仕事への価値観や働き方が大きく変わった、激動の時代。あらゆる業界にクリエイティブな人材が求められ、新世代のイノベーションには「デザイン思考」が重要だと言われている。
デザイン思考は顧客のニーズを観察したうえで仮説を立て、プロトタイプを作成し、実際にユーザーテストを行いながら新たな製品やサービスを作り出すデザイナー的な思考のことで、ビジネスにおいては課題解決に役立つと言われている。しかし、このようなプロセスをしっかりと理解し、実際にビジネスで使えるようにするにはどうしたらいいのだろうか。
アメリカ・カリフォルニア州では、企業向けソフトウェアを開発するオラクル社が「高等教育」という形でそれを実現した。2018年1月に、4,300万米ドルを投じて敷地内に公立高校「Design Tech High School(通称d.tech)」を立ち上げたのだ。その学校のカリキュラムの中心にあるのは、校名にある通りデザイン思考である。
この学校の特徴は、その設備や制度すべてにデザイン思考を身に付けるという目的が浸透しているところだ。たとえば万力やミシン、レーザーカッターなどの設備や、実際にモノを作って実験するための「Design Realization Garage(デザイン具体化ガレージ)」と呼ばれるスペース、さらにはデジタルな制作活動のためのコンピュータはもちろん、3Dプリンター等の最新の電子機器も用意されている。そして、校内のインテリアは教師や生徒が目的に合わせて配置し直せるようになっている。
授業を担当するスタッフは、生徒がIoTソリューション、3Dデザインなどのプロトタイプ設計やテストなどを十分に行えるように、包括的なサポートをするようだ。学校での学びと創作活動を通して、デザイン思考を自分のなかに構築していくのである。
制度面において特筆するべきは、年に4回あるインターセッションという期間である。オラクル教育財団並びにOracle Giving/Oracle Volunteersプログラムの重役であるコーリーン・キャシティ氏の言葉を借りると、これは「生徒が自分の好奇心や情熱を傾ける対象を見つけるために、一般的な勉強をしない期間」だ。
2週間のインターセッション期間中、生徒たちは企業や非営利団体などで幅広いテーマについて探究する。企業の特性によってテクノロジー、金融リテラシー、場合によっては料理など、さまざまなことを学ぶことができるのだ。
デザイン思考をしっかりと学ぶには、机上の知識だけではなく実践が必要である。ならば、実践を積極的に取り入れようという単純にして明快な理由からこのような制度を採用しているようだ。
これからの時代に求められているものは革新的な人材であり、その根底にはデザイン思考がある。それに気づいた企業がデザイン思考教育を施すための大規模な投資を行い学校を設立する。ここにアメリカの柔軟性、瞬発力、そして本質的な強さを見るのは私だけではないだろう。
【参照サイト】Innovative Design Tech High School Opens Its Home on Oracle Campus