コーヒーは今や人々の生活に深く根付き、欠かせない飲み物の1つだ。そのわたしたちの愛するコーヒーが、気候変動により危機に瀕している。気温の上昇や、干ばつ、害虫の増加などにより、コーヒー豆の生育に適した場所が徐々に減少してきているのだ。国際熱帯農業センターの推定によると、現在コーヒー豆の栽培が行われている土地の約半数で、30年後はもはや栽培ができなくなるという。
米シアトルのスタートアップAtomo(アトモ)が、リバースエンジニアリングを用いた斬新な方法でこの問題に挑戦している。リバースエンジニアリングとは、すでに完成されている製品を分解、解析することによりその製品の構造を明らかにすること。Atomoは、コーヒー豆から作られた本物のコーヒーの成分を解析し、分子レベルでコーヒーの味を再現した豆なしコーヒー「Atomo Molecular Coffee」を開発した。
AtomoのCEOのアンディ・クライシュ氏は食品科学者のジャレット・ストップフォース氏と共にこのプロジェクトを創設した。彼らはまず、コーヒーに含まれる化合物についての研究を調査。その結果、コーヒーには1,000以上の化合物が含まれ、そのうち40がコーヒーの味を決めるのに重要な役割を果たしていること、そしてそれらの化合物は他の植物由来の原料にも含まれていることがわかった。
味だけでなく、コーヒーの口当たりや色を再現するための成分も研究した。苦味のもとである酸を取り除くことにより、クリームや砂糖を加えなくても美味しく飲めるコーヒーを実現したという。
さらに、はじめは淹れられた液体のコーヒーの再現を目指していた彼らだが、続いて焙煎コーヒー粉の製造にも着手。本物のような質感を作りあげるため、メロンの種や、ヒマワリの種のカラなどさまざまな原料で実験を重ね、ついに、見た目も味も本物そっくり、実際にドリップマシンを使って淹れることのできる焙煎コーヒー粉を、コーヒー豆を使わずに完成させたのだ。
ワシントン大学で行われたスターバックスとAtomoとの比較試飲調査では、なんと70%の学生がAtomoの方が美味しいと答えたといい、味には期待ができそうである。現在Atomoは商品化の前の最終段階として、製造法を完成させることに注力している。クラウドファンディングプラットフォームKickstarterでも注目を集めた。
「わたしたちは森林を破壊し、殺虫剤で環境を汚染し、労働者を奴隷のように働かせています。たかがコーヒーのためにです。もっと良い方法があるはずなのです。」とクライシュ氏は述べる。新たに開発されたコーヒーには農薬も森林伐採も必要ない。この技術を用いれば、コーヒーはもちろん、人々の食料生産が根本から変わるかもしれない。Atomoの今後に期待したい。
【参照サイト】Atomo: We hacked the coffee bean – invented molecular coffee