パキスタンでは2,300万人の子どもが学校に行かない。女性の多くは18歳になる前に結婚し、就労や自宅から学校が遠いなどの理由で就学の機会を失うケースがよくある。また、女性を家庭やコミュニティの外に出したがらない文化的風土も存在する。UNESCOによると15歳以上の成人識字率は56%、そのうち女性の識字率は44%に留まるという。
教育におけるジェンダー格差には様々な理由があるが、パキスタン最大の都市Karachiにある女子校SMB Fatima Jinnah Government Girls Schoolは、この国の文化的風土を変える方法としてチェスを取り入れている。同校の女の子たちは国を代表する世界的チェスプレーヤーShahzad Mirzaのトレーニングを受け、他校の男子生徒をも圧倒する力を身につけている。
女の子たちが机に向かい、BVS Boys High Schoolの男子生徒とチェストーナメントを繰り広げる。そこでは、男は好戦的で外に出かけ、女はひかえめに家で待つ、といった昔ながらのコンセンサスが見事にくつがえされている。女の子は決して受け身ではない。戦いを挑み、勝利をつかむ。そして敗北した男はこう呟くのだ。「相変わらず手ごわい相手だよ」
「男の子たちに勝ったときに見せる、彼女たちの恍惚とした姿といったら」とコーチを務めるHira Sher Mohammadは語る。「継続的な勝利こそが状況を変えるのです。女の子たちが自信を持つようになり、ご両親の考え方も変わってきます。チェスをしに学校の外に出るときでも、ご両親は気前よく許可してくれます。」自信をつけた女の子たちの中には、海外で行われるサマーキャンプに参加する予定の子もいる。
同校はもともと特権的な教育環境にあるわけではない。BVS Boys High Schoolのような一流の私立校でもなく、シンド州という同国の中でも最も貧しい地域のひとつに学校は位置する。ただ、Zindagi Trustというチャリティから支援を受けたり、チェスを熱心に指導する校風があったりと、環境を整備し女子生徒たちに前を向いてもらおうと取り組むひたむきさがある。
白黒はっきりつく勝負事の世界は、上昇志向を育みやすい。2016年に公開されたディズニー映画Queen of Katweは、ウガンダのスラム街Katweで育った少女がチェスの国際大会までのぼり詰める実話をもとに作られたサクセスストーリーだ。Queens of Karachiも後に続くのだろうか。女王たちの眼差しは鋭い。
【参照サイト】Chess victories win Pakistan’s ‘Queens of Karachi’ confidence and freedom
【参照サイト】Pakistan
【参照サイト】JICA が取り組むジェンダー平等と女性のエンパワーメント
(※画像:Chess victories win Pakistan’s ‘Queens of Karachi’ confidence and freedomより引用)