で同国が抱える様々な課題を克服することを期待したい。
【参照サイト】Wema Bank launches solar-powered mobile branch
【参照サイト】Wema Bank Goes on Wheels