NZの地域をつなぐフェスティバル「StreetPrints」。ストリートアートが街に与えるインパクトとは?

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「芸術のための芸術(L’Art pour l’art)」という言葉を聞いたことがあるだろうか。これは19世紀初頭にフランスで広まったとされる言葉で、アートそのものに絶対的価値を置くというものだ。アートはすべてのものから完全に自立しており、芸術の価値を純粋に受け手の視覚や聴覚などの芸術的感覚に訴えかけねばならないことを意味する。

アートそれ自体に価値を見出すことを否定はしないが、人々の感性を刺激できるアートの力を、何か社会のために役立てることはできないだろうか。最近では、アートを使ったソーシャルグッドな活動を耳にすることが多くなってきた。

そんなアートの中でも、ストリートアート(グラフィティアート)は人目を引く公共スペースにメッセージを残すことができる。著者が住むニュージーランドでは、数多くのストリートアートフェスティバルが開催されており、それぞれのアーティストがさまざまな想いを公共の場に残そうと活動している。

今回は、地域に着目したフェスティバル「StreetPrints」の主催者であるJah Smith氏にStreetPrints創設のきっかけやストリートアートが地域に与える影響についてインタビューをした。

インタビュー風景

左:共同創設者のLovie氏 右:創設者のJah Smith氏

StreetPrintsの根本にあるのは「コミュニティ」や「人」

Q: StreetPrintsを創設したきっかけを教えてください。

StreetPrintsは元々、2014年にストリートアーティストが自身の作品を販売するためのプラットフォームとして動き出したものです。アーティストの作品を販売し、数多くのストリートアートフェスティバルに参加していく中で「こんなフェスティバルを自分たちの生まれ育った場所でも開催したい」と、思うようになりました。

そして、2015年に私が育った地元、ニュージーランドの北東部にあるTauranga(タウランガ)で初めてのストリートアートフェスティバル「StreetPrints Mauao(マウオ)」を開催しました(マウオはタウランガにある山の名前)。そして2017年には同じくタウランガとニュージーランドの主要都市であるChristchurch(クライストチャーチ)で、2019年には北部に位置するWhangarei(ワンガレイ)でStreetPrintsの開催に成功しました。

StreetPrintsでは、単に公共の場に芸術を残す役割だけではなく、参加アーティストの作品の展示会、アートに関わるワークショップやメンタリングプログラムも取り込み、地元の人々を巻き込んだものになるように工夫しています。

Q: StreetPrintsを通して伝えたいメッセージはなんですか?

StreetPrintsではストリートに足跡を、壁画を残すことを目的としています。

フェスティバルの名前には、毎回“StreetPrints”に加えて、開催地域の地名や地域の人々に関わるテーマを、ニュージーランドの先住民族の言語であるマオリ語でつけています。開催される地域によってそれぞれ伝えたいメッセージは少しずつ変わってくるのですが、その根本にあるのは「コミュニティ」や「人」に関するものです。

たとえば、2017年にタウランガで開催したフェスティバル「StreetPrints mauao」では、「’HE AHA TE MEA NUI O TE AO. HE TANGATA, HE TANGATA, HE TANGATA.(私たちにとっていちばん大切なものは?それは人々だ)’」がテーマとなっています。壁画は、このテーマに沿って作られたものです。

ストリートアート

FinDac StreetPrints mauaoより

ストリートアート

Claire Foxton StreetPrints mauaoより

ストリートアートの創作に関わることで自分が地域の一部となる

Q: フェスティバルでのメンタリングプログラムなどについてもう少し詳しく教えてください。

メンタリングプログラムは、プロのアーティストと一緒に地元の若者たちが作品制作に携わることにより、若者たちがプロのアーティストからアートを学ぶ機会を得ることができます。そして地元に残る作品に自分自身が関わることによって、アートに対して単に「プレゼントされた」のではなく「自分も関わったもの」という気持ちになってもらい、地域への愛着を持ってもらうことにも繋がっています。

