【SB2019Tokyoレポ#7】SB創業者コーアン・スカジニア氏インタビュー「グッドライフの実現を主導するのは企業」

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2019年3月6日、7日の2日間にわたりヒルトン東京お台場で開催された、「サステナブル・ブランド国際会議2019東京」。2006年にアメリカでスタートしたこのサステナビリティに関する世界最大級のカンファレンスは2017年に日本にも上陸し、今年で3度目の開催となった。

世界12カ国、13都市へと開催場所を広げ、来場者数が世界全体で1.3万人を超える規模となるなど、いまやビジネスを通じてサステナブルな社会の実現を目指す人々のグローバル・コミュニティへと成長したSustainable Brands。この国際会議を主宰しているのが、Sustainable Life Media社の創業者、コーアン・スカジニア氏だ。

今回、IDEAS FOR GOOD編集部では、コーアン氏にSustainable Brandsの成り立ちや今年の会議のテーマとなった「Redesigning Good Life(グッドライフの再構築)」、そして最近日本でも注目を浴びつつある「パーパス」、今回の会議で感じた日本企業の課題についてなど、幅広くお話を伺ってきた。今回は、その中から特に印象に残った内容をご紹介したい。

Sustainable Brands のパーパスとは?

Q:なぜ、どのようにSustainable Brandsは始まったのか?

それはとても大きな質問ですね。私が2004年に会社(Sustainable Life Media社)を創業したとき、今のような仕事に対する市場はまだ存在していませんでした。しかし私は、将来は環境や社会にとってよいものを提供する企業こそが勝つようになるという仮説を持っており、ニーズも感じていましたし、問題を解決するためのアプローチについても明確なアイデアがありました。そしてこの議論を始めるべく、最初はとても遠い場所に行きました。初めてカンファレンスを開催したのはニュー・オーリンズ(米国ルイジアナ州)でした。

最初の会議には220名が参加し、彼らは全米中からやってきていました。ちょうどニュー・オーリンズはハリケーン・カトリーナによる壊滅的な洪水に見舞われた後であり、彼らはそこに来たという選択をしたことで、自らのパーパスの誠実さを示しました。私たちは3日間をその場所で過ごし、誰も家にもオフィスにも戻らず、強いリレーションシップが生まれ、コミュニティが生まれました。

Q:2006年からの13年でSustainable Brandsを取り巻く環境はどのように変わりましたか?

とても大きく変わりましたね。私が会社を始めたころは、社会において企業は敵であり、世界を救うのはNGOや政府だとみなされていました。実際に企業側も問題のすべてを理解しているわけではなく、ほとんどは単にリスク低減の観点から環境・社会課題に取り組んでいるだけで、戦略的なアジェンダではなかったのです。しかし、私は企業も考えを変える必要があり、もしも環境・社会の課題解決に向けたイノベーションに取り組まなければ、大きな機会を逃すことになると考えていました。

そこで、最初はCSRやサステナビリティに関わる人々を集め、なぜ環境や社会の課題を企業の戦略ドライバーに据える必要があるのか、具体的にどのようにすればよいのかを理解してもらう手助けをするところから始めました。Sustainable Brandsのビジョンは、サステナビリティやCSR、ブランド戦略、マーケティング、イノベーションなどに携わる企業のリーダーたちを同じ場所に集め、どのような機会があるのかについての共通言語と共通の視点を創り出すことにあったのです。この13年間で私たちは大きな進歩を見ることができ、それはとても素晴らしいことだと感じています。私が今までしてきたことの中でも最も大変なことでした。

コーアン・スカジニア氏

消費者の変化を待つのではなく、企業が主導する。

Q:今年のサステナブル・ブランド国際会議2019東京のテーマは「Redesigning the Good Life」でしたが、その意図は?

