オーストラリアは英語を公用語とする移民の国として知られているが、実は5万年から12万年ほど前からすでに「アボリジニ」と呼ばれる人々が住んでいた場所でもある。しかし、西洋からの入植前には100万人前後いた先住民は、20世紀初頭には7万人にまで激減してしまった。入植者の持ち込んだ疫病や、流刑島にされた囚人がスポーツとしてアボリジニ狩りをしたことなどにより、タスマニア島では島民が全滅した。
現在、絶滅が危惧される人々といわれ、多様な言語や文化の保存の努力が進められている。アボリジニが市民権を得たのは、アフリカで独立の動きが盛んだった時期と重なる1967年だ。しかし、非先住民の平均寿命とは20年も差があり、依然として社会的、経済的格差が懸念されている。2008年には、オーストラリア政府のラッド元首相がアボリジニに対する過去の差別的政策について初めて公式に謝罪し、今後の動向が注目されている。
そんな中、ビクトリア州では、先住民との初の条約締結に向けて新たなキャンペーンが行われている。「Deadly Questions(致命的な質問)」と題したプラットフォーム上で、人々が匿名でアボリジニコミュニティのメンバーに質問できるものだ。先住民と非先住民の間のオープンな会話を促進することを目的としている。
このキャンペーンは、多くのビクトリア州住民がアボリジニの遺産や先住民の問題について馴染みがないと感じていることを明らかにした研究の結果だ。多くの人が、「失礼に当たらないか」「無知と思われる」などの配慮から話題に挙げることを恐れているという。
プラットフォーム上では、すでに「アボリジニで良かったなと思うことは?」「アボリジニの人々も徴兵には行く?」などの質問が投げかけられており、ミュージシャンのAdam Briggs、 elders Aunty Pam Pederson、 Aunty Joy Murphy、Uncle Kevin Coombs OAMなど注目度の高いアボリジニの人物が質問に答えている。テレビや広告、ソーシャルメディア等でもキャンペーンを展開しているようだ。
ビクトリア州のアボリジニコミュニティのエグゼクティブディレクターであるジョッシュ・スミス氏は、「私たち、そしてアボリジニ系のビクトリア住民にとって、このキャンペーンは希望を意味します。変化や人々の認識に対する希望です。そして何より州として、そして団結した国として前進するという希望です。アボリジニ文化を深く理解するこういった取り組みは今までありませんでした。今は、ビクトリア住民と対話できることが楽しみです。」と語った。
現在を生きる私たちには、過去に起こった歴史は変えられないが、その史実をしっかりと見つめて、人々が互いの理解を深め、よりよい未来をつくっていくことはできる。タブー視されてきた話題にあえて切り込み対話を促すビクトリア州の人々の姿勢は、敬意に値する。
【参照サイト】Deadly Question
(※画像提供:Shutterstock.com)