ワークショップは、私たちから地元へのプレゼントとして無料で開催しており、文字を美しく見せるためのカリグラフィー講座やスプレーでの絵描き講座などさまざまな企画があります。ここでもプロのアーティストが講師となり、彼らから直々にアートを学ぶことができる貴重な体験を提供しています。

ストリートアート

メンタリングプログラムの様子

また、フェスティバルに参加してくれたアーティストたちへの感謝の気持ちとして、ニュージーランドの文化を体験してもらうツアーの提供もしています。もちろんフェスティバルを開催する上で、彼らには報酬を支払ってはいますが、彼らの貴重な時間を割いてもらっているので、このツアーをとおしてアーティスト同士や地域との絆を深める貴重な経験をして欲しいと考えています。


StreetPrintsによるツアーの様子

地域を色鮮やかにし人々を繋ぐストリートアート

Q: なぜストリートアートを使うのか。

ストリートアートは、公共の場に作られるという特性上、人々の目を引くことができるものです。そのため、アートという創造的な力でメッセージを訴えることができ、かつアートと人々を繋ぐことができるユニークな方法でもあります。ストリートアートは、その地域を色鮮やかにし、地域の人々を繋ぐ役割を果たします。

何より、私と共同創設者のLovieはストリートアートが大好きで、参加してもらっているアーティストたちのファンの1人であり、ストリートアートに魅せられてきた人間です。私たちは、ストリートアートの力を信じています。

Q: 今後、日本など国外でのStreetPrintsの開催も計画していますね!

これまでStreetPrintsはニュージーランド国内のみで開催してきたのですが、国外にもストリートアートフェスティバルを持ち込みたいと思っていました。ただ、地域との繋がりを大切にしているので自分たちと馴染みのない場所で急にフェスティバルを開催することはしたくなかったんです。

日本に持ち込もうと考えたのは、これまで開催してきたStreetPrintsにビデオグラファーとアシスタントとして参加してくれていた柳田好太郎くんと井上龍馬くんから「日本でやってみたら面白いと思わない?」と、話を持ちかけてもらったことがきっかけです。

私たちの開催してきたStreetPrintsでは、今までにいくつものマオリ族に関わる壁画が作られ、StreetPrintsの名前やテーマには、毎回マオリ語が使われてきました。そこで、ニュージーランドの先住民のマオリ族と日本の先住民であるアイヌ民族でコラボすることができたら面白いのではないかと考えたんです。

CREATIVE NZという団体からの助成金でアイヌの地である北海道へのリサーチに先日行く機会がありました。リサーチでは、アイヌ民族に関わりの深い平取町や白老町、苫小牧市を訪ね、実際にアイヌ民族の方々にお会いし、地域の人との対話をすることもできました。立地や規模の関係から、現在は苫小牧市での開催ができないかを検討しながら動いています。

インタビュー後記

日本ではまだまだ違法なものとして認知されがちなストリートアート。しかしニュージーランドでは、そんな違法性のあるものから「アート」として徐々に確立されつつある。そして、それはただのアートに止まらず、コミュニティーや人に変化をもたらすものとして期待されている。

メンタリングプログラムでは若手のアーティストの育成に大きな影響をもたらす。公共の場づくりに地元の人たちが関わりアートを作り出すことは、アートを単なるアートではなく「職業としてのアート」そして「街を彩るポジティブなもの」として認識を高めることにも繋がっているのだ。

著者自身、過去2回のStreetPrintsに関わる中で、町民からは「街が鮮やかになった」「街角を曲がるたびにワクワクする」など、多くのポジティブな声を聞いてきた。マオリ族が描かれた壁の前で、親が子どもたちにマオリ族の歴史を語る場面を見かけたこともある。

人目につきやすい公共の場所に作るアートが人々に与える影響力は大きく、こうした文化が日本に広がる日が待ち遠しい。北海道でのStreetPrints開催に向けて尽力をしていく。

【参照サイト】StreetPrints
【参照サイト】CREATIVE NZ
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動画/画像提供:Yoshi Travel

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