私たちは3ヶ年のテーマを設定しています。昨年はGood Life(グッドライフ)を「Redefining(再定義)」する、今年は「Redesigning(再設計)」。そして来年は「Delivering(提供)」となる予定です。今年の6月に米国デトロイトで開催する会議のテーマも「Delivering the Good Life」となる予定です。

消費者は「Good Life(よい暮らし)」とはどんなものなのかについて、これまで語られてきたストーリーが変化しつつあることを実感し始めており、自身の生活習慣を変えるための助けを求めているように感じます。消費者は自身の振る舞いや買い物の仕方、暮らし方を変えたいのですが、これまでのやり方が染みついてしまっており、どのように変わればよいかが分からないのです。同じことは企業にも言えます。企業の人々に彼らは消費者がよりよい暮らしを送るための手助けをできているかと聞くと「ノー」という答えが返ってくるのですが、それでは何をすべきかと尋ねてみると「分からない」と言うのです。

当日の会議の様子

これが現在私たちの陥っている苦境です。問題は、自分自身が毎日のように直面している課題全体の複雑さについて、全てを理解できるほどには、消費者がまだ洗練されていないということです。彼らは恐れており、困惑しており、助けを求めています。

だからこそ、私たちが「Redesigning」「Delivering」に関する議論の中で言っていることは、消費の文化をリデザインし、ビジネスをリデザインし、将来のグッドライフ実現に向けて消費者とブランドとのコレクティブな関係性を創るうえでリーダーシップをとるべきなのは、企業だということです。これらがグッドライフに関するテーマの根底にある私たちの基本的な考え方です。

Q:消費者が変わるのを待つのではなく、企業こそがリデザインを先導するべきだと。

その通りです。いまはとてもエキサイティングなタイミングだと思います。消費者はすでに(変わる)準備はできているわけですから。消費者が「したい」ということと、実際に「している」こととの間にはギャップがあります。しかし、そのギャップは単純に彼らがどのようにするべきかを分からないから生まれているだけであって、彼らは企業の助けを求めているのです。そして、これは心から消費者のグッドライフとよりよい未来を実現することを望んでいる革新的で創造的な企業にとっては、大きな機会が生まれているということでもあります。

当日の会議の様子。参加者同士の交流も盛んに行われた。

Brands for Good。サステナブルライフ=グッドライフに。

Q:消費者の視点からみたときに、サステナビリティが「やるべきこと」ではなく「やりたいこと」に代わることも重要ですよね。

そうですね。それが、私たちが新たに始める「Brands for Good」イニシアチブのコアにある部分でもあります。Brand for Goodでは、まずフェーズ1として、人々の自宅に入り込み、彼らがどのように暮らしているのかを観察し、なぜそこにある商品を購入しているのかを学ぶ、詳細なエスノグラフィックリサーチ(※1)を実施しています。そのうえで、消費者が購買行動やライフスタイル選択においてどのような潜在的ニーズを持っているのかについてのインサイトを創り上げます。

そして、私たちはマーケター向けに、彼らが消費者とより深く、有意義な会話をできるようになるためのツールキットを創ります。さらにそのツールキットを用いて「ライフスタイル・トランスフォーメーション・マップ」を作ります。これは企業のブランド・トランスフォーメーション・マップの対になるもので、サステナブルなライフスタイルのコアとなる5つの特徴、そしてそのライフスタイルを実現するためのシンプルな行動方法について、消費者がより簡単に理解できるようにするためのものです。これによって、ブランドは自社の製品と関連づけながら消費者のライフスタイル・トランスフォーメーションを支援することができるようになります。このBrands for Goodについては来年にはより多くのことが話せるようになっているはずです。

※1 ユーザー観察手法のひとつ。観察対象のコミュニティに入り込み、行動様式を観察・記録することで、対象ユーザー自身も気づいていない潜在ニーズを掘り起こすことができる。

Q:Brands for Goodは企業だけではなく消費者のためのものでもあるのですね。

これは消費者がよりサステナブルなライフスタイルを送れるように企業に向けて用意するものですが、消費者もソリューションの一部であることは企業も認識しており、両者のパートナーシップでもあります。ただ、私の考えとしては、企業はリソースもナレッジも教育に向けたツールも、サステナブルなライフスタイルから消費者の願望を創り出すためのツールも持っているので、彼らに「サステナブルな暮らし」を「未来のグッドライフ」にするための手伝いをしてほしいと考えています。個人にとって、家族にとって、コミュニティにとって、そして地球にとっても、よいライフスタイルをどのように実現するか、それがBrands for Goodなのです。

