2018年10月23日、スペインのデザイン集団「luzinterruptus」によって米ミシガン州アナーバーの主要なストリートが1万1,000冊の本で埋め尽くされた。
このプロジェクトの名前は「Literature vs Traffic」。交通量が多く公害や騒音のある通りを一時的に本で埋め尽くすことによって、歩行者にやさしい空間の重要性を伝えることが目的だ。
夜になると、本からはぼんやりとした柔らかい光が放たれた。いつもは騒がしく自動車が主役だった通りは、人々のための静かな場へと変わる。風が吹くたびに本のページがめくれ、本に埋め込まれたライトが波のようにうねる、そんな幻想的な光景も見られたという。訪れた人々は本の川のなかへと入り、ゆっくりと読書を楽しんだり、気に入った本を自由に持ち帰ったりした。
真夜中になるまでには1万1,000冊もの本はすべて新たな読み手と出会い、ストリートも元通りの姿を取り戻した。
Literature vs Trafficは、以前もトロント・メルボルン・マドリード・ニューヨークなど世界各地で展示されたことのあるアート作品だ。今回、ミシガン州アナーバーでこのプロジェクトが行われたきっかけは、ミシガン大学の学芸員であるアマンダ氏がluzinterruptusに作品展示の話をもちかけたことにある。
同氏が働く街アナーバーは、“本を愛するまち”と評判だった。その一方、ミシガン州にはアメリカの自動車産業発祥の地であるデトロイトがある。かつて財政破綻も経験したデトロイトは、公共交通機関が不足しており、広大な土地に住む住民たちは余儀なく車を使う生活をしている。ミシガン州はアートを通して、歩行者に優しい空間の重要性を発信するのにふさわしい場所と判断されたのだ。
今回の作品に使用される1万1,000冊の書籍を集めることは大きな課題だったが、ミシガン大学が地元の本屋や人々に寄付を募り、さらに作品を展示するStateStreetとLibertyStreetの交差点を24時間閉鎖するのに力を貸した。また、90人のボランティアチームが10日かけて夜に光るライトを本のページに取り付けたそうだ。
Literature vs Trafficは、道は公共の場であるにも関わらず、車を利用する人々のみが恩恵を受け、歩く人々にとっての安全さや快適さがときどき忘れられていることに気づかせてくれる。
「普段は意識もしないような課題を明らかにする」創作活動を行うluzinterruptusは、この活動を通じて騒音や大気汚染などの問題を抱える公共スペースを人々の手に返すことを望んでいる。当たり前に起こっていることを疑い、社会へ疑問を投げかける行為をアートとして昇華させたことで、結果的に多くの人々に感銘を与えた取り組みだ。
【参照サイト】luzinterruptus