Brand for Good イニシアチブについて話すコーアン氏

「パーパス・ラッシュ」という新たな懸念

Q:今年の会議では、「パーパス」も一つのキーワードになっていました。

今もっとも心配しているのは、アメリカの産業界で「パーパス」に対する一種の新たなラッシュが起こっているということです。2007年にもグリーンビジネスに対する大きなラッシュが生まれ、多くの企業が「グリーンな会社を創ること」の本当の意味を理解しないまま、単にそれがファッショナブルで流行っているからという理由でその流れに飛び乗りました。結果として、彼らは「グリーンウォッシング(※2)」だとして多くの反発を受けることになりました。これらの企業の多くは「自分たちが分かっていない」ということを分かっていなかったのです。

また、私は「グリーンウォッシュ」への反動として「グリーンハッシュ」(よい取り組みをしていながら、それについて沈黙すること)が起こり、結果として善い行いから本来得られたはずの価値を手にすることができず、さらに善いことを行うための再投資に必要な資金を手に入れられなくなることも懸念しています。だからこそ、正しく線引きすることが重要なのです。

いままさに「パーパス」に対して同様のラッシュが起こりつつあるのですが、これにはいくつかの理由があります。いまの若者はマーケティングを高潔なキャリアだと考えておらず、マーケティングの仕事に就きたがりません。また、多くのグローバルブランドは成長に苦戦しており、より優れたパーパスを掲げる企業によって市場が塗り替えられていることを実感しています。だからこそ、彼らがパーパスに目を向けるべき市場要因が生まれているのです。

結果として、どのようにすれば真の意味でパーパスのあるブランドを創れるのかを理解しないまま、この流れに乗ってお金を稼ごうとする新たなラッシュが生まれる懸念が出てきています。私たちは、自ら掲げるパーパスに対して真摯であるべきです。

※2 うわべを取り繕うという意味の「ホワイトウォッシング」と環境に配慮していることを意味する「グリーン」を掛け合わせた造語。企業や商品が実体に反して環境に配慮しているように見せかけようとする行為・手法を指す。

当日の会議でも、「パーパス」の重要性はいたるところで話題に上がった。

Q:パーパスが一種のマーケティングキャンペーンとして扱われてしまうリスクもあると?

そうです。私は特にサービスプロバイダーやエージェンシーの動きについて懸念しています。クリエイティブ業界は私たちが直面している環境や社会課題に対して専門的な知識を持っているわけではありません。彼らは自分たちの役割はより多くの製品を売ることだと教えられてきました。だからこそ、クリエイティブ・コミュニケーションの業界はしっかりと教育を受ける必要がありますし、ソーシャル・インフルエンサーも同様です。

その意味で課題は多くありますが、一方で、最近では正しい考えを持った素晴らしい人々も増えつつあります。社会システム全体の状況を理解し、より俯瞰した視点から考えようとする人々の割合は、10年前と比較してはるかに増えていると感じます。これはとても重要なことです。なぜなら、これはシステム全体をリデザインするという挑戦だからです。私たちはグローバルの経済パラダイムを変えようとしており、そのためにはシステム全体に関わる必要があるのです。

Image via Shutterstock

Q:企業と同様、個人にとってもパーパスは重要です。個人はどのようにパーパスを見つければよいでしょうか?

そうですね。じっと座り、瞑想する。外に出て、空を眺め、芝生の上に横たわり、木々を見つめましょう。現代の世界を生きる私たちが抱える最大のリスクは、テクノロジーによる情報の洪水であり、それが中毒性のある社会を創っています。そして、それはただじっと座り、静かにしていることをより難しくしているのです。私は子供のころ、多くの時間を芝生の上で遊び、木々を眺めて静かにいろいろと物思いに耽りながら過ごしました。最近になって、それが今の私にとってどれだけ貴重な宝物だったかが分かります。

これから、世界全体はよりパーパスに基づいた未来へと移行していくと思います。だからこそ、あなたはありのままの自分以上の何者かになろうとする必要はありません。最も大事なルールは、自分に対して正直になり、自分はどこかに行かなければならないといった考えを持たないことです。「Bloom where you’re planted(植えられた場所で花を咲かせなさい)」。たとえどこにいようとも、どこに行こうとも、そこにいるのはあなた自身です。自分の目標を達成するために自分を新たな環境に置いたとしても、そこにいるのはあなた自身であり、スキルも才能も、ハンディキャップも短所も全て同じです。自分という存在から完全に自由になることはできないのですから、自分の心を動かすもの以上にやるべきことなどあるでしょうか?自分がやることに集中し、自分の心にしっかりと耳を傾けてください。そして、自然とつながることです。

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日本の課題はどこにある?

Q:他国で開催しているSustainable Brandsと比較して感じる日本の特徴は?

まず断っておきたいのは、ここ日本は言語の壁が世界のどこよりも大きいので、私自身が全てを深く理解することはいささか難しいという点です。そのため、私の視点はいくつかの会話と一般的な観察に基づく限られたものとなります。日本はこの分野で遅れをとっていましたが、いまではとても早いフォロワーになっています。日本の人々はグローバルな舞台でも並外れた仕事をできるということです。(サステナブル・ブランド国際会議が日本で初めて開催されたのは3年前ですが、)今回のイベントも、これまで8年間にわたって世界中で開催してきた会議の中で恐らく二番目に大きな規模となります。アメリカを除けば、日本とブエノスアイレスが最大の規模となります。

Q:日本はオペレーションが強い一方、ビジョンやパーパスを掲げるのが苦手という意見も聞きますが?

それについては異議を唱えたいですね。私がはじめて日本に来たとき、日本の企業には100年、500年、1000年と続いている企業があることを学びました。なぜそれだけ長きにわたり存続できるのか。これらの数百年にわたり永続している企業へのリサーチに基づいて分かったことは、彼らにはずっと保持し続けているコアなパーパスがあるということです。また、彼らはそのパーパスを大事にしつつも、社会の変化に対してイノベーティブに対応してきました。日本は、そうした文化的なコンピテンシーを持っているのです。

Q:今回の会議に参加して、日本企業に足りないと感じるところは?

そうですね、他国で開催している会議と比較して、今回の会議ではリサイクルの取り組みについて大きな進展が見られました。一方で、ストーリーテリングという点についてはまだ改善の余地があると感じました。

当日の会議の様子

よい未来は、選択するもの。

Q:最後に、読者に対してメッセージをお願いします。

私は未来に対してとてもワクワクしています。私からのアドバイスは、Choose hope(希望を選ぶ)ということです。希望とは選択であり、ディシプリン(自ら鍛えるもの)なのです。私たちは自ら描いた未来を創るのであり、もし私たちがディストピアで希望のない未来について考えることに時間を費やしていれば、実際にそのような社会を創ることになるでしょう。私は、そのような考えに決して時間を使いたくありません。ぜひ、美しい未来を思い描くことを選択しましょう。私たちはきっと実現できるはずです。

編集後記

インタビューを通じて特に印象に残ったのは、コーアン・スカジニア氏の包容力のある温かい人柄と、常に明るい未来を描こうとする前向きな考え方、そしてパーパスに対する真摯な姿勢だ。

見せかけのパーパスではなく、自分の心の内から出てくるパーパスを大事にし、企業や人々が持つ可能性を信じて真摯に取り組む。そんなコーアン氏だからこそ、これだけ多くの仲間を集め、多くのコラボレーションを生み出し、ポジティブな変化を起こすことができているのだろう。まさに同氏自身が、真正なパーパスを掲げて努力することの重要性を体現していると感じた。

いま、私たちは多くの社会・環境課題に直面しており、ニュースなどで目にする悲劇的な状況に心を痛めることも多くある。しかし、大事なのはそのような環境のなかでも自分ができることの可能性を信じ、自分なりのパーパスを持って前向きに取り組んでいくことだ。

Choose hope(希望を選びなさい)。この温かいアドバイスを胸に、ぜひあなたも明るい未来を創るという選択をしてみてはいかだろうか